テラーノベル
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本作品には一部、軽微な暴力描写・浮気表現が含まれております。こうした表現が苦手な方は、ご自身の判断で閲覧をお控えいただけますようお願い申し上げます。
互いの忙しさなんて百も承知の上で、こんな関係になるずっと前から分かっていた。それに、どちらか片方が多忙なら合わせようがあるものの、それが両者となれば物足りなくなるのは当たり前のことで。でも、それでもあいつが好きだった。セックスだけが全てじゃない。傍にいれる、声が聞ける、言葉を交わせる、それだけで幸せだった。おまえは?と問いかけるように目を向けると、いつもふわふわとした笑みを浮かべる涼太が、気恥ずかしくて言葉にはできないけど、愛おしくて大切で大好きな存在だった。
それなのに、そのはずだったのに。いつからだろう。涼太を見つめるその度に心に猜疑心が灯るようになったのは。
控えめな音量で付けられたテレビが静寂を掻き消しても、リビングに漂う重たげな空気は紛らわせていないままで自分の家のはずなのにどこか居心地が悪かった。ダイニングチェアに座ってスマホを見ている涼太の姿を、少し離れたソファからそっと伺う。いくら恋人とはいえ、毎分毎秒傍にいてくっついているわけではない。二人ともそういうタイプではないし、俺達はもうそんなに青くもないから。
普段ならSNSを見ているこの時間、俺は涼太から目が離せなくなっていた。今日は雑誌の撮影だったらしくメイクはそのままで、手元を見つめる黒い瞳と瞼に乗せられたアイシャドウが艶がかった白い肌に映えている。今までなら、そんな涼太の姿を見た途端に癒えていった疲れも俺の中に腰を据えたままで、追い打ちをかけるようにじんわりと黒く靄がかかった感情が俺の心を覆っていった。
SNSをあまり見ない涼太が長時間スマホに向き合っているなんて珍しい光景を見ても、今までは仕事の連絡だろうとスルーしていた。元々そんなに嫉妬深いタイプでもなければ、束縛もするほうじゃないし。でも、今は”嫉妬”とかそういう問題じゃなくて。
渡「涼太。なにしてんの」
舘「……ん、仕事の連絡。確認してただけ」
ダイニングへ移動する足取りが重いのは、その先にある涼太の本音から逃げたい思いの現れなのか。いやでも、まだそうだって決まったわけじゃないだろ。まだ、決まったわけじゃ……。
俺が涼太の背後に回るよりも先に、涼太はスマホを伏せるようにしてテーブルに置いた。その手元に後ろめたいことがあるような焦りは見られず、心に安堵が滲み出た。両腕を巻き付けるようにそのまま涼太を抱き締めると香り立った嫌悪感が鼻を掠めて、顔を見られない体勢なのを良いことに俺は感情のままに顔を歪めた。
舘「なに?急に」
渡「涼太さ、香水変えた?」
舘「え、香水?変えてないけど」
渡「……最近の涼太、俺の知らない匂いがする」
そう言いながら涼太の首元に顔を埋めると、胸の奥を抉られるような感覚に駆られた。サンダルウッドなんて、涼太の好みじゃないでしょ。分からないせいで辛いことなんて世の中には山ほどあるんだろうけど、今は涼太を分かってるせいで辛い。
離したくなくて、離れてほしくなくて必死に涼太を抱き締めると、そんな俺を皮肉るようにその香りは強く立ち上った。虚像の男を睨みつけた目蓋が無意識に痙攣する。俺にこんな感覚をさせるのは、後にも先にも涼太だけ。
渡「俺の匂い、付け直してやるから。今日は大人しく抱かれて?」
舘「……いいよ」
息が詰まって呼吸も時間も、その一瞬、俺に関わる全てが止まった。横顔を覗いていただけだから確かなことは分からない。俺の見間違いというか、被害妄想みたいなものかも知れない。心がザワザワとした不快な感覚に堕ちる。見たことのない涼太のその表情が、一瞬だったというのに脳裏に強く焦げ付く。
こいつ、今、笑ってた?
◇
紺色のシーツと俺の間に挟まれて必死に息継ぎをしながら、深いキスに溺れていく涼太を俺は薄く開いた目で見つめた。既に汗ばんでいる白い肌と酸欠で浮かんだ涙がどうしようもない美しさを醸し出している。
こいつを覆っている幕のその中身がどんな色をしているのか知りたくて、閉ざされた本音の隙間を狙うように俺は涼太を酷く荒らした。奥へと逃げるように引っ込む肉厚な舌を無理矢理絡め取って、付け根から先まで一滴も残さず搾り取るように貪る。
どこまでも酷く、暴力的なキス。酸素も自由も奪われて、それでも尚、涼太は恍惚とした笑みを浮かべた。
渡「苦しいの、ほんと好きだね」
舘「っはぁ、っぁ、いいでしょ、別に」
渡「……腰、浮かせて」
カチャカチャと音を鳴らしながらベルトを外して、ズボンと下着を浮かされた腰から抜き取る。裸になったそこはもう既にじっとりと濡れていて、脱がせた下着には若干の染みができていた。
渡「なに、キスで興奮して我慢できなかった?」
舘「……いいから、はやくしろよ」
渡「っは、随分と言葉遣いの荒い国王だな」
ベッドサイドの棚からローションを取り出して指先に冷たく粘着質なそれを絡めていく。久々だから、ゆっくり解かさないといけない。煽るような視線を浴びせ続けられて確実に我慢は限界へと近づいている。けれど、だからといって涼太を傷つけたくなんてなかった。
ローションで十分に濡れた指先を一本ずつ、ひくついている後孔へゆっくりと沈めようとしたその時、俺の思考にポツリと違和感が浮上した。……なんか、緩くね?
恐る恐る、でもそれを確かめるように指を進めると、そこには明らかに近頃何かを咥え込んだ痕跡が残っていた。ぶわりと先程の不快感が再び立ち上る。だんだんと色濃くなっていくそれを掻き消すように、締め付けの緩慢な涼太の中へ無遠慮に三本の指を挿れて暴れさせた。真っ黒な愛情とどろりとした憎悪が混ざり合い溶けていく。あぁ、もう、この美しくて穢れてて酷な涼太をこの手で壊してしまいたい。
舘「っぁ、急にっ、っぁんぅ゛、激しっ」
渡「なぁ、なんでこんなガバガバなんだよ。もう一ヶ月はしてないっていうのに?なぁ涼太?」
舘「ぁ゛っ、おもっ、ぁあっ゛玩具っ、使ってたから゛っ、っく、んぁっ」
なんだ、玩具か。そうか、そうですか。この数ヶ月間徐々に顔を出した不安感も、涼太の首筋から香る知らない匂いも、白い内腿にある付けた覚えのない噛み跡も、全部俺の勘違いなのか。
そうして自棄を起こしたように、喉元に残る不信感も一緒くたに飲み込もうとしたその瞬間、ぐちゃりとした何かが涼太の中で指先に触れた。一瞬で身体が冷えて、思考が真っ黒に染まっていく。いやいや、ほら、ローションじゃね?と自分で冗談めかしたものの、そんな俺を否定するようにそれは生ぬるく指先へと纏わりついた。裸体の背筋を嫌な汗が伝い、脈拍は乱れてぐしゃぐしゃになっていく。
ショックのあまり焦点がズレたのか、ぼやけていた視界が段々と戻ってくる。俺の瞳に映った涼太は……、
渡「……は?」
歪んだ微笑みを浮かべていた。
バチンッと寝室に響いた痛々しい音でハッと意識が戻っていく。目の前にはじんわりと赤く染まり始める頬に手を添えて、その薄笑いを浮かべたまま俺をじっと見つめる涼太がいる。俺の指先は、身に覚えのない白濁で染まっていた。コマ送りでもしたかのように記憶がない。それに、いつの間にか自分の身体が言うことを聞かなくなっていた。本能に呑まれた思考は、呆気なく理性から乖離していく。
渡「お前、何した?」
舘「……顔は、商売道具なんだけど」
渡「何したかって聞いてんだよ」
舘「ぅ゛っっ゛、かはっ……っはぁ、っは」
苦しそうにシーツの上で腹を抱えて蹲る涼太の姿を見て、愛してると同時に死ねばいいと思った。それが浮気相手へ向けた感情なのか、それとも涼太へそう思ってしまったのか、今の俺には分からない。それでも、本気でそう思ったことだけは事実だった。
自分の膝で涼太の完立ちしたソレを押し潰していく。重たい吐息と堪らないような喘ぎ声が漏れ出す首を片手でぐっと絞めると、涼太の身体がビクビクと震えて膝が濡れた感覚がした。目線をそっと落とすとそこには想像通りに白濁が舞っていた。緩んだ俺の手元をぼんやりと見つめる涼太の瞳は、物足りなさそうに光を沈ませている。
渡「首絞められて、ちんこ潰されて、感じてイっちゃったわけ?」
舘「っはぁ、っぁ、ごめ、っ、っふ、ぁ゛、しょ、うた……」
渡「『ごめん』じゃねぇだろ」
舘「ごめ、っなさ、っは、あぁ゛ぅっ、っん゛、っく、んぁ゛」
涼太は俺のものなのに。ずっと、ずっっと前から、一緒にいるのに。友達なんかじゃなくて、メンバー以上で、恋人なんて言葉じゃ窮屈なくらい近くいるのに。どうして他の男なんて、俺よりも悪い方を選ぶんだよ。おい、涼太、答えろ。なんで、どうして。
涼太の身体が逃げようとするせいで、シーツが波模様のように歪んでいく。複雑で入り組んだそれが俺達の関係を現してるみたいに思えて、少し笑えた。
なぁ、ただの幼馴染なんかじゃないだろ。もうとっくに、元に戻れないくらいまで俺達は歪んでる。
渡「俺以外じゃ駄目になるように、ちゃんと覚えさせてやるよ」
舘「……翔太」
艶やかに目を細めるその顔も、俺の手で搾り取った喘鳴も、奪われたくない。涼太の一部は俺の一部で、俺の全部は涼太の全部なんだから。
◇
俺の幼馴染は、所々適当で陽気で、とにかく顔がいいから昔から女性によくモテて、なんというかチャラい。それでも意外に綺麗好きで情に厚くて優しくて、あたたかい人だった。ひとつ欠点があるとすれば、
渡「っは、涼太、お前は俺のもんなんだよ、ちゃんと理解しろっ」
舘「っぐ、ぁぅっんん゛っ、しょ、たっ、ごめ、らさっ、あ゛ぁ、っん」
俺なんかにハマってしまったこと。
可哀想な翔太。だけど、手放してなんかやんない。だって翔太は俺のだから。
舘「しょったぁ゛、首、も、いっかい、絞めて」
渡「……お前、なんで浮気なんかしたんだよ」
そう言う翔太の顔は仄暗くてどこか寂しそうで、いつもの余裕なんてどこにもなかった。あぁよかった、ちゃんと傷付いてる。俺を責めるような瞳でじっと全身を見つめてくる翔太に燻っていた熱が煽られる。高ぶった欲のままに自ら腰を動かすと、中に入っている翔太のそれがいいところに当たって、思わず身を捩った。
正直、翔太以外とのセックスなんて気持ちよくなかった。それどころか不快しか生まれなかった。薄い膜も無しに直接注がれた熱も、他の男を彷彿とさせる煙草や香水の匂いも、全部翔太に気付いてほしくてやった。それが上手くいったというのだ。口角が上がってしまうのも無理もない。
俺も翔太も仕事が忙しいのは最初から分かっていた。けれど、俺から離れていく度に”皆のもの”になっていく翔太を取り返したくなった。好きだから、愛しているから、すぐ傍に留めておきたくて。それだけだった。他でもない翔太だけが欲しかったのだ。翔太の目線が、声が、心が、身体が、愛が、足りなかった。
舘「んっ、ぁ、浮気、っん、怒って、る?」
渡「怒ってるっていうか、……いや、怒ってる」
舘「っぁ、ふ、んっ、じゃ、あ、おれのこと、嫌い?」
「はいそうです」と言われたらどうしよう、なんて不安は微塵もなかった。翔太は俺のもの、俺は翔太のもの。それは誰にも触れさせない神域で、ふたりだけの秘密のようなものであった。
このままでは溺れて死んでしまう!そう思って見えない海の底へ目を向けると、翔太は俺の手を離さずにじっと虚空を見つめている。俺が光輝く水面へ上がろうとしても、離さない。待て、俺の見ている”これ”は本当に俺なのか?いま手首を掴んでいるのは、翔太じゃなくて俺?そうやって自認も意識も思考も蕩けて混ざり溶けて、俺達は曖昧な存在になって溺れて死んでいく。
互いが互いに盲目で、傲慢で、どうしようもなく依存している。そんな馬鹿げた行為を自覚しながら、俺達は馬鹿になって踊り尽くす。だって、これが心地いいから。今更足掻いても、抜け出せないから。
渡「……死ねばいいと思った」
舘「そう。でも、嫌いにはなれないんでしょ?」
翔太はなにも答えてくれなかった。沈黙は肯定の証。いくら馬鹿でもそのくらいは分かる。翔太の腰に足を蔦のように巻き付けると、止まっていた律動は再び脈を打ち始めた。本能と本能がぶつかり合っては、削れて欠けて麻痺していく。それだけのことがなんでこんなに気持ちいいんだろう。
舘「っあ゛っんっん゛ぅぅっ、ぁうっ、っがぁぅ゛しょた゛、しょったぁ゛」
渡「……なに、舘さん」
俺の身体のことなんか全く気を遣わず、腰を無遠慮に掴んで奥深くへと熱を打ち付けてくる。火照った身体に浴びさせられた冷たく鋭い言葉が身体中に突き刺さった。痛くて、辛くて、気持ちいい。
快楽と手放したはずの僅かな理性の間で顔を歪めると、翔太は再び俺を仕留めにかかってきた。翔太の手に憎しみが籠もって酸素が薄まる度に、俺の頭の中は翔太だけになっていく。首に手の跡が残ったらどうしようだとか、明日はラジオの収録なのに声が枯れてしまうだとか、そんなことはどこかへと霧散して儚く消えていった。
手の力が抜けて離れていくと、ジュッと首筋に熱が込められて小さな花が咲いた。何度も、何度も、何度も、何度も。物わかりの悪い子供のように、執拗に。首筋だけでは収まらなかった翔太の愛が全身に刺されて、俺の身体には満開の花が咲き乱れた。
舘「っん゛、しょうたっ、っはぁ、おれ、っしあわ、せ……」
渡「誰に幸せにしてもらってるのか、ちゃんと覚えとけ」
舘「しょた゛、しょうた、だけっ、すき、すき、っんん゛ぁっ」
渡「当たり前だろ。最初から涼太には俺しかいない、この先もずっと」
このまま共に堕ちて、ふたりで散りゆくときまで。ずっと。
コメント
6件
本当に本当にどストライクの作品をありがとうございます😭
あ~~~😭😭😭😭 共依存歪み愛最高です😭😭😭😭😭
リクエストありがとうございました! いつも作品を拝見させていただいてますが、自分の予想の斜め上の上をいく作品で最高でした! こんなに愛と憎しみの混じった作品はなかなかないのでうれしいです! また機会があればリクエストします ありがとうございました!