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エレベーター前で尊さんと合流すると、いつもより近い距離で並んで立つ。
互いの体温を感じられるほどの距離感。心臓の鼓動が早まっていく。
エレベーターが地上階に到着し、尊さんが先に降りる。
その後に続く俺の足取りは少し速くなっていた。
ビルの玄関を出ると、夕暮れの街にオレンジ色の光が差し込んでいた。
7月の空気は生暖かく湿り気を帯びている。
「タクシー拾うぞ」
尊さんの言葉に頷く。
歩道に出るとすぐにタクシーが停車してくれた。
ドアが開き、尊さんが先に乗り込む。続いて俺も身体を滑り込ませるように後部座席に座った。
数十分後──…
タクシーを降りると、夕闇が深まりはじめた空気が肌にまとわりつく。
手のひらに汗がにじむ。
犯人逮捕の安堵感と、これから起こることへの期待。
二つの感情が心の中でせめぎ合う。
自動ドアを通って中に入ると
エントランスホールは柔らかな照明に包まれ、大理石調の床に足音が吸い込まれていくようだった。
エレベーターのボタンを押す尊さんの横顔を見上げながら、早く尊さんに抱かれたいと体が疼いていることに気づく。
チン──……
扉が開くと同時に二人で乗り込んだ。
「あの……」
閉まるドアを背に尊さんに小声で話し掛ける。
「SM…のことで、変態…って思われるかもしれないんですけど…ハードなやつでも、聞いてくれますか…?」
尊さんがこちらを見る。
エレベーターは沈黙した箱のような空間で、その目はどこか優しくて挑発的だった。
「どんなのだ?」
俺は顔を赤らめながら言った。
「その…拘束されたままとか……他にも…その、酷くされたいなっていうのがあって…」
言葉を切りながらも尊さんの反応を見る。
すると彼の目に宿った情熱的な輝きが見えた瞬間──
エレベーターが目的の階に到着した音が響いた。
尊さんが軽く笑いながらドアを開けて先に出る。
「お前が変態なんて今に始まったことじゃないだろ?」
廊下を歩きながら彼の言葉を反芻した。体中の血液が沸騰するような感覚と共に何故か喜びが押し寄せてくる。
「わ、分かってるならいちいち言わないでくださいよ…!」
尊さんが自宅の鍵を取り出し回す音が鳴ると同時に
期待で胸が張り裂けそうになった。
ドアノブが下がり玄関扉が開かれる。
すると
室内灯が点いて広がる景色を見渡す余裕もなく、玄関先で抱き寄せられ唇を奪われた。
「……んっ」
驚きで目を見開く間に舌先同士触れ合い深いキスへと変わる。
呼吸も忘れるほど濃厚なものに変わる頃には全身の力抜けて膝折れそうになるほど感じ入ってしまった──
そんな自分を支えるよう背中に添えられた大きな手から伝わる愛情深さこそ
最高級スパイスとなってさらに欲望掻き立てる結果となり果てた。
尊さんの手がTシャツの下から忍び込んでくる。
「あ……」
腹筋を撫でるように指先が這う。
それだけで震えが走る。
「ちょっ…尊さん……待って……」
首筋に尊さんの熱い吐息がかかり、思わず背筋が弓なりになる。
「んっ……」
壁に押しつけられたまま尊さんの手が脇腹から胸元へと上ってくる。
「さ…先にお風呂入らせてください……」
弱々しく訴えかけると、尊さんの動きが止まる。
「…じゃ、一緒に入るか」尊さんが耳元で囁いた。
その低音が頭の芯まで染み渡る。
「い、一緒に……ですか!?」
思わず大きな声が出てしまい慌てて口を塞ぐ。
「何回か入ってるだろ、そんな驚くか?」
「た、尊さんの全裸は何度見ても慣れないです……っ、は、恥ずかしいですし…!」
抗議しようとするも尊さんの舌先が首筋を這い上がる。
「ひゃっ……」
「お前も限界だろ?」
尊さんの熱い瞳に見据えられると否定できない自分がいる。
身体の中心ではもう硬くなり始めたものが主張し始めていた。
「それは……まあ」
それに気付かれたのか、尊さんの目が僅かに細められた。
「じゃあ、とっとと入るぞ」
尊さんが優しく笑う。
「うぅ……やっぱり恥ずかしいんですけど……」
顔を真っ赤にして俯きつつも頷くしかなかった。
◆◇◆◇
尊さんの腕が背中に回されそのまま持ち上げられるようにして浴室へ向かう。
ドアを開けるとモダンなタイル貼りの空間が現れる。
洗面台やガラス戸越しに見える浴槽。
尊さんが先に浴室へ入り湯船にお湯を溜め始める。蛇口から溢れる水音だけが響く中で俺も後に続いた。
湯気で満ちた浴室に、シャワーの音が響いていた。
先に尊さんが泡を流し終え、湯船にゆっくりと浸かっていく。
「ほら、来いよ」
言われるままに俺も体の泡を流し終え、尊さんに続いて湯船に入る。
透明な水面が波打ち、お湯が溢れて排水溝へと流れていく。
広めの浴槽とはいえ、成人男性二人で入れば当然狭くなる。
背中を壁に預けた尊さんに対して、俺は彼の股の間に入れられるような形になっていた。
「ここ、落ち着きます……」
「そうか?」
尊さんの腕が自然と腰に回り、引き寄せられる。
肌と肌が直接触れ合い、俺の背中には尊さんの胸板が当たっていて
湯船の中でさえ感じるその逞しさに、鼓動が速まる思いだった。
◆◇◆◇
入浴を終え、お互いの髪を乾かし合った後。
俺は密かに持参していたものをバッグから取り出していた。
尊さんが用意をしている間に、脱衣所でそっと着替えた。
それは肌にぴったりとフィットするタイプの紐パンだった。