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スマホの画面をぼんやりと見つめたまま、なるせはソファに横たわっていた。
何度か通知を確認しては、ため息混じりに画面を伏せる。
「…はぁ……今、なんしてんのやろ……」
無意識にぽつりとこぼしたその言葉に、自分で少し照れて、眉間を寄せてクッションを顔に押し当てた。
さっきまで同じゲームをしていたはずなのに、急にログアウトして…
「寝たんかな、…でも何も言ってくれんかったし……」
かといって、「今なにしてる?」なんて聞くのはなんか必死みたいでイヤで。
でも気になる。気になって仕方がない。
何回目かの通知確認のあと、なるせはそっとスマホを握りしめて、小声で言った。
「……おれのこと…もっと気にしろよ……」
メッセージアプリのトーク画面を開いたり閉じたり、指は何度も文字を打っては消していた。
「今なにしてる?」――その一文が、なんでこんなに重たいのか、自分でもわからない。
バレたって別に悪くはないのに、そう思いながらも指は止まったまま。
…でも。だって。
「……うざいとか、思われたら……おれ…」
ポツリと自分に言い訳するように呟いて、またスマホを伏せる。
けれどすぐに我慢できなくなって、もう一度画面を覗き込んだ。
すると――
「ごめん、ちょっと落ちてた。 今、何してる?」
という通知がぽんっと届いて、なるせの指がぴくっと跳ねた。
「……え……」
思わず口元がゆるんで、顔を真っ赤にして画面を見つめる。
(うわ……俺が気にしてんのバレバレじゃね……)
だけど、もう止まらなかった。
すぐさま指を動かして、「なんもしてない」って返しかけて、でもやめて。
『なんで落ちる前に言わないの』
それだけを送った。
拗ねたような文面のあと、さらに間を置いて、続ける。
『何してんのか気になってたんだけど』
送ってしまったメッセージに、なるせはスマホを投げ、クッションに顔を突っ込んで、また やるせない気持ちに溺れる。
「……もぅやだ……」
その言葉とは裏腹に、本当は返事が待ち遠しくて仕方ない自分もいて、一層嫌になる。
その数分後――画面が明るくなって、通話の着信が表示された。
着信:【らっだぁ】
「……うぁ……」
反射的にクッションに顔を埋めながらも、迷ったのはほんの一瞬。
結局、スマホを手に取り、そっと通話を取る。
「……なに」
「なに、じゃないよ。俺のこと、気になってたんでしょ?」
らっだぁの声は、どこか笑っているようで、でもやわらかくて。
なるせの心の奥が、じわっとほどけていくのがわかる。
「……だからって電話はとか、お前…」
「いや、かわいかったから」
「は…?」
「“気になってた”って。ちゃんと言えたじゃん笑、えらい」
「……っ…うざ」
なるせの耳は真っ赤だった。
それに気づいていないわけがない。電話越しでも、声のトーンが少しだけ上ずってるのはバレてる。
「ちゃんと構うから。 なにしてほしい?、まぁ電話越しだけどさ笑」
少しの間のあと、ぽつりと返る声。
「……なんでもいい。話、して。…お前の声、聞いてると安心するし」
「おぉ〜笑、…いいよ」
優しい吐息みたいに笑ってから、らっだぁはゆっくりと話し始めた。
「今日ちょっと忙しくてさ……でも、家帰ってきてからは、ずっとなるせのこと考えてたかもしんない 」
「…………」
「なるせの声、聞けてよかった。拗ねてんのもほんと可愛いわ」
「……そんなん言うな」
「…言うよ。……かわいいって、思ったことはちゃんと言う」
「…おまえ…そういうとこやぞ、ほんま… 」
それでも、なるせは電話を切る気はなかった。
らっだぁの声が耳に響くたび、胸があったかくなっていく。
通話の向こう。らっだぁが少しだけ、 小さく息をついた。
「今日、そっち行ってもいい?」
「……え?」
「やっぱ、“声だけじゃ足りん”って思って笑」
「…………来れば」
「うん。じゃあ、行くわ」
なるせはスマホを胸に抱えたまま、布団の上で小さく丸まった。
(……ほんと、何でもお見通しとか……ずるいだろ…普通に…)
でも、それが嬉しくて仕方なくて、やっぱり声に出せないまま、頬が緩んだ。