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気がついた時は見知った部屋だった。
「起きた…?」
そう優しく問う赫がいた。
「無理に起きなくても大丈… 」
不安そうな顔をした翠もいた。
「…ッ 」
俺は辺りを見渡し桃がいないことを確認すると同時に“行かなきゃ“という使命感に襲われた。
「桃はどこ…ッ!」
驚いた表情をした2人がいた。
「おまッ“」
慌てて止めようとする赫、
でもそんなこと気にしてられない。
俺は慌てて学校に戻った。
「…ハァッ…ッ“ハァッ…ッ“」
息を切らして走った後、夕暮れ時、オレンジ色に染る教室内に1人残った桃がいた。
「来ると思ってた。」
そう桃が微笑んだ。
お互い沈黙が続く中、その沈黙を破ったのは俺だった。
「この前のこと、いいよ、 」
桃は驚いた顔ではなく、納得した顔をした。
「…ならキスして。」
これがお礼になると、恩返しになるというには重すぎるかもしれない、
でも、
薄暗くなった教室に1つのリップ音が鳴り響いた。
「はッ」
運良くそれを見る人がいた。
赫だった。
それを広めてくれればいい、
「…お前、桃のこと…ぇ?」
あとから駆けつけた翠が困惑している赫を見て疑問そうに見ていたが、
「…?ならもう1回しとく?」
と普通な顔で桃がそう言う。
翠と赫が驚いた顔をしていた。
桃が受け入れていた。
再び教室内にリップ音が鳴り響いた。
そして
シャッター音が聞こえた。
もっと違う方法があったかもしれない。
でもそれは、今更考えても遅い。
これでよかったんだ。
これが桃を助けるに1番都合がいいから。
「どういうことですか、これをマスコミに見せたらどうなるか分かっているのですか。」
そういつとは違う低い声で瑞が言った。
当然だ。
俳優とはいえ演技ではないキスなど、
恋愛など、良いものではないかもしれない。
でも、桃は。
「…じゃあ紫行こっか。」
そう微笑んだんだ。
あぁ、そうだ。此奴は昔からそうだった。
未来を見透かした行動を良くしてきた。
瑞はこの後事務所にそれを提出して、
報道局に流され、酷く叩かれる。
桃はその未来が見えているのだろう。
そしてこの後起きることも。
静かに扉を開ける音が響いた。
報道番組の音が聞こえた。
<桃さんが学園内の者と恋愛関係に____
そんな報道を。
「…母上。」
そう桃が言うと、
鋭い目つきでこちらを向く女性。
「俺はこの人と付き合います。」
「だから俳優活動を辞めます」
あぁ、本当は怖いんだろう。
俺の手を握る手は震えている。
なのに、演技を絶やさない、
微笑みを消さない。
さすが、と言うには充分すぎるくらいだ。
きっと桃にとっては今、未知の世界。
恐怖の時間は、思考を鈍らせてしまうから。
でも、
“いいわよ。”
そう軽く承諾された。
その言葉に思わず桃が“えッ?“と聞き返した。
“だってもう用済みだから。“
“うちの子ではないから、さよなら。“
そう言い捨てた。
桃は、少し考えた素振りをしてから、
黙ってその場を後にした。
少し離れた場所で俺は立ち止まり桃に聞いた。
「良かったのか?」
そう聞くと、桃は振り返り満面の笑顔を向けて
“それがいい。“
そういった。
でも俺も親にそんなことを言われたらそう言っていたのかもしれない。
でも俺からすれば一生分からないことなんだ。
そんな話は今はしたい話ではない。
「…ありがとうね」
突然桃がそう言った。
前を歩く桃の表情は分からない。
でも、
「…助けるって誓ってた、なのに、遅くなってごめん。」
そう返すのが普通だと思う。
でもきっと桃はお人好しだから、
「記憶がなかったんだもん、仕方ないよ。」
そう返すことはわかっていた。
だからこそ俺はそれ以上何も言わなかった。
翠の家に行くと、
赫が俺に、翠が桃に抱きついてきた。
2人揃って
「心配したんだよ!?」
と言うので俺と桃が苦笑して、
なんであんなことしたか、なんて話をした。
「えっ…つまり思い出したの?」
翠が少し嬉しそうに問うので
「…全部、とは断定できないけど。」
と苦笑すると翠が嬉しそうに抱きついた。
そんな翠を今は受け入れることにした。
かなりの時間、俺は翠を否定してしまったと思うから。
その様子を静かに眺める赫と、黙ったままの桃がいて、この時間を懐かしく思う。
「…桃、これからお前はかなりの否定を受けることはわかってるんだよな?」
赫が聞く質問に桃が頷いた。
「…瑞には、紫のことは対処するように報道してるから、大丈夫。」
そう言う桃は、やはりお人好しだと思う。
「…桃々、無理はしないでね」
翠の言う、無理というのは感情面ではなかった
それが何か、すぐにわかった。
「まだ怪我治ってないんでしょ。」