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夜泉(元かめ)
たまごボーロ
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1頁目
最後のボイスメモ
息子…れん
「行ってきます」
それが、母さんの最後の言葉だった。
事故だったらしい。
朝、いつも通り仕事に向かった母さんは、帰ってこなかった。
葬式の日も、涙は出なかった。
周りはみんな泣いていたのに、俺だけ現実感がなかった。
家に帰ると、静かすぎた。
「ご飯できてるよ」
その声も、
「ちゃんと寝なさい」
その声も、
もう聞こえない。
父さんは仕事ばかりで、家ではほとんど話さなかった。
俺は毎日コンビニ飯を食って、学校行って、帰って、寝た。
そんな生活を半年続けたある日。
古いスマホが引き出しから出てきた。
母さんのスマホだった。
充電をつけると、画面に通知がひとつだけ残っていた。
『未送信のボイスメモ』
なんとなく再生した。
ザーッという雑音のあと、母さんの声が流れた。
『あー…これ録れてるかな』
思わず息が止まる。
『もしこれをれんが聞いてるってことは…たぶん、お母さんもういないね』
喉が震えた。
『ごめんね。急にいなくなるかもしれないって、お医者さんに言われてたんだ』
知らなかった。
何も。
『でもね、一番心配なのは、お父さんなんだよねぇ』
俺は顔を上げた。
『あの人、ほんとはめちゃくちゃ不器用だから。絶対、寂しくても言えないから』
そこで少し笑い声が入った。
『れん、お父さんのこと嫌いにならないであげて』
その瞬間、
リビングのドアが開いた。
父さんだった。
ネクタイも緩めたまま、疲れた顔をしていた。
でも、
ボイスメモの音を聞いた瞬間、動きが止まった。
スマホから母さんの声が流れ続ける。
『あとね、れん。』
『あなたが生まれてきてくれて、本当に幸せだった』
『毎日楽しかった』
『だからちゃんと、生きてね』
『大丈夫。あなたは一人じゃないから』
そこで録音は終わった。
静寂。
気づいたら、俺は泣いていた。
声が出るくらい、ぐちゃぐちゃに。
すると父さんが、
小さな声で言った。
「……俺も、聞いていいか」
その声は震えていた。
振り向くと、
父さんも泣いていた。
俺、初めて見たんだ。
父さんの涙。
父さんは床に座り込んで、顔を覆いながら、
何回も、
「会いてぇなぁ……」
って呟いてた。
その夜、半年ぶりに父さんと一緒にご飯を食べた。
味噌汁は少ししょっぱかった。
多分、俺の涙が入ったからだ。