夢主の設定
名前:アリア・フローレンス
容姿:亜麻色の髪/青い瞳/人より色白
調査兵団所属。第104期より少し前の入団。
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しあわせです
油断した…。
目の前の3体の巨人を倒して、いつの間にか背後に現れたもう1体に気づくのが遅れた。
胴体をすごい力で握られて、骨が折れる音と内臓が潰される感覚。
口の中に広がる鉄の味。
このまま巨人の餌になって堪るかと、力を振り絞って刃を振るう。
自分を握りしめる大きな指を切り落として脱出するも、身体へのダメージが大きすぎて立体機動もままならない。
巨人は再び私に襲いかかる。
ここで私が負けたら、他の仲間が犠牲になるかもしれない。
それは嫌!
これ以上大切な仲間を失いたくない。
動け!
骨が折れてても内臓を損傷してても関係ない!
どうせ死ぬのなら仲間の役に立たなければ!
私は夢中で戦った。
身体が引きちぎれそうに痛むのも構わず。
骨が軋んでも、血を吐いても。
気がつくとうなじを削がれた巨人は地面に倒れ、白い蒸気をあげていた。
ああ…倒せた…よかった…。
自分自身ももう限界で、そこでプツリと意識が途絶えた。
「アリア…おい、しっかりしろ 」
『ぅ…っ…へい…ちょう………?』
目を開けるとリヴァイ兵長が私を抱き起こしていた。
ああ、まさか片思いの相手に介抱してもらってるなんて。
「しっかりしろ。いま救護班を呼んでるから」
『兵…長…。救護班はいいです。他の負傷者に…』
「何言ってやがる!すぐに手当しないと手遅れになるだろうが!」
ありがとうございます、兵長…。
でももう、きっと私、助からない…。
『兵長…。もう…身体の痛みを殆ど感じません…。私…もうじき死ぬみたいです……』
「勝手に諦めんじゃねえ!死ぬのは許さん!」
声を荒らげるリヴァイ兵長。
懸命に私を励ましてくれる。でも……。
『今まで…たくさん死にかけました…。なんとか生き抜いて…ここまでこられました。……だけど、今回ばかりは、もう、だめみたいです……。なぜだか分かりませんが…そう感じるんです…』
「……っ」
『だから…命が尽きるまで……このまま兵長と…お話してたいです……』
リヴァイ兵長は眉間の皺をいつもより更に深くして私を見つめている。
『兵長…。私は…ほんの少しだけでも…人類の役に立てたでしょうか……』
「ああ、勿論だ。お前はよくやった」
『ほんとですか……よかっ、た……』
実際どうなのかなんて分からない。
でも兵長の、私を安心させようとしてくれているのが伝わってきて、その気遣いがとても嬉しかった。
『兵長…』
「…何だ」
『死ぬ前に、ひとつだけ…私のお願い事聞いてくださいますか………? 』
「…ああ。何だ」
『抱き締めてください…』
兵長が一瞬、切れ長の目を見開く。
そして
「…わかった。少し動かすぞ」
そう言って私を抱えなおしてギュッと抱き締めてくれた。
わあ……私、夢見てるのかな。
片思いしてる相手が、しかも人類最強と謳われる相手が、自分を抱き締めてくれてる。
「…痛くないか?」
『平気です…。ああ…兵長…あったかい……』
男の人に抱き締められたのなんて、後にも先にもこの時だけ。
隊服越しでも分かる、鍛え上げられた肉体。
首元に触れるサラサラの黒髪。
かすかに感じる紅茶の香り。
『…兵長……』
「どうした」
『しあわせです……』
「…そうか。それならよかった」
腕の中の彼女は嬉しそうに笑った。
瀕死の傷を負って青ざめていた頬に赤みがさす。
こんな華奢な身体で今までやってきたのか。
俺はまた、大切な仲間を失うのか……。
しかも今回はただの部下じゃない。密かに想いを寄せていた特別な存在を。
『兵長…ついでにもうひとつ……とんでもないワガママ言って…いい…ですか…?』
弱々しい声で問いかける彼女。
次は何だ。
俺がこの場でできることなら叶えてやりたい。
『口付け、してほしい…です……』
こんな時に何の冗談だ。
しかし彼女を見ると真っ直ぐにこちらを見つめている。
空のように澄んだ青い瞳で。
『…ふふ…さすがに怒られちゃいますね……』
残念、というように先ほどとは違う笑みを浮かべる彼女。
怒りはしない。
そんなことでいいのなら。
俺だって、好きなようにさせてもらうぞ。
「…いいぞ」
『え、いいん…ですか?』
自分から言っておいて何だ。
『嬉しいな…まさか人類最強の兵長から……ちゅーしてもらえるなんて…』
「おいアリア」
『…何言ってんだろう…って…自分でも思うんですよ…?でも、もう死ぬって分かったら…恥ずかしい…とか考えなくていいやって…思っちゃうん…ですよね』
「アリア」
『?』
「そんなに喋ってたらできねえだろうが」
『…あ…ごめんなさい』
全く…喋って余計な体力を消耗するな。
俺は片方の腕でアリアの身体を支え、もう片方の手は彼女の顎に添える。
唇が重なる。柔らかな感触。血の味に混ざる甘い香り。
『…ん……』
小さく吐息混じりの声を漏らす彼女。
一旦唇を離し、それからもう一度口付ける。
顎にあった手を滑らせ頬を包む。
頼まれてもいないのに何度も唇を重ねる。
嫌なら抵抗しろ。突き放せ。
『ふ…んぅ……』
口を離すと頬を紅潮させるアリアの顔。
『兵長……ありがとうございます……わたし、この世でいちばん…幸せです…』
そう言ってまた嬉しそうに笑う彼女はとても美しかった。
「…そうか……」
俺は堪らず彼女を強く抱き締めた。
柔らかな亜麻色の髪が揺れる。
『へい、ちょう……』
「ん?」
『だいすきです…』
「ああ…俺もお前が好きだ、アリア」
俺がそう伝えると、大きく目を見開く彼女。そしてその青い瞳が水分を纏っていく。
『うれしい……。リヴァイ兵長……もし生まれ変わったら、私…兵長のお嫁さんに…立候補します…』
「ああ。忘れるなよ」
はい、と再び笑う彼女。目尻から一筋、涙が零れ落ちた。
それからは会話もなく、ただただお互いを抱き締め合っていた。
次第に彼女の呼吸は深くなり、華奢な身体から力が抜け、俺の身体にまわされた細い腕が静かにパタリと地面に落ちた。
もう、あの空のように澄んだ青い瞳は、髪と同じ色をした長い睫毛に隠されてしまった。
彼女の頬をそっと撫ぜる。
幸せそうな微笑みを浮かべ眠る彼女。
いつか必ず、この世から巨人を全滅させて、平和な世界にしてみせる。約束する。
そう心の中で誓い、俺はもう一度アリアの唇に自身の唇を重ねた。
end
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