テラーノベル
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ジェラールは、リーゼロッテの言った『あの場所』がどこか、すぐに理解した。
「洞窟に行ったのは――ある者を追っていたら、行き着いたのだ。その者については、まだ話すことは出来ないが……。リーゼロッテの言うループとは何だ?」
不思議そうに、ジェラールは尋ねる。
「一度死んだ筈の人生を、またやり直している今の現状……ですかね」
「……ふむ。それは、私も理解するのに苦労した。洞窟が崩れ落ち、目が覚めたらベッドの上だったのだからな。しかも、7年も前の自分にな」
「え!? 洞窟が?」
(あの後、そんな事があったなんて……)
「ああ。急に魔玻璃から閃光が出て、洞窟が崩れたのだ。あの場にいた者は、全て下敷きになっただろう。多分だが、魔玻璃の魔力が枯渇してしまったのが原因かもしれないな」
「……枯渇?」
「まあ、私の憶測でしかないが」とジェラールは肩を竦めた。
「志半ばで倒れたくないと願ったが。まさか……また人生をやり直せるとはな。世の中には信じられない事が起こるものだ。お陰で、色々と調べ直せた。レナルドの言葉で、私と同じ状況の其方にも気づけたし、良い事ばかりだ」
ニヤリとするジェラール。
やはりリーゼロッテのように、何かを強く願ったのだ。
(それにしても……かなり有能な人ね)
驚きを隠せないリーゼロッテを真っ直ぐ見つめ、ジェラールは言った。
「リーゼロッテ、其方も守りたいものがあるのだろう? 私に協力をしろ。奴らを潰す」
この国の第二王子、ジェラールを信じてみようと思った。
「わかりました、協力します」
その後、お互いの知り得た情報を共有をした。
リーゼロッテの状況をルイスが知っていることに、ジェラールは不機嫌になったが……取り敢えず無視した。
どうも、ふたりだけの秘密にしたかったらしい。
(……面倒くさい人)
宮廷内部の人間は誰ひとり、ジェラールのループについて知らないらしく、何かあればこの部屋に直接転移して来いと言った。
どんな仕組みか分からないが、この部屋に人が入るとジェラールに伝わるそうだ。王族お抱えの魔術師が作った魔道具は、かなりの逸品らしい。
やっとジェラールから解放されると、また新たに薔薇の飾りを作り、アニエスに渡した。
ブリジットと回復したロビンには、くれぐれもも教会関係者には気をつけるようにと伝え、リーゼロッテは辺境伯領へと帰った。
◇◇◇◇◇
ようやく自分の部屋に帰って来ると、結っていた髪を解きそのままボブッとベッドへ倒れこんだ。
エプロンのポケットから、テオはもぞもぞと這い出し、いつものサイズに戻る。
「はあぁ、疲れた……。ジェラール殿下の話、頭がパンクしそう」
思わず、愚痴が口を衝いて出てしまう。
「それは大変だったね、リーゼロッテ。……いや、今はリリーかな?」
部屋の中から、怒りを含んだ聞き覚えのある声がした。
(――えっ!?)
ガバッと起き上がり、恐る恐る声がした方を見遣る。ソファに座って長い足を組み、爽やかな笑みを浮かべリーゼロッテを見つめる……ルイスが居た。
(ひえぇぇぇ……これは完全にお怒りモードだわ)
「あのっ、お父様……ただいま帰りました」
「お帰り、リーゼロッテ。こちらへ来て、話を聞かせてもらおうか?」
ルイスはソファをポンと叩き、横へ座れと促す。怒りの理由が見当がつくので、大人しくソファに座った。
「さて、私が言いたい事は分かるかな?」
「はい」と、リーゼロッテは素直に答える。
「リリーの姿をしているということは、アニエス様に何かあったのだね?」
「そうです。私がアニエス様に、何かあったら壊すようにと渡しておいた結界が壊されました。急を要したので、お父様に相談もせず向かってしまい、申し訳ありません」
「それで、アニエス様は?」
「無事です。ですが、危ないところでした」
「そうか……アニエス様も、リーゼロッテも無事で良かった」
ごめんなさいと謝るリーゼロッテの頭を、優しくルイスは撫でた。
「それで、ジェラール殿下の話とは?」
(あっ、さっきの聞かれてたのね……)
少しだけ低くなったルイスの声に、怒りの原因はそっちだと気がついた。
そして、今日あった出来事とジェラールの話をルイスに伝えた。勿論、これから協力し合うことも。中途半端に嘘をつくと、絶対に後で綻びが生じるからだ。
(それに……)
リーゼロッテは、ループや転生の話をした時――これから先はルイスを信じ、正直でありたいと思ったのだ。
リーゼロッテから聞かされたジェラールの話は、さすがのルイスも驚愕していた。
「リーゼロッテが殿下を信じると決めたのなら、私も協力するよ。だから、勝手に……居なくならないでほしい」
真剣なルイスの瞳にリーゼロッテが映る。
「はい、約束します」
その言葉を聞いたルイスは、安堵したのか強張っていた表情が緩んだ。
――コツン。
ルイスは自分の額をリーゼロッテの額につけた。ネイビーブラックの美しい髪がサラッとリーゼロッテの頬に触れる。
「……約束だ」
あまりにも近くにあったルイスの顔。リーゼロッテは直視出来ずに慌てて視線を下げた。
――だから、ルイスがどんな表情だったのか分からなかった。
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