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母と水入らずの食事も早々に終わらせ、月子は入院の支度にかかった。


一緒に食べるのは、最後と思ってか、母は何時もより無理をして月子が作った粥を、しっかり食べてくれた。


食欲がないのが、月子にも分かるほど、母は、痩せこけて、を通り越し、やつれ果てている。


入院が、今日と分かっていたならば、せめて、卵粥にすればよかったと、萎びた青菜の粥を用意したのを後悔しつつ、粥を食べてくれた母の姿に、月子は感謝した。


無理をしてでも、食べられるということは、まだ、体力が残っているということ。ちゃんと療養すれば、母の具合は回復するはず。


そう信じ、月子は、荷物をまとめて、風呂敷に包んだ。


母は、柱にもたれかかり座っている。


もう会えないことはないだろうが、一緒にはいられなくなる。そう思ってか、はたまた、月子に縁談が持ち上がっていることを心配してか、姿を目に焼き付けようとばかりに、月子をじっと見ている。


そんな、視線を感じつつも、月子は、何が必要か母に確かめながら、テキパキと動いた。


佐紀子のことだ、待ってはくれない。


いつ、迎えが来るか分からない。


ゆっくりと、話すこともできず、月子は、寂しさに襲われながら、母が困らないよう、入念に荷物の準備をした。


そして、干してあった、着物を取り込むと、母の身支度へ移った。


少し、日に陰りが見えた。寒かろうと、月子は、蔵の扉を閉めようとしたが、母が、止めた。


最後の最後まで、月子に病を移していけないと、気を使っているようだった。


開けっ放しの入り口から、少し冷えた空気が流れ込んで来る。月子ですら、肌寒さを感じているのに、それが、母ならと思っていると、大丈夫だと、にっこり母は、笑い、それよりも……と、月子へ言った。


「……どうしたんだい?胸元が、濡れているけど……」


「あっ、これは……」


野口のおばに、茶をかけられと、言えない月子は、青菜を洗っている時、水が散ったのだと誤魔化した。


確かに、言われる様、胸元は、まだ濡れている。だから、余計に肌寒さを感じたのだろうと月子は、思いつつ、母が居なくなったら、一人でこのような仕打ちにも、耐えないといけないのだと、ふと、心細くなる。


母には、起こった事は逐一話していなかった。が、母と一緒にいるだけで、苛立ちや、悔しさや、諸々の重い気分は、消え失せたのだ。


しかし、これからは……。


そして、縁談話も進められる。一体、月子自身は、いつまで西条の家に居られるのだろう。


そんなことを思いつつ、母の襟ぐりに手拭いを掛け、長く、白髪混じりの傷みきった髪へ、櫛を通した。


「……母さん、お見舞いにいくからね」


ふと、呟いた月子に、無理しなくていいと、母は、答える。


月子へ気を使っている、母の返事は、少し堪えたが、月子は、黙って頷いた。


髪をとかし終え、丁寧に編み込み、一つにまとめると、義父から送られたという着物を月子は、手に取る。


この着替えを手伝えば、母との別れが待っているのだと思うと、持つ着物を、月子は、ぎゅっと掴んでいた。


こうして、母の身支度を終わらせて、母が横になっていた布団を畳んだ。


全てを片付け、母と静かに迎えを待っていると、案の定、小さな話し声と草履の音が聞こえて来た。


佐紀子は、言ったことは守る。そして、それは、即、実行される。


「……迎えのようだね、じゃあ、母さんは病院へ行くね」


心配させまいとして、朗らかに言う母へ、月子も、にこりと笑って見せた。

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