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松本結名は、誰とでもすぐに仲良くなれる、学校一の人気者だ。彼女の笑顔は、クラスのムードメーカーであり、いつも周囲を明るくしている。しかし、その笑顔の裏には、長い間胸の中に秘めている想いがあった。
結名が幼い頃から好きだったのは、同じクラスの球磨川無一郎。彼はいつも無表情で、人付き合いが苦手そうに見えた。クラスで誰とも話さない無一郎に、結名は何度も声をかけたが、彼はいつも返事をしないか、そっけなく頷くだけだった。
それでも、結名は無一郎のことが好きだった。彼の無口で静かな雰囲気、時折見せる鋭い目つきに、なんとも言えない魅力を感じていた。けれど、その想いはずっと伝えることなく、心の中で静かに育っていった。
「結名ちゃん、今日も楽しそうだね!」クラスメートの一人が笑顔で話しかけてきた。
結名は微笑んで答える。「うん、今日も元気だよ!」
周りの友達はいつも楽しそうに笑っていて、結名自身もその中で楽しい時間を過ごしていた。でも、無一郎が目の前にいると、心のどこかで不安を感じる自分がいた。
無一郎はいつも、どこか遠くを見つめているようだった。まるで、誰にも心を開いていないような、そんな雰囲気をまとっている。結名は、その無一郎の孤独を、なんとなく理解していた。しかし、どうしてもその距離を縮めることができなかった。
放課後、結名は友達と一緒に帰るために教室を出た。その時、廊下の片隅に無一郎が一人立っているのを見かけた。無表情のまま、ただ静かに本を読んでいる彼の姿は、まるで周りの世界とは別の場所にいるようだった。
結名は足を止め、無意識に彼に近づいた。
「無一郎くん、今日も本読んでるんだね。」
無一郎は顔を上げ、少しだけ目を合わせた。その瞬間、結名は胸が高鳴るのを感じた。けれど、無一郎は相変わらず無表情で答える。
「うん。」
その一言だけで、結名の心は少し切なくなった。無一郎は、結名に対してどんな気持ちを抱いているのだろうか? 彼が自分に興味を持っていないことは分かっている。それでも、結名はその無表情の奥に、何かを見逃している気がしてならなかった。
「また明日ね。」
結名は軽く手を振って、無一郎から離れた。けれど、心の中では、彼の無表情がどこか気になって仕方がなかった。
帰り道、結名は心の中で無一郎のことを考えていた。あの無表情の裏に、彼は何を思っているのだろうか。もしかして、少しでも自分に興味があるのかもしれない…。それとも、ただの無関心なのか?
答えはわからない。ただ一つ言えるのは、結名は無一郎を好きだということだけだった。
つづく