ぴょこんぴょこんと頭の上で動くアホげのような、寝癖のような何か。前とは違って、ピンク色の髪は、サイドテールになっている。瞳と同じリボンでくくられている。
本当に久しぶりに見て、攻略キャラといいつつ、影が薄い方なんだな、と失礼なことを思ってしまった。まあ、私のタイプではないし。
(てか、何でこの二人がここにいる訳よ!)
もしかして、二人に化けた、敵かも知れない。なんて、想像力が働いてしまえば、私の身体は硬直状態になる。何を信じて良いのか、ダメなのか、見極めるのが難しすぎるのだ。
「聖女さまがかたまってる」
「石化、石化!」
「その、ウザい感じ……ルクスと、ルフレだわ」
私がそう零せば、彼らは、ムッとした表情で「ウザいって何だよ!」と、私の方に詰め寄ってきた。その間に、アルベドが入って、これ以上近付いてはダメだと壁になる。さすがの双子も、アルベドに阻まれては、その気力をなくしてしまう。
まあ、アルベドと、双子じゃ身長差が違うから。
(どうだったけ……ゲームのなかでは、アルベドが一番高かったんだっけ……)
記憶が朧気すぎる。
リースの身長とかなら言えるんだけど、別に推していなかったキャラに関しては覚えていない。あっても、朧気曖昧な記憶だけだ。それも、アルベドは、此の世界にきて、実際に関わるまでは、私のタイプ範疇がいの人間だったんだから。
(でも、どうしてこうなったんだっけ……)
そこは置いておこう。考え出すと、多分一日では終わらない。
そんなことを考えながら、私は、双子に視線を戻した。双子は、どうやって、アルベドの壁を越えようか迷っているようで、アルベドを見上げては、尻込みしたように、サッと後ろに身を引いた。こういう所を見ると、子供だなあとは思うけど、実際、アルベドに本気で睨まれたら怖いに決まっているのだ。
「ふふっ」
「エトワールは何笑ってんだよ」
「いやあ、小さい子供をアルベドが威嚇しているのかと思って。その図を考えたら笑えるじゃん?」
「お前の発想がおかしい」
と、アルベドには、ストレートに言われてしまい、少し傷ついてしまった。これくらいなんてこと無いのだが、アルベドの誰に対してもオブラートに包まない所はいいところであり悪いところでもある。アルベドは、まだいい方だけど、グランツは、年下のくせにずげずげいってくるからあれはまた違う。
「聖女さま、何でここにいるの」
「何でここにいるの」
「私こそ、何で二人は、今日、かわいこぶってるのよ。アンタ達の本性分かってるんだからね」
私は、そう言って、アルベドの後ろから言った。私も、アルベドをたてに使っているふしはあるけど、アルベドってこういう時も役立つんだって、壁としては最適だと思った。本人にバレたら、何て言われるか分かったものじゃないけど。
アルベドは、何も言わず、私と双子の間の壁になっているばかりだった。何か言ってくれたら良いんだけど、私も、この双子の面倒を見るのはあれだし。
「あ、アルベド」
「何だよ」
「何か話してよ」
「エトワールに対してか?」
「違うって、その双子よ。私、にが……ええと、男の子同士の方が、話し合うんじゃないかなあって」
「今、苦手とかいったか?悪いが、俺も子供は苦手だぞ?」
「う……」
役に立たない、撃沈。
いや、そこまで言うつもりはないんだけど。確かに、苦手そうって言うのは偏見であった。そして、偏見通りだった。
アルベドは、眉間に皺を寄せながら、双子を見下ろした。双子は、まだびくびくしたようにアルベドを見ている。二人で手を絡ませあって、小動物のように震えていた。本気でやっているのか、演技でやっているのかは分からない。でも、普段の二人を知っているからこそ、アンタ達そんなたまじゃなくない? って思ってしまうのだ。
演技だったら、腹立たしいことこの上ないんだけど。
「ああ、よく見れば、ダズリング伯爵家の問題児か」
「ちょっと、アルベド!?」
ようやく口を開いたかと思えば、アルベドは、彼らに対して、失礼極まりないことを口にする。
ヒヤヒヤして、二人をみれば、案の定、双子はムッとした顔で、アルベドを見ていた。はじめから、アルベドが怖いなんて思っちゃいなかったんだろう。いや、思っていたかも知れないけれど、演技が入っていたというか。
「そういう、お前は、レイ公爵家のろくでなし!」
「ろくでなし!」
「ちょ、ちょっと、ルクス、ルフレダメだって、そんなこと言ったら!ね、アルベド、まだ、小さいからこの子達のこと……」
(って、私何言ってんの!?)
これじゃあ、まるで引率の先生みたいじゃないかと。
私は、子供は苦手だし、それも裕福で無知な子供を見ると、微笑ましいというか、羨ましいというか、そういう感情が出てきてしまってダメなのだ。だって、私は、そういう子供時代を送ってこれなかったから。
ルクスとルフレは、本当にいい家に生れたと思っている。欲しいものは手に入って、お父さんとお母さんから愛されて、姉弟もいて。何も文句なのない、何不自由のない生活をしている。
まあ、そんな子供にこういう現実もあるんだって突きつけたいわけじゃないけれど、何というか、羨ましさは自分の中で漂ってしまう。
(じゃなくて……!)
双子の家庭環境に関しては、もうこれ以上考えても仕方がないと、まず、アルベドに対して、無礼を働いた二人に対して、どうにか今の言葉を撤回させようと思った。別に、アルベドが、短気なわけじゃないけれど、さすがに、自分より年下に「ろくでなし」、何て言われたくはないだろう。私だったら切れてるけど。
私は、あたふたしつつ、アルベドの服を引っ張った。怒って、魔法で驚かせたりしたら……驚かせるだけなら良いけど、傷付けたら。大富豪が黙っちゃいないと思う。
(まあ、ろくでなしって、思われているのも分かるし、前もアルベドってそう言われていたけど)
公爵家のろくでなし。
「エトワール」
「な、何……怒ってる?」
「俺がこれくらいの罵倒で怒るかよ。俺の何を見てきたんだ?」
「ご、ごめん」
少し強く言われてしまい、まさにその通りだからって、私は何も言い返す事が出来なかった。まあ、普通は嫌だし、怒っているけど、怒っている? って聞かれるのが一番気に障ることくらいは理解できたはずなんだけど。
「まあ、謝罪するなら、お前じゃなくて、此奴らだけどな」
「ひっ」
「ひいっ」
間抜けな声を出した双子は、自分たちが、如何に彼の地雷を踏んだか。言ってはいけない事を口にしたのか理解したようだった。
アルベドの目が鋭くなる。だが、彼らに怒るわけでもなく、私の元を離れ、双子の目線にあわせた後、二つのピンクの頭を撫でた。
「へ?」
「へえ?」
「お前らが、ろくでなしっていったのは間違ってねえよ。自分でも、ろくでなしな自覚はある。だがな、他の奴にはいきがるなよ?俺じゃなきゃ、殺されてたぞ。分かったな?」
と、双子に諭すように、もう一度アルベドは、返事は? と優しく聞いて、彼らがこくんと頷いたのを見てから、頭をもう一度撫でた。お利口だなと言うように。
それが正しく兄のかがみすぎて、大人のかがみ過ぎて、私は感動してしまった。アルベドにそう言うことが出来たのかと……失礼ながらに思ってしまう。でも、本当だ。彼の優しい横顔を見てしまえば、如何にアルベド・レイという男が、優しく人を思いやれる男なのだと。
(アルベド……)
少しだけ、ラヴァインに重ねているんだろうなって言うのは見て取れた。もし、過去にそうやってラヴァインに接することが出来ていたのならっていう後悔。だから、子供への関わり方について少し考えたんだろう。私が、そんな考察をするのもおこがましいかも知れないけれど、そう見えてしまうわけで。
双子は、何故許して貰えたのか少し理解できていないような気がした。発言の重さについては理解したが、アルベドがこんな人間だとは思っていなかったようで、顔を見合わせている。分からないでもない。
「聖女さま」
「聖女さま」
「何?反省してるみたいだけど、今度は私に?」
「本当はね、聖女さまのことも心配だったんだ」
「心配だったの」
かわいこぶっている口調はいつやめるのかと思ったが、彼らがいきなりそんなことを言い出したので、私は何度か瞬きをしてしまった。彼らが私を心配? 双子が、アルベドの行動に驚いた以上に、私も驚いていた。
けれど、その瞳がクリクリと輝く空色と宵色の瞳は嘘をついているようには思えず、真っ直ぐと私を見上げていて、その目には少しの同情と、彼らの心配という真な心が浮かんでいた。
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