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(心配……ね)
その言葉を、素直に受け取れば良いものの、イマイチ、人を信頼することが出来ない私は、軽くその言葉を受け取ることにした。本気で受け取ることなんて出来なかった。まあ、この双子が、嘘でそんなことをいうような奴らじゃないっていうのは、何となく分かるんだけど。
空色の瞳と、宵色の瞳は私をじっと見つめている。
「な、何よ」
「聖女さま、大丈夫?」
「聖女さま、大丈夫?」
「あのねえ、大丈夫とか、大丈夫じゃないとか以前に、なんで今日は、猫かぶりな喋り方なのよ。私にはもうバレてるんだし、そっちの、赤いのもねアンタらの性格なんてお見通しなのよ」
「おい、エトワール。赤いのって」
とっさに出た言葉は、アルベドをバカに知るようなものだった。さすがのアルベドも、それに対しては、物申したいようでムッとしている。悪かったとは思っているので、これ以上、怒られる前に、謝っておく。
そんなアルベドへの謝罪もそこそこに、私は、双子に、取り繕っても意味がないということを改めて教えた。まあ、アルベドの事だから、この二人が子供を演じていようが、演じていまいがどうでも良いことで、バカやっているなあ程度にしか思わないんだろうけど。
(子供苦手っていっていたから、もしかしたら、いやなのかも……)
子供らしく振る舞われることがいやなのかも知れない、っていうのは、何となく想像がついた。嫌なオーラが漂っている。さすがに、今すぐ此奴らを黙らせろとは思っていないけど、少しだけ、眉がぴくぴく動いている。
リースとかだったら、すぐに私に言ってくるだろうけど、アルベドはそうじゃない。
彼と比べる必要性もないし、アルベドと、リースは全然タイプが違う……いや、似ているところもあるけれど、同じだって考えることはしない。だから、リースがああだ、とか、アルベドが、こうだ、とかはあまり思わないようにしている。その方が身のためだとも。
まあ実際、こんな風に、ルクスとルフレに絡まれるのは、私もいやかなあ、とか思ってしまった。本性を知っているから、何故、今更、子供のフリをする必要があるのかと。
心配しているなら、からかわないで、本当のことを言って欲しい。
「そういえば、ずーと気になってたんだけどさあ」
「その喋り方にしてよ、ルフレ」
「良いじゃん。久しぶりなんだし。ほんと、聖女さまって、器小さすぎ」
まるで自分が大きいとでもいわんばかりに、鼻を鳴らすルフレ。そう言うところが、子供って言うんだ、と私は、彼を見ながら、普通の喋り方に戻ってくれただけ、よしとするか、とスルーして、私は、ルフレの方を見る。ルクスは、さほど、私には興味がないようで、髪の毛を弄っている。まあ、ぶっちゃけ言えば、ルフレの方が、付き合いが長い感じだし、私の好感度的に、ルフレの方が高い。
「それで、何?」
器が小さいのみ止めるんだ! わ! なんて、いったけど、取り敢えず無視して、何が言いたいのか、詰め寄れば、ルフレは、分が悪くなったようで、口を開いた。
「聖女さまのこと、帝都で色々言われてて」
「まあ、そうね。もう、聖女じゃないから」
「聖女さまは、聖女さまだよ」
「聖女は、私の妹のトワイライトだけって言うことになったの。皇帝陛下がそう決めたの」
「聖女、さま……」
ルフレは、聞いてはいけないことを聞いてしまったと言わんばかりに、ハッと顔を上げて、それから俯いた。そんなかおをさせたかったわけじゃないけれど、口に出してしまった言葉が戻るはずもなく、私は、一度ため息をつく。それは、ルフレに対してじゃなくて、自分の器の小ささに。ルフレの言うとおりだから。
「じゃあ……何て言えば良いの?」
「普通に、エトワールで良いわよ。てか、前、そうよんでくれたことなかった?」
「エトワール?」
「呼び捨てなのね」
「そう呼べって言ったんじゃないか!」
なんて、逆ギレされて、ルフレは、その場で地団駄を踏んでいた。子供だなあと思いつつ、すこしからかっただけだと、私はルフレの頭を撫でた。ふわふわとした、ピンクの髪の毛は、毛量のくせにさらさらともしている。羨ましい。
「お前子供苦手じゃなかったのか」
「アンタの癖が移ったのかも」
「受け答えになってねえな」
と、隣で、黙っていたアルベドが肩をすくめる。無意識のうちに頭を撫でてしまったのは、アルベドがそうやっていたから、そうやって、落ち着かせてくれたからだと思う。
ルフレは、子供扱いするなと言わんばかりに、頬をさらに膨らましていたが、可愛いものだった。まあ、呼び捨て云々はちょっとあれだけど。
「それで、帝都で何があったって?」
「え、えっと、それが……」
「エトワールが、いなくなって、正式に、トワイライト聖女とリース殿下の婚約が発表されたんだよ。まだ、式は未定だけど」
と、口を挟んだのは、ルクスだった。何か、不満げに、腕を組んで私を睨み付けている。ルクスとは、何気に話せていないし、何でこんな風に睨まれているかは分からないけれど怒りと言うより、同情か、それとも、嫉妬か、ちょっと複雑ながらも、心配という気持ちは見て取れて、私は、彼の頭も撫でてみた。
「ちょ、ちょっと、何するの!?」
「ん~撫でて欲しそうだったから」
「撫でるなら、ルフレのだけにしなよ!」
「え、何で。ルクス!」
なんて、二人は顔をつきあわせて、言い合いを始めてしまう。また、話がそれたなあ、と思いつつ、私は、ルクスが言った言葉を、自分なりに飲み込もうと必死に考えた。
いっていることはそのままなのだが、ということは、私が、リースの婚約者であるということは、元から公表されていなかったと言うことだろうか。それとも、事実をもみ消された?
何にしろ、私は、いなかった存在、危険な存在として、扱われているのだろう。
帝国を揺るがす、悪女ともいわれているかも知れない。
「本当に……」
「エトワール」
「何?アルベド」
「気負いするなよ。悪いのは、あのクソ老害だ」
「アンタ、いないからってよく言えるわね。私だったら、怖くて言えない」
「でも、あの老害が死ねば、皇位は、必然的に今の皇太子に譲られるんだろ?」
「アンタが殺すって言うの?」
エトワールが望むなら。と、アルベドは、冗談半分に言う。でも、何処か本気で、その目を見てしまって、私は、顔を逸らすしかなかった。アルベドなら出来ないことも無い。彼の、魔力量を考えたら、きっと、いけない事はないのだ。殺した後、どうなるか、考えないでおけば。
「アンタの手はもう、汚させないし。アンタが、何処かに行っちゃうのはもういや」
「それは我儘か?」
「我儘、そうね……」
アルベドの夢を知った。理想を知った。だからこそ、彼には、もう、その手を汚して欲しくないし、辛い目にも遭って欲しくない。でも、きれい事ですませられるような世界じゃないって分かっているからこそ、私達は、どうにかしないといけない。分かっている。
きれい事じゃ何も変わらない。でも。
(我儘でもあり、願いでもある。私の唯一の希望……)
アルベドが、私を希望だといってくれるなら、私にとってアルベドも希望だ。私の隣にいてくれる、そんな絶対的信頼が出来る人間。私のなそうとしていることを、隣で見届けてくれる人間。知恵を貸してくれる人間。
利用という言葉を使えば、感じが悪いが、そんな関係だ。利用させて貰っている。同意を得て。
「隣にいて欲しい。それが、私の我儘」
「そりゃ、たいした我儘で」
アルベドは、クスリと笑うと、その手を後ろで組んだ。何処か嬉しそうに、鼻歌が聞えてきそうなほどに。
そうしているうちに、ようやく双子の意見はまとまったというか、プチ喧嘩がおさまったのか、二人して私の方を見た。二人には聞きたいことが山ほどある。といっても、彼らが知り得る情報は、そこまで多くないだろう。ただ、ここで野宿……という名のキャンプをして、帝都から離れていたこともあって、かなり情報が乏しい状態にある。そんな状態だからこそ、第三者から見た、帝都の様子、情報を知りたいのだ。
「話してくれるの?」
「てか、ほんと、エトワールは、何でこんな所にいるの?」
「追い出されたの?」
「いや、分かるでしょ……はあ、追い出されてんのよ。あの皇帝陛下、私のこと大嫌いだからね」
「ああ、だから」
「だから」
と、双子は顔を合わせて、眉を下げた。何やら言いにくそうに、私のことを上目遣いで見てくる。一瞬可愛いと思ってしまった私は、バカだと思う。
(いや、見た目は可愛いんだけど、中身が、相当なのよ、この双子!)
騙されてはいけない。騙されて、攻略し始めたお姉様方が、ズブズブはまっていったのは見ている。私は、特別ショタにはまらないけど。
(――じゃなくて!)
「そ、それで、何があったのよ」
「銀髪の偽りの聖女、エトワール・ヴィアラッテアには近付くなって」
「接近禁止令!宿に求めちゃダメだし、食べ物も売っちゃダメ!あわよくば、ラスター帝国から追い出せ!って」
そう言った、双子は、何処か怒ったように、私を見て、小さな手で、私の手を両方包み込んだ。
「でも、エトワールは悪くない」
「エトワールは、悪くないから」