テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
231
412
#1 七年前の写真
〜警視庁 捜査一課〜
六月。
朝から降り続いている雨が窓を叩いていた。
捜査一課のフロアにはキーボードを打つ音や電話の音が鳴っている。
いつもと変わらない光景、いつもと変わらない日常。
そして俺も、いつもと変わらず隣を見た。
🩷「柔太朗」
🤍「ん? 」
🩷「暇」
柔太朗は資料から顔も上げずに答えた。
🤍「仕事して」
🩷「即答じゃん」
🤍「勇ちゃんが30分前にも同じこと言ってたから」
🩷「そんなに言ってた?」
🤍「言ってた」
🩷「覚えてない」
🤍「だと思った笑」
ようやく顔を上げた柔太朗が少しだけ笑う。
その表情を見て、なんとなく安心する。別に理由はない。
昔からそうだった、柔太朗が隣にいると落ち着く。
🩷「ねえ」
🤍「まだ何かあるの?」
🩷「その言い方酷くねー?」
🤍「だって絶対くだらない話でしょ笑」
🩷「失礼だなあ」
🤍「違うの?」
🩷「…否定はできない」
🤍「ほらね笑」
🩷「でも柔太朗も付き合ってくれるじゃん」
🤍「放っておくと仕事できなくなるから」
🩷「心配してくれてる?」
🤍「してるね」
🩷「即答あざす!」
🤍「いや、当たり前でしょ」
🩷「嬉しいわ」
🤍「単純だなあ笑」
そんなやり取りをしていると、向こうから若い刑事が慌てた様子で走ってきた。
若い刑事「佐野さん!山中さん!」
🩷「どうした?」
若い刑事「課長が呼んでます!」
🩷「あー……」
🤍「その反応やめよ笑」
🩷「だって嫌な予感しかしねーんだもん笑」
🤍「まあ、それは分かるけど」
若い刑事「急いでください!」
🩷「怒られた」
🤍「とりあえず行こっか」
🩷「はいはい」
席を立つ。
その時はまだ、この日が俺たちの人生を帰る始まりになるなんて思っていなかった。
〜会議室〜
ドアを開けた瞬間、空気が変わった。
課長が腕を組んで立っている。
その顔を見ただけでわかる、重い事件だ。
🩷「お疲れ様です」
🤍「お疲れ様です」
課長「座れ」
二人で席につく。
課長はなにも言わず資料を机へ置いた。
🩷「殺人ですか」
課長「そうだ」
🩷「最近多いですね」
課長「文句なら犯人に言ってくれ」
🩷「正論」
🤍「被害者は?」
課長「35歳男性」
資料を開く。
現場写真、被害者、ここまで普通だった。
問題は次だった。
🩷「……え?」
一枚の古い写真。
そこに写っていたのは見知らぬ少年。
そしてその隣には、若い頃の俺と柔太朗。
🩷「は?」
柔太朗も写真を見つめる。
いつも落ち着いている柔太朗の表情が僅かに変わった。
🩷「何これ」
課長「現場に落ちていた」
🩷「いや、そうじゃなくて」
課長「心当たりはあるか?」
🩷「ないです」
課長「山中は?」
柔太朗はしばらく黙った。
写真を見つめる。何かを思い出そうとするように。
🤍「…あります」
🩷「え?」
課長「なんだ?」
🤍「見覚えはあります」
🩷「まじ?」
🤍「でも曖昧なんです」
課長「曖昧?」
🤍「どこで見たのかも分からない、でも初めて見る感じがしないんです」
🩷「珍しいな」
🤍「俺もそう思う」
🩷「夢とか?」
🤍「それも分からない」
柔太朗がここまで迷うのは珍しい。
記憶力も観察力も人並みには高い。そんな柔太朗が曖昧だと言う。
それだけで妙な不気味さがあった。
課長「この写真が今回の事件の鍵になる」
🩷「……」
写真の少年を見る。
知らない顔、それなのに、胸の奥がざわつく。
理由は分からない。
でも、目は逸らせなかった。
〜事件現場〜
都内の倉庫街、雨は病んでいた。
だが空気は重い。
古い倉庫が並び、どこか時間が止まったような場所だった。
🩷「雰囲気あるなぁ」
🤍「まぁ、良くは無いね」
🩷「こういう場所苦手なんだよな」
🤍「勇ちゃん怖がりだもんね」
🩷「それだけは言うなよ」
🤍「だって事実じゃん笑」
🩷「柔太朗は怖くねーの?」
🤍「怖いというより不気味が勝つ」
🩷「違いある?」
🤍「なんとなく」
🩷「なんとなくかぁ」
🤍「勇ちゃんには分からないかもね」
🩷「ひっでー、」
🤍「ごめんごめん笑」
二人は倉庫へ入る。
現場にはまだ鑑識が残っていた。
鑑識「佐野さん、山中さん」
🩷「なんか出ました?」
鑑識「被害者の持ち物です」
証拠袋の中にはスマホ、財布。
そして、あの写真。
🩷「やっぱり持ってたんだ」
🤍「相当大事だったんだろうね」
鑑識「あと、これも」
小さな紙切れ。
🩷「なんですか?」
鑑識「ポケットから出てきました」
紙を開く。
そこには、『見つけた』その三文字だけ。
🩷「……」
🤍「短いね」
🩷「逆に怖い 」
「てかさ、この事件なんか嫌な予感する」
柔太朗は少しだけ黙った。
そして静かに答えた。
🤍「俺も」
🩷「珍しい」
🤍「理由は説明できないけど、嫌な予感しかしない」
その声はいつもより少し低かった。
倉庫の奥へ進む。
薄暗い通路、湿った空気、そして俺はある場所で足を止めた。
🤍「どうした?」
🩷「わかんない」
🤍「え?」
🩷「ここ」
胸が苦しい、頭が痛い。
見たことがある気がする。来たことがある気がする。
そんなはずないのに。
🩷「……っ……!」
突然、視界が揺れた。
暗い倉庫、泣いている少年、誰かの足音、助けを求める声。
『助けて』
🩷「!」
一瞬で消える。
🤍「勇ちゃん!」
肩を掴まれる。現実へ引き返された。
柔太朗の顔がすぐ近くにあった。
🤍「大丈夫?」
🩷「……今」「声が聞こえた、」
柔太朗の表情が固まる。
🩷「知らない子なのに…」
🤍「……」
🩷「助けてって」
柔太朗は何も言わなかった。
ただ、俺の肩を掴む手に少し力が入った。
その時、課長の電話が鳴った。
数秒後、課長の顔色が変わった。
🩷「なにかあったんですか?」
課長「戻るぞ」
🤍「なにかあったんですか」
課長は静かに答えた。
課長「被害者の身元が判明した」
🩷「誰だったんですか?」
課長「七年前の少年失踪事件」
その言葉に空気が止まる。
課長は続けた。
課長「その担当刑事だ」
🩷「……」
課長「そして被害者が最後まで追っていた人物もわかった」
課長が写真を見つめる。
俺も見る。
写真の少年。
課長「この少年だ」
その瞬間だった。頭の奥で何かが弾ける。
暗い倉庫、泣いている少年、伸ばした手、届かなかった指先。
そして、誰かの声。
『見殺しにするな』
🩷「……っ!」
写真が手から落ちる。
床へ滑った写真が裏返る。
そして、そこに書かれていた文字を見た瞬間全員の動きが止まった。
赤い文字。
まるで今書かれたかのような鮮やかな色。
そこにはこう書かれていた。
『思い出せ』
──誰も何も言えなかった。
ただ、俺たちはまだ知らない。
七年前の事件が終わっていなかったことを。
そして、この瞬間から、俺たち自身が事件の中心へ引きずり込まれることを。
【#1 七年前の写真 終】
コメント
1件
わあ、めっちゃ好みの空気感…!🖤 冒頭の柔太朗と勇ちゃんの掛け合いが可愛くて、すぐに“この2人好き”って思ったのに、そこから一気に重い事件に引きずり込まれて…7年前の写真に自分たちが写ってるって、どういうことなん?? しかも『思い出せ』って赤文字、完全にホラーの匂いする…。記憶と現実が絡み始めてて、続きが気になって仕方ないです。はやと。さんの空気感、好きです🌙