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会長室の重厚な扉が音も立てずに開くと、まるで別世界に足を踏み入れるような感覚に襲われた、広さにしてファミリー世帯向けのマンションぐらいは軽くあるだろうか・・・という空間だった
そしてまず目に飛び込んできたのは、床から天井まで広がる全面ガラス張りの羽目板式の窓だ、神戸港の青い海が一望でき、遠くには六甲山の緑が柔らかな稜線を描いている、まるで空中庭園にいるようだった
―毎日こんな所で仕事をするなんて・・・いったいどんな気持ちだろう―
秋の陽光がガラスを透過して室内に金色の光の帯を投げかけていた、光は磨き上げられた黒大理石の床に反射し、まるで水面のような揺らめきを生み出している
部屋の中央には巨大な黒檀のデスクが鎮座していた、デスクの表面には、伊藤ホールディングスのロゴが象嵌されており、その周囲には繊細な金箔の装飾が施されている
空気には、微かにサンダルウッドの香水が漂っていた、換気システムが完璧に管理されているため、埃一つない清潔感が部屋全体を支配している、しかし、鈴子にはその完璧さが逆に息苦しく感じられた
そして・・・両サイドに専務の増田ともう一人・・・紺色のスーツの中堅の男性を従えて、センターにはまるで玉座のようなビジネスチェアーに威厳を放って座っている『伊藤定正』がこっちを見ていた
彼が口を開いた
「お座り下さい、食品開発営業課の「高山鈴子」さん」
―この男が・・・伊藤定正・・・―
鈴子の指が無意識に拳を握る・・・百合がこの部屋に足を踏み入れたことはあるのだろうか? 彼女がこの豪華な空間で、定正とどんな言葉を交わしたのか? 鈴子の心に、嫉妬と憎しみが渦巻いた
鈴子は心の中で呟いた
―やっとここまできた・・・しかしこれからが本番だ―