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#怪異
イキリ火の玉
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ガンバレ! ガンバレ!
長岡努は物心ついたころから24歳の現在まで自分にそう言ってきた人物を次々に思い浮かべていた。親、友達、クラスメイト、教師、芸能人、偉人。
――頑張った結果がこれだよっ!
ヤクザの運転する車の後部座席で内心毒づいた。
努という名前の通り子供のころからコツコツと努力して実力以上の大学に入った。就職も中小企業だが将来性があり給料と就業条件のよい会社に入社できた。
しかし、その会社は本業とは関係ないトラブルで一年もせずに倒産してしまった。
一度の挫折で総てにやる気を失い、それから一年近く実家住まいのフリーターでダラダラとやってきた。
見た目はどこにでもいる二十代の青年。これといった趣味もなく、もちろん彼女もいない。アルバイト以外は部屋に引きこもってネットかテレビを夜中まで見ているだけ。
昨日まではずっとそんな生活を続けていた。それが今日、久しぶりに頑張ってしまった。
朝から夕方までネットで検索して何人も写真を見比べて、そして勇気を出して電話をした。
大学生のときに買ったチェック柄のシャツとジーンズに、当時はおしゃれだった青いダウンジャケットを着こんで指定されたホテルに向かった。
季節は春にはまだ早い冬の終盤。ホテルに着いた頃には夜になっていて空気は冷たかったが期待と少しの不安で気にならなかった。
そのファッションホテル……つまり、ラブホテルの指定された部屋で待っていると間もなくドアを叩く音。高鳴る心臓を押さえながらドアを開けると写真よりずっと可愛いデリヘル嬢が立っていた。
「ちぃこデース!」
ちぃこは可愛く目もとで横ピースをした。
お店のサイトに載っていたプロフィールでは、ちぃこは19歳らしい。ネットで調べたらこういう風俗嬢は2~3歳、酷いときは10歳以上もサバをよむらしいが、ちぃこはプロフィール通り19歳前後に見える若い女の子だった。
肩の下まである髪は濃い茶髪で目はクリッと大きく潤んでいる。鼻は少し低いがそれもチャーミングだ。どこか子犬っぽい感じでとても可愛かった。
「そんなにジロジロ見られたら、ちぃこ照れちゃうよ?」
恥ずかしそうに首を傾げるちぃこを見て頑張ってよかった……そのときは本気でそう思った。でも幸福の時間は短かった。
「先にシャワーを浴びてねン!」
ちぃこに可愛く言われて努は浮かれながら風呂場でシャワーを浴びていると何やら部屋が騒がしくなった。耳を澄ますとドスのきいた怒鳴り声が聞こえた。瞬時にヤクザだと察して体を強ばらせる。
「おい! 風呂にいる奴! 出てこい!」
怒鳴り声に怯えて全裸のまま風呂場を出た。濡れた体のまま股間だけ手で隠した間抜けな姿で部屋を見渡すと四人のヤクザがいた。
四人とも格好は黒いスーツ姿だがパンチパーマや金髪リーゼントの頭といかにも堅気ではない顔を見ればヤクザだと確信した。
「服を着てついてこい」
風俗が暴力団と係わっているのはもちろん知っていた。でも、まさかいきなり拉致されるなんて……努は泣きそうになりながら急いで服を着る。濡れた体のままだったのでシャツやパンツはすっかり湿ってしまった。
四人の強面に挟まれてホテルの地下駐車場まで連れて行かれた。駐車場にはエンジンがかかったままの高そうな黒塗りのミニバンが停まっていて運転席にヤクザの仲間が座っていた。
努はビニールの紐で後ろ手に縛られるとちぃこと一緒に後部座席、運転席も含めると3列ある座席の真ん中の列に座らされた。全員が乗り込むとミニバンは静かに走り始めた。
最初の30分は恐怖のあまり何も考えられずにただ黙って車に揺られていた。そして、ようやく気持ちが落ち着いてくると勇気を出して声を掛けてみた。
「あのぉ……」
「黙れ」
五人の中のリーダーらしき男に低い声で脅されすぐに口をつぐんだ。
助手席に座るその男は30代半ば、黒い髪をオールバックにして細いメガネをかけている、いかにもインテリヤクザという感じだ。
他の四人はまだ20代に見える若者ばかりで、みんな粗暴そうな顔をしていた。特に運転している男は一人だけ黒いスウェットを着ていて飛び抜けて体が大きかった。頭はスキンヘッドで、夜道で急に現れたら思わず悲鳴を上げそうな顔をしている。
他の三人も髪こそパンチだったり金髪リーゼントだったり肩までの長髪だったりするが、スキンヘッドと似たり寄ったりのいかにも腕力自慢のチンピラという感じだ。
だが、そんな粗暴そうな四人より物静かなインテリヤクザのほうがずっと怖かった。チンピラたちは精々殴られたりするだけだがインテリヤクザはそんなのをすっ飛ばして殺す。そんな雰囲気が漂っていたからだ。
小一時間ほど走って車は高級マンションの前に止まった。しばらく待っていると太った中年男と厚化粧の美人が腕を組んでやってきた。
インテリヤクザと長髪が車を降りて二人のもとに向かう。インテリヤクザがペコペコしている姿を見るとどうやら彼らの親分らしい。
親分は額から頭頂にかけてハゲており、太った体に高そうだが趣味の悪い小豆色のスーツを着ていた。
女のほうは着物が似合いそうな銀座のママ風の美人だが今は全身真っ赤なパンツスーツ姿。年齢は40を越えていそうだが皺一つ見えない整った顔をしている。
少し何かを話したあと四人は車にやってきた。親分が中を覗き込むとちぃこより先に努に目を向けた。
「このガキが?」
「奴の男らしいです」
親分とインテリヤクザのやりとりを聞いて努はようやく自分が連れてこられた理由がわかった。
「ちょ、ちょっと! 違いますよ! 僕は客で」
「うるせえっ!」
「ヒィッ」
隣に座るパンチ頭に怒鳴られて努は身を縮めた。
「まあいい、あとは任せたぞ」
そう言ってマンションに戻ろうとする親分を愛人がとめた。
「まってぇチャーさぁん、お願いがあるのぉ」
「ミサ、お願いってなんだ?」
「私ねぇ、殺すところ見てみたいのぉ」
美人な顔に似合わぬ甘えた声で恐ろしい言葉を口にしていた。
「え? ちょっと……」
努の言葉は今度はインテリヤクザのひと睨みで止まった。後部座席のスライドドアが閉められると努はまるで死刑判決を待つ囚人のような不安な気持ちで待つことになった。
コメント
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第1話、一気に読みました!冒頭の「頑張った結果がこれだよ」に思わず苦笑。ちぃこの可愛らしさから一転、ヤクザに囲まれる緊迫感がすごくて。特にインテリヤクザの物静かな威圧感と、最後のミサさんの甘えた声で「♡♡♡ところ見たい」にはゾッとしました。続きが気になります!