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「ごめん遥、あたし掃除当番だからどっかで待っててもらっていい?」
帰る支度をしていると不意に声をかけられる。
出席番号の近い者数名で組まれている掃除当番で、今月は結奈の当番だったらしい。
「分かった、じゃあ図書室にでも行ってようかな」
「終わったら呼びに行くから。薬持ってるよね?」
「大丈夫、持ってるよ」
「ちょっとでも変だったら飲むんだよ?」
「もう母さんじゃないんだから〜、平気だって、今日予備足してきたばっかりだし」
「そっか、それならあたしも安心」
お互い笑いあっていると、結奈はクラスメイトに呼ばれて行ってしまった。
図書室は1階上の4階にある。
ただ1階上がるだけなのに10段以上ある階段を2回登るのはかなりの体力が必要だ。
入学してから何10回と登っているけれど、全く慣れる気がしない。
ふと、踊り場で雲ひとつない青空が見えた。
結構気に入っている場所。
たまに見える曇り空もそれなりに風情があっていい。
4階のつきあたりにある図書室の重い扉を開けると、先客がいた。
後ろ姿からだと誰かよく分からない。
けれど私のたてた物音にも全く反応しなかったから相当のめり込んでいるのだろう。
彼を視線の端に捉えながら、背中合わせで近い席に座った。
結奈を待つため図書室に通ってから1週間がすぎた。
それまでの間に、たまたま今日もいる彼と同じフロアですれ違ったことから、同じ2年生だと検討を付ける。
そろりそろりと彼の前に座り、しばらく彼を見つめてみた。
2人きりだし、ちょっとの間とはいえ1人でいるのは少し寂しい。
ようやく私に気付いた彼が面白くて、思わず話しかけてみる。
偶然にも彼が読んでいるのは私の愛読書だった。
結奈に呼ばれるまで彼、野上くんと話していた。
「遥、あの人誰?」
「あの人って、野上くんのこと?」
「野上って、去年4組だった?」
「そこまでは知らないけど、結奈4組だったんだっけ」
「うん、多分その野上も4組だったと思う。」
「へー、なんか暇だったから話しかけちゃった」
「やっぱり。遥のことだからそんなところだと思ったよ」
「うん、たまたま私の好きな本読んでたみたいだし」
若干呆れてるらしい結奈を尻目に、またあの踊り場まで来た。
今度は赤の夕陽を通り越し、紫がかった夕方の色をしていた。