「出たぞ」
ただその一言だけ。
向こうも目ざとくこちらを見つけたのか3体の豚アタマの魔獣がやってくる。どこで手に入れるのか、大きめのパンツだけを履いた180cmほどの魔獣たち。
特徴的なのはその体躯で、突き出た腹肉はデブのそれだが遠目にも分かる内包された筋肉。それに真っ赤な目をしている。狼アタマとはまた違う力強さが感じられる。
ひとりで出会えば逃げられないかもしれない。あの光景が蘇る。それが3体。かなりのスピードで迫る魔獣。
「おいっ、どうするっ⁉︎ 逃げ切れるのか⁉︎」
ダリルは答えない。
「ビリーくん、あと5歩くらいさがろっか」
ミーナは、つまりダリルを盾にして距離を取る提案をしてきた。
「それだとあいつがっ!」
ミーナはダリルの方を眺めて、微笑んでいる。
「心配ないよ。ダリルがここにきみを連れてきたのは、見せるためだからねっ」
俺たちが見ている中で、ダリルは懐から取り出した白く細いものを口に咥え、手で覆うと俯き加減に深く息を吸う。白い何かはチリチリと燃えたように見え、やがて消えてなくなる。
嗤うように開いた口から白煙とともに大きく息を吐いたダリルの短い乱雑な髪の毛は逆立ち、コートを脱いだ身体は筋肉が盛り上がりまるで獰猛な肉食獣のようだ。全身から迸るそれはまさか魔力なのだろうか。
すでに手に鞄はなく、いつのまに手にしたのか刃渡り60cm、幅25cmほどの分厚く長方形の刃物が握られている。
魔獣はそんな人間に臆する事なく接近し、斜めに振り下ろされた刃物に左肩から右脇までを両断。2個に分かれて生死を確認するまでもない。次の魔獣は左からの横薙ぎで内臓をぶちまけた。
一瞬の出来事に踏みとどまろうとして体勢を崩した最後の1体は、飛びかかられ脳天から股までを割られて崩れ落ちた。
あまりの出来事に言葉も出てこない。蹂躙。魔獣が手も足もでず何もする間も与えられずに肉塊へと変貌してしまった。
「ほんとダリルは相変わらずだねっ。ビリーくんも特等席で見れて本当……本当によかったね?」
さっきまで横にいたはずのミーナは、彼女にとっては大きめであろう5歩くらい後ろに下がっていて、闘いの飛沫に塗れた俺を憐れむように見ていた。
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