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赤く染まる川。臓物の散らばる河原。それらに塗れた俺。
さっきまでケモ耳女子がはしゃいでいた清流は、いまはそんな地獄絵図と化していた。
「ビリーくん、なんだかとても前衛的なアートみたいで面白いけど、臭うから早く洗ってきたほうがいいよ」
いつもの口調をも忘れたこの天使が今は悪魔にも見える。
「わたしはいつでも君の天使だよっ! ちゃんとさがろうって声かけたしねーっ。ぷぷーっ」
さっきまでとはうってかわって、天使のように優しく微笑みながらそんなことを言うミーナ。ここが地獄でなければ告白したいほどに愛おしい笑顔だ。
もはや以心伝心(一方通行)。確かにその通りだが、あそこで退いていたら男の矜持を失ったかと思われる。それよりはマシだろうなんて言い訳してみる。鼻をつまんで距離を取られたのは心にクルけども。
「どのみち馬車に運ぶのに汚れるのだからその後でいいだろう」
すでにいつもの調子に戻ったダリルは綺麗なままの大きめの岩に腰掛けて無関心を装っている。いや、もうただ無関心なだけだな。装いも繕いもしてないな。
そんなダリルはミーナから飴をもらって、珍しくありがとうと礼をいい、少し喜んでるようにみえる。
「はぁ……確かに俺は今回荷物持ちで来てるからね。ところでさっきの武器……よく見えてない気もするが、あれは、その、肉屋なんかで見るあれなのか……?」
先ほどの闘い。苛烈と形容するに相応しい闘いの最初から気になっていた。ダリルと初めて出会った時の会話が今は頭を離れてくれない。
“一流の猛者であればただの包丁でも斬れるかもしれんな。あんたはそんな凄腕なのか?”
あのゴツいだけの包丁で一方的に蹂躙したこの男は自分がそうだと言いたいと、そういうことなのだろうか?
自分の歯がギリっと音を立てるのがわかる。これは苛立ちか悔しさか。
「バカかお前は。どこの世界にただの包丁で魔獣に立ち向かうバカがいるか」
言葉は汚いがそれは俺が欲しかった方の答え。目の前の人間がそんな人外ではないと、自分たちの側だと思っていいのか。そうなら俺もそこに辿り着けるのだろうか……。
「あれは魔剣だよっ」
「魔剣……」
ミーナが言うには、魔獣特効の処理の施された武器を総称してそう呼ぶとのこと。あるいは魔力を帯びたものも含まれるとか。
「ターゲットが分かっているんだ。なら専用の得物を持っていくだろ。これは魔剣、ぶった斬り。いつ作ったか……巨牛のツノと髄液を添加していてな、他にも要素はあるが豚アタマに特化した1本だ」
ブタだけに……? ネーミングセンスには触れない。そんなことよりも今確実なのは、あの苛烈で凄惨な光景を生み出した武器を作ったのは間違いなくこの男だということだ。