どれだけ身体を重ねても、どれだけ愛の言葉を伝えても、目の前にいるはずの大切なものは掴めない。
まるで雲か霞を掴むようにいつもすり抜けてゆくようで。
抱きしめている感触は確かにある筈なのに、何故に彼は儚い表情を向けるのだろう。
永遠なんてあるはずはないことなど、分かっていたつもりだった。それでも、彼となら永遠を望んでもいいんじゃないかと思えるくらい、大森は藤澤に恋慕していた。
それは出逢った時からだった。
まだ高校生だった大森が、藤澤に対して感じた感情は憧れにも似たようなものだったかもしれない。
それでも、彼を欲しいと思った。藤澤を纏う穏やかな空気に大森はまるで雷に撃たれたようになってしまった。
この人を逃したくない。バンドに入ってほしい。
もし拒否されたら、なんて考える余裕なんてなかった。
あの時、もし涼ちゃんが俺を拒否したらどうなっていたんだろう。
大森はそう考えてふっと笑った。
拒否されても、彼がうんと言うまで食い下がっただろうことは容易に想像出来る。
何故なら藤澤に告白をした時は大森は振られてしまったからだ。
バンドの件はともかくとして、恋愛となると話は別だと藤澤は大森を拒んだ。
藤澤としては、まだ高校生だった大森が本気で自分を好きだなんて信じられなかった。
思春期の気の迷いだよ、だなんて笑いながら藤澤は抱きしめようとした大森から逃げた。
「元貴は俺のことなんも知らないでしょ、俺だって元貴のことわからないし、まだ早いよ」
まずはお互いを知らなきゃ。元貴は勘違いしてるよ、ちょっと頭冷やしな。
今まで同世代としか付き合って来なかった大森に藤澤の言葉は痛烈に堪えた。
「大人になってもまだ、元貴の気持ちが変わらないなら、その時まで告白は保留にしとく」
そう言って笑った藤澤の顔を大森は忘れなかった。
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「結局、大人になっても気持ちは変わんなかったね」
脱色した長い髪を纏める藤澤の指先をぼんやり眺めながら大森はそう呟いた。
浴槽の縁に頬杖をついて、洗い場の鏡に映る藤澤の顔を見つめる。器用に髪をくるくると巻き、浴用の髪留めを後頭部で留めた藤澤は鏡の中の大森の視線には気づかない。
後毛が残る頸が艶かしくて、触れたくなった。
「え、どういうこと?」
大森に背を向けていた藤澤は大森の言葉だけは聞き取れていたらしい。髪を纏め終わったと同時に大森の方を振り向く。
「涼ちゃんに、初めて好きだって言ったとき」
大森はそう言って笑いながら両手を広げた。
シャワーで身体を濡らした藤澤は誘われるまま、湯につかる。
少し温めに設定したお湯が浴槽から溢れ出た。大森は藤澤を膝上に乗せるような体勢で座り、自然と二人の身体はぴったりとくっついている。
「そんなこともあったね」
苦笑いをしながら藤澤は大森の身体に身を委ねた。
白くて細い肢体がお湯を浴びてきらきらと光っている様に、大森は自分の欲望が頭を擡げるのを感じて生唾を飲み込む。
「頭も冷やしたし、大人にもなったしね。でも俺は涼ちゃんにずっと恋してる」
「まるで、片想いしてるような言い方だね」
大森の言い方に、藤澤はそう言って肩を竦めた。
「俺の方が涼ちゃんに惚れてるんだから、片恋みたいなもんでしょ」
頸の後毛を指で弄びながら、大森は多少自虐めいた口調でそう言う。藤澤の口から色めいた吐息が漏れた。
「俺は涼ちゃんの全てが欲しいよ」
今、こうして抱いていても、不安なんだよ。
大森はそう言って藤澤を強く抱きしめる。
「俺は元貴のものだよ、全部」
肩で息をしながらも藤澤はそう言って大森を諭している。
「涼ちゃん、俺から離れないで」
「離れないよ。一緒にいるよ」
泣きじゃくる嬰児をあやすように、藤澤は大森の頭を後手で撫であげた。
「涼ちゃんを俺でいっぱいにしたい」
大森はそう言うと、身を起こして、浴槽の反対側の縁に藤澤を座らせた。
「そんなに見ないでよ、恥ずかしいよ」
藤澤は俯いて大森から目を逸らすように顔を両手で覆う。
「恥ずかしがらないでよ。全部見せて、涼ちゃんの全部」
藤澤を見上げながら大森はその脚を開かせた。顔を覆っていた藤澤は慌てたが、もう遅かった。
「元貴、見ないで」
消え入りそうな声で抗う藤澤の唇は濡れて赤く濡れていて。
「身体は正直だね、涼ちゃん」
はっきりと形を成している藤澤の陰茎からは先走りの液が溢れていた。
「言わないで…」
藤澤の耳は真っ赤になっている。
「涼ちゃん、独りでシて見せて?」
その痴態をもっと見たくてたまらなかった。
藤澤は顔を真っ赤にしながら、大森の顔を見下ろしていたが、ぎゅっと目を瞑ると、おずおずと左手を伸ばした。
「はぁ…っ…ん、、あっあっ…あん」
浴室の壁に凭れながら、藤澤は脚を広げて自慰している。その姿をを見つめながら大森は静かに興奮していた。
「いいよ…涼ちゃん、すごい、淫靡だよ」
刺激が足りなくなったのか、藤澤は空いている右手指を会陰に這わせながら自身を扱く。
「元貴…もぅ、、ダメ…」
絶頂が近づいているのか、藤澤は腰をくねらせて涙を流している。それを見ながら大森は欲に塗れた表情で笑った。
「涼ちゃん、いいよ。イクとこ見せて」
そう言いながら大森も自慰の手を止めないままだ。
「元貴の、おっきくなってる… はぁっ… あっ」
扱く手の動きが早くなると同時に藤澤は背をのけ反らせる。
と、指の隙間から白い白濁液が溢れ出て、湯船に勢いよく溢れ落ちた。
「はぁっ…、あっ、、ああ、ぁ…いっちゃった…」
全力疾走した後のような疲労感と余韻が藤澤を襲う。大森は立ち上がって、そんな藤澤の鼻先に自身を突き出した。
「涼ちゃんだけイくのは不公平だから、俺のも手伝って」
言われるがままに藤澤は舌を伸ばす。
ゆっくりと側面を舐め上げてから先端を咥え、口を窄めて鈴口を吸い上げる。
「ああ…いいよ、涼ちゃん。上手になったじゃん」
大森はうっとりとした声で藤澤を見下ろす。そして彼の頭に手を当て、もっと奥まで咥え込ませるのだった。
「んぐぅッ…んんぅっ」
喉奥に大森の先端が当たり、咽そうになりながらも藤澤は懸命に奉仕を続けた。
「涼ちゃん、俺も、イきそう」
大森は藤澤の頭を掴みながら勢いよく腰を打ちつけると、そのまま吐精した。
「うっ…ぐぇ…ぇぇ」
咽せながらも藤澤は懸命に大森の精液を飲み干そうとしたが、全て飲み干すのは難しかったらしい。
口元から吐き出した残滓と、むせかえるような栗の花の匂いに酔いそうになりながら藤澤は大森をぼんやりと見上げた。
「涼ちゃん、目、閉じて」
言うのと同時に、大森はまだ残っていた精液を放つ。
藤澤の顔面は白濁液で塗れ、それでも彼の顔は恍惚とした表情を浮かべたまま大森を見上げていた。
コメント
6件
なんでこんな文章作るの上手いし、自分の癖にめちゃ刺さる作品を今まで見つけられなかったのだろうか。これはもっと伸びるべきだろうよ。最高ですよ。
こんな好きな方がフォローされていたなんて、、もっと早く気づけばよかった
更新ありがとうございます✨めちゃテンション上がりました! 片思い感、すごい良いです🥹♥️