テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ぬぬ@初心者さん
2,064
サラ
264
「え、弐十ちゃん、」
心臓がドクンッ!と大きな音を立てて鳴るのが分かった。
何か、何か言わないと、
「え、と、あー」
ダメだ、なにも出てこなくて、どうしよう、どうしよう、どうしよう、
息がどんどん早くなる。血の気が引いて”サー”と寒くなってくる。
「せやねんな!弐十ちゃん今日化粧しとるよな!なんか今日そんな気がしたんよ!え、どこのやつつことるん?」
「え、これ、かな」
せんせーの言葉に手に持っていたものを見せる。
「あ、これつこうとるんや!結構珍しいやつ使ってるんやね」
「うん、」
「んな怯えんでも、キルちゃんやシードに言わんよ、俺もメイクやっとるし」
「あ、あははは、そう、なんだよねー、やったはいいけど、アイツらにバカにされそうでさ、」
「せやから、今日なんかおかしかったんやね」
「…….今日の俺おかしかった?」
「んー、おかしいっていうより、なんかいつもとちゃう感じ?」
一度早くなった心臓はいまだ落ち着く様子はなく、それどころかどんどん早くなっている気さえする。
「にしても以外やんね、弐十ちゃんが化粧するなんて」
「あー、えっと、妹の彼氏がしてて、」
「あー!確かに弐十ちゃん、妹さんおるって言ってたもんな」
「そうそう」
そのまませんせーと話しながらみんなのところに戻る。
「お、お帰り~、遅かったじゃん」
席に着くなり、トルテさんが串をコチラに向けてくる。
「せんせーと話してた」
「なになに、俺の悪口?」
「いや、ニキの悪口」
「あぇ!、何で俺!?」
「俺がニキ君のこと嫌いだから」
「あ、そっか」
「www弐十ちゃんニキ傷ついてしもたってwww」
「wwwざまぁ」
「ねぇー2人とも酷いって」
「流石最強無敵連合きっての人の心がないコンビだね」
いつも通りのやり取りに、少しだけ肩の力が抜ける。
テーブルの上には追加で頼まれたらしい料理が増えていた。気になった物に適当に箸を伸ばす。
「弐十くん今日全然食べて無くない?」
「そう?トルテさんの勘違いじゃない?」
「あぁ~、それに少しやせたんじゃない?」
「えー、シード君まで?」
「え、なにお前らまで今日BL路線で行く気なの?」
「ちげーよ馬鹿、単に感想言っただけ」
「ほら弐十ちゃん唐揚げでもお食べ」
「いやせんせー、俺もうお腹いっぱいなんだけど」
皿の上に乗せられた唐揚げをもそもそと口に運ぶ。結構もう限界かも。
「ね~、俺もうマジで食えないんだけど~」
「え、マジ?」
「マジマジ、てっかさっきから俺そう言ってんじゃん」
ニキ君と違って俺はマックデブじゃないし。確かに昔よりかは減ったけど、そんな訝しいがまれるほどじゃないはずだ。
「いやぁ、成人男性としてその食事量は結構やばくない?」
「デブに言われてもなぁ~」
「いやぁ、確かにニキがデブなんはいつものことだけど流石に食べなさすぎではある思うで」
「ん?ボビー、何で今一旦俺のこと殴ったの」
「いや、事実じゃん」
「キルちゃん?」
「んで、弐十くんは今日体調でも悪いん?マジで全然食っとらんじゃろ」
チッ、せっかく話題が移ったと思ったのに、
「いや、来る前にちょっと食べてきたんだよね」
もちろん嘘だけど。
「……ほんならええんじゃけど」
ぶるっと、ポケットの中でスマホが震えた。
反射的に体が強張る。
「弐十くんどうかしたん?」
向かいに座るシード君が首をかしげる。
「んー、大丈夫大丈夫」
「ほーん、ならええんじゃけど」
慌てて笑ったが、いまいち信用されているのかいないのか、
「あー!俺煙草吸ってくる!」
ごまかすように席を立つ。
外の喫煙所でスマホを取り出す。
通知は1件、ここのところ見慣れてしまった連絡先から。
のどの奥でひゅっと音が鳴る。
『今から○○ホテルまで来られる?』
たった、それだけ。なのに心臓が嫌な音を立てる。
どうしよう、珍しく、本当に珍しくも疑問形で寄越された一文に、断ることを許されている気がした。今日だけは、今だけは、みんなと一緒にいたい。
『ごめんなさい、今日だけは行けないです。許してください』
ありったけの願いを込めて送った一文。
既読の文字はすぐについたのに、一向に返ってこない。
早い心拍数のせいで浅くなった呼吸の音があたりに響く。
『いいよ』
『その代わり明日』
『分かってるでしょ?』
やけに優しい返事が返ってくる。
浅くなった呼吸と相まって、立っていることができなくなってしまう。
ガシャン!と音を立ててフェンスに寄り掛かる。
許されたという事実と明日自分に降りかかるであろうことを想像してめまいがしてくる。
「弐十くん?」
声をかけられて顔を上げる。
目の前で俺のことを見下ろしているのはシード君で、こんな近くにいるのに気が付けないなんて勇者失格だ。元、だけど。
それよりも、見られた?どこから?スマホは?
いや、角度からして画面までは見えてないはずだ。
「大丈夫そ?」
「ちょっとめまいがしただけだから大丈夫」
「やっぱ、ちゃんと食っとらんのじゃろ?」
「えー、俺そんな信用ない~」
「まぁ」
「ひっどーい」
シード君はゆっくりと俺の横に腰を下ろすと煙草に火を点けた。
その動作が、アイツらと重なってビックりと、一瞬身構えてしまう。自分も散々吸っているくせに。
「俺ちょっと弐十くんに話したいことあったんじゃよ」
「へ、ぇー、そう、なんだ、なに?」
あくまでも平静を装って問いかける。まだ、まだバレたと決まったわけじゃない。服の上から、腕に爪を立てる。まだ、大丈夫。
「それ、さっき、メニュー渡したとき、見えてしもったから、」
腕を指して、気まずそうに言われる。
「元カノに、そういう子がおったんよ、じゃけえ、なんか、悩みでもあるんじゃったら聞かせてや」
どうやら、俺がリストカットをしているのだと勘違いされているらしい。バレるくらいなそっちの方が、いくらかましだ。
いや、自傷行為には違いないから、勘違いとも言えないのか。
「ほんと、大丈夫だよ。最近実家の方で色々あったってだけ」
「なら、ええんじゃけど。なんかあったら遠慮なく言ってや、年下じゃけ、頼りにならんかもじゃけど」
「あははは、なんか、あったら、頼らせてもらうから、大丈夫だよ。ありがとね」
「おう」
自分に言い聞かせるようにしてそう言う。この程度のことで友達に頼るほど俺は弱くないはずだ。きっと、そう。いや、そうでなくてはならない。
「一本頂戴よ」
「ん、珍しいのぉ」
「充電忘れちゃってたみたい」
そう言って、ポケットから電子煙草の本体を見せる。本当は、もうずいぶん前から電源を入れていないのだけれど。
シード君に火を点けてもらって、勢い良く吸い込む。
煙草のクラっとする感覚は首を絞められた時の感覚と同じなのにこっちは安心する。
普通にする呼吸より、フィルター越しの方が息がしやすいのはなぜだろうか、そんなことを考えながらゆらゆらと漂う煙を見つめる。
「俺もう1本吸うてから戻るけぇ、先戻っといて」
「はいよ」
店の中へ戻ると、思ったよりも時間が経っていたらしい。
「もー!弐十ちゃん遅い!シードも弐十ちゃんが行った後、すぐに行ちゃったしさぁ」
開口一番、ニキ君が飛んできた。
「ごめんごめん。え、てかそれならニキ君たちも喫煙所来ればよかったじゃん」
そう返して席に着く。本当はみんな来ていたら困ってしまっただろうけれど。
「お前また俺らの動画見てないのぉ?」
「あ、バレた?」
「いやまぁ、良いけどさぁ」
「動画の罰ゲームで勝ったシード以外の俺ら全員禁煙中なのよ」
「はっ、ウケる」
テーブルの上にはまたもや新しい料理が増えていて、みんな思い思いに箸を伸ばしていた。
さっきお腹いっぱいだって言ったのにも関わらず、俺のお皿にも何個か乗せられていたからこっそりと他の人たちのお皿に移す。主に文句を言わないしろせんせーのところにだけど。
いつも通り。
本当にいつも通り。なのに、さっきのメッセージが頭から離れない。
「弐十ちゃん?」
「ん?」
「聞いとった?」
「ごめん、聞いてなかった」
「やっぱり聞いてへんやん」
しろせんせーが呆れたように笑う。
「リベンジ旅行したいよねって話」
トルテさんが箸を振る。
俺がぼーっとしている間にシード君も戻ってきたようで、心配そうな視線を寄越してきた。ほんと信用無いな俺。さっきも言ったように俺は大丈夫なのに、
「あー」
適当に返事をしようとして言葉が止まる。
来月?
再来月?
その次も、
予定が分からない。
いや、分かっている。
分かっているからこそ答えたくない。答えられない。
「ほら、前回弐十ちゃんサボりだったじゃん?」
「いや、体調不良ね」
いまだ疑うニキにそう返す。
「弐十くんどこ行きたいとかあんの?」
「えー、北海道とか?」
「あーwww弐十くんウィンタースポーツ好きだもんねwww」
「いいだろ‼別に‼」
俺のウィンタースポーツ好きをバカにしてくるトルテさんに怒鳴り返す。
「まぁ、でも北海道はええかもしれんな」
「シード君もそう思うよね」
「いやぁ、温泉入りたいんよ」
温泉か、いいな、いきたいな。
今のままじゃ、この体を見られるわけには行けないから、いけないけど、
冬になったら?来年なら?さすがに来年になったらもう大丈夫なんじゃない?
「だったら冬に行った方がええよな?」
「だあぁぶ先だね」
「まだ夏来とらんもんな」
「あ、もう北海道は決定なんだ」
「え、キルちゃん他に行きたいところあるの」
「え、ないね」
「じゃぁ、良いじゃなぇかよ」
「ははは」
「ま、この話はトニー達もおるときにした方がええよなぁ」
「それはそうすぎる」
そんな会話をしてその日は解散した。
別れる寸前、シード君に手招きをされて、「弐十くん、ほんまに大丈夫なんよな?」と心配された。もちろん大丈夫と返したけどやっぱり、いまいち信用されていない気がする。
そういえば結局、誰もお酒飲んでなかったな。なんでだろ?
あーぁ、このまま、明日が来なければいいのにな。
俺だけ逆方向だったから1人きりになった電車の中で明日のことに思いをはせる。
コメント
1件
感想ありがとう、ゆうゆうさん…!今回もめっちゃ胸が詰まったよ😭💔 弐十くんの“みんなといたいのに逃げ場がない”感じ、地の文からひしひし伝わってきて読んでて息苦しくなった…。シードくんの優しさが逆に切ないし、あのスマホの通知の一文の怖さがやばすぎた。ただの“いいよ”に震えちゃうの、本当にもう辛いよ…。 明日が来なければいいのに、って思う気持ち、すごくわかる。でも仲間たちと過ごす何気ない時間が、ちゃんと弐十くんの日常を守ってくれてる気もして、そこが尊い……。 次が気になるけど、弐十くんが少しでも安心できる時間がありますようにって祈るばかりです🌸