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午前中の仕事は、驚くほど手につかなかった。
時計の針が動くのが、これほど遅く感じたことはない。
ようやくお昼休みを告げるチャイムが鳴り、私は逃げるように屋上へと向かった。
扉を開けると、冷たい風と共に、あのシトラスの香りがした。
フェンスに寄りかかって街を眺めていた凪さんが、私に気づいて、ふわりと顔をほころばせる。
「結衣さん。……お疲れ様です」
「お疲れ様です、凪さん。……それで、確認したいことって?」
私が手帳を取り出そうとすると、彼は苦笑して、私の手元を制した。
「実は……仕事の話は半分だけなんです」
「え……?」
「あなたが今日、どんな顔をして出社してくるか、気になって仕方がなくて。……昨日の今日ですから」
凪さんは一歩、私に近づいた。
スタジオで見せる「天才」の鋭さはどこへやら、今の彼は、恋する一人の男性のような、少しだけ照れた目をしている。