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白布やっぱり君はツンデレだよねぇw てかツンデレじゃなかったら驚くし、五色はどんまい笑
翌日の英語の時間。
テスト返却のチャイムが鳴る前から、教室には重苦しい、けれどどこか熱を帯びた空気が漂っていた。
「……西村、これ」
先生から手渡された解答用紙。
心臓が耳元で鳴っているみたいにうるさい。
ゆっくりと、裏返しの紙をめくる。
「…………っ、きた!!」
右上に大きく書かれた数字は、『100』。
人生で一番、完璧な満点。
私は椅子をガタンと鳴らして立ち上がり、隣の白布君に答案を突きつけた。
「見た!? 白布君! 文句なしの100点! あんたの負けだよ、パシリ決定!!」
ドヤ顔で言い放つ私に、白布君は動じない。
……いや、動じないふりをしているけど、その目線は自分の答案用紙に釘付けだ。
「……おい。はしゃぎすぎだ、バカ」
彼がボソッと呟いて、自分の用紙を机の上に滑らせた。
そこにあった数字は――。
「……えっ。……『99』?」
一瞬、思考が止まった。
あの白布賢二郎が、英語で、私に負けた……?
しかも、たった「1点」差で。
「……計算ミスだ。最後の一問、スペルを一文字抜かした」
白布君は拳を握りしめ、悔しさを押し殺すように声を低くした。
いつもなら「お前が躓いてるだけだろ」なんて煽ってくるはずの彼が、今は信じられないくらい、屈辱と……それ以外の何かに顔を赤く染めている。
「……白布君。本当に、私の勝ち?」
「……ああ。約束だ。……一週間、何でも言うこと聞いてやるよ」
彼は視線を逸らしたまま、吐き捨てるように言った。
勝った。勝ったはずなのに。
昨日の「私の顔がチラついた」っていう彼の言葉が脳裏をよぎって、ちっとも「ざまぁみろ」なんて気分になれない。
「……じゃあ、さ。パシリなんて言わないから。……放課後、一緒に帰ってよ。寄り道して、アイス奢って」
私が少し照れくさくて語尾を濁すと、白布君は一瞬驚いたように目を見開いた。
そして、ふっと自嘲気味に笑い、私の頭をポン、と乱暴に撫でた。
「……効率悪りぃな。パシリの方が楽だったわ」
「……何よ、嫌なの?」
「……嫌だって言ってねーだろ。……行くぞ。部活前、三十分だけだ」
彼はぶっきらぼうに立ち上がり、教室を出て行こうとする。
でも、その耳の先は、やっぱり隠しきれないくらい赤かった。
逆転の1点差。
敗北は、思っていたよりもずっと、甘くて熱い温度を帯びていた。
「おーい、賢二郎! 練習前にどこ行くノ?」
放課後の昇降口。白布君の後ろをついて歩いていた私の耳に、間抜けた、でもよく通る声が響いた。
振り返ると、そこには赤髪をツンツンに立たせた天童さんと、隣でキョトンとしている五色君の姿。
「……チッ。天童さん、部活の時間までまだありますよ」
白布君があからさまに不機嫌な顔で足を止める。
でも、天童さんはそんなの気にせず、ニヤニヤしながら私と白布君を交互に見た。
「へぇ〜? 賢二郎が女子と二人きり? しかも、その子…今回の英語で賢二郎を負かしたっていう『西村さん』じゃないノ?」
「な、何でそれを……!」
私が驚いて声を上げると、隣で五色君が「ええっ! 白布さんに勝ったんですか! すげえ!」と目を輝かせている。
「瀬見から聞いたよ〜。賢二郎が珍しくスペルミスして悶絶してたって。……で? 負けたパシリとして、デートのお誘いかな?」
「……デートじゃねーよ。アイス奢らされるだけだ。効率悪ィから早く行かせろ」
白布君は私の腕をぐいっと引っ張って、天童さんたちから遠ざけようとする。
けど、天童さんの「ニヤニヤ光線」は止まらない。
「アイスねぇ〜。半分こしちゃう? それとも、あーんでもしちゃう感ジ?」
「天童さん、しつこい。……行くぞ、西村」
白布君の顔が、みるみるうちに沸騰したみたいに赤くなっていく。
いつもは「冷徹なセーッター」なんて呼ばれてるのに、今はただの、余裕のない男子高校生だ。
「……あ、あの! 別にデートとかじゃなくて、ただの勝負の約束ですから!」
私も慌ててフォローを入れたけど、五色君の「白布さん、顔赤いですよ! 熱ですか!?」という追い打ちで、白布君の堪忍袋の緒が切れた。
「……五色。今日の直上パス、五百回追加な」
「えええええっ!? なんでですか!?」
「効率よく黙らせるためだ。……西村、行くぞ。これ以上ここにいたら、脳が腐る」
彼は私の手を引いて、逃げるように校門を飛び出した。
後ろから「賢二郎、楽しんでネ〜!」という天童さんの歌うような声が追いかけてくる。
「……ったく、余計なことばっか……」
白布君は手を離さないまま、不機嫌そうに前を向いて歩く。
でも、繋がれた手からは、彼のバレーで鍛えられた指先の熱が、ダイレクトに伝わってきて。
「……ごめんね、白布君。冷やかされちゃって」
「……謝るな。……つーか、手、離せ。……店まで、遠いだろ」
ぶっきらぼうに離された手。
でも、彼は歩幅を私に合わせて、少しだけゆっくり歩き始めた。
冷やかされた恥ずかしさと、繋がれた手の余熱。
敗北の味は、どんどん甘くて、熱い温度を帯びていく。