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第四章 夜を彷徨う影
夜の王都。
昼間の賑わいが嘘のように静まり返り、石畳には月明かりだけが降り注いでいた。
「全員、準備はいいかい?」
ルークが静かに仲間を見渡す。
「はい。」
ノアが頷く。
レオンハルトは剣の柄に手を添え、周囲を警戒している。
ツララも緊張した表情で息を整えた。
ねねはいつも通り落ち着いていたが、その視線は暗闇の隅々まで見逃してはいなかった。
「それじゃあ、見回りを始めよう。」
四人は北区の路地をゆっくり進む。
住民たちは皆、家の扉を固く閉ざしている。
「本当に誰もいませんね……。」
ツララが小さく呟く。
「夜になると外へ出ないよう、騎士団が呼びかけているからね。」
ルークは優しく答えた。
「それだけ今回の件は深刻なんだ。」
その時だった。
カラン……
小さな鈴の音が夜風に乗って響く。
ツララが足を止める。
「今の音……。」
ねねの目が鋭く細まった。
「こちらです。」
全員が音のした路地へ走る。
そこには、一人の少年が立っていた。
昼間、女の子が探していた兄だった。
「見つけた!」
ツララが駆け寄ろうとする。
しかし。
「待って。」
ルークがそっと腕を伸ばき、ツララを制した。
「様子がおかしい。」
少年は俯いたまま微動だにしない。
そして、ゆっくり顔を上げた。
その瞳は――
赤く染まっていた。
「っ……!」
ノアが息をのむ。
「操られています!」
少年は無言のまま、一歩、また一歩と近付いてくる。
「ルミアーナ嬢。」
ルークは静かに言った。
「決して近付いてはいけない。」
「……はい。」
ツララは頷く。
だが、その表情には悲しさが浮かんでいた。
(助けたい……。)
(この子も、妹さんのところへ帰してあげたい。)
突然、少年の周囲から黒い霧が立ち上る。
「来るぞ!」
レオンハルトが叫ぶ。
次の瞬間、黒い霧が刃のように襲いかかってきた。
「《ウィンドシールド》!」
ルークが風の障壁を展開し、全員を守る。
霧は障壁にぶつかると、音もなく消えていった。
「魔法そのものが攻撃している……!」
ノアが驚く。
「普通の術式じゃありません!」
「ふふ。」
どこからともなく笑い声が聞こえた。
「いい判断だね。」
屋根の上。
黒いローブの人物が月を背に立っている。
赤い瞳。
不気味な笑み。
「また君か。」
ルークが静かに睨む。
「ゼファー。」
魔族十二将、第十一将。
ゼファーは軽く手を振った。
「こんばんは、王子。」
「それと……。」
その視線がツララへ向く。
「ルミアーナ嬢。」
ツララは思わず身を強張らせた。
ルークは自然に一歩前へ出る。
「彼女に近付くつもりなら、僕が相手になる。」
「怖い顔をしないでよ。」
ゼファーは肩をすくめる。
「今日は試したかっただけさ。」
「試す……?」
「彼が助けられるかどうか。」
そう言って、少年を指差す。
「さあ。」
「どうする?」
「人間を傷付けずに止められるかな?」
その言葉と同時に、少年が苦しそうに胸を押さえた。
「うっ……!」
「お兄ちゃん……!」
ツララは思わず一歩踏み出す。
(助けなきゃ。)
その強い想いに呼応するように、足元に淡い蒼い光がふわりと広がる。
しかし本人は気付いていない。
「……?」
ルークだけが、その光を見て目を見開いた。
(今のは……。)
次の瞬間。
ねねが前へ出た。
「お嬢様。」
静かな声だった。
「ここは、お任せください。」
その一歩には、王国最強の武人だけが持つ圧倒的な気迫が宿っていた。
ゼファーは口元を上げる。
「なるほど。」
「君が”剣聖”か。」
ねねは答えない。
ただ静かに構えた。
夜風が吹き抜ける。
二人の間に、張り詰めた緊張が走る――。
第二巻 第四章 完
📖 次回・第五章「剣聖ねね」
ついにねねが本気の剣技を披露!
王国最強と呼ばれる実力の一端が明らかになる一方、ゼファーはなおも余裕の笑みを崩さない。そして戦いの中で、ルークはツララの”ある異変”に気付き始める――。
コメント
1件
おお、今回の話も重くて引き込まれたわ…。夜の王都の静けさと、操られた少年の不気味さがすごく生々しい。特に「さあどうする?」ってゼファーに問いかけられて、ツララが足元に蒼い光を宿す瞬間、鳥肌立った。ルークだけが気付いてる伏線も熱いし、ねねの「ここはお任せください」の一歩、めっちゃカッコよかった!次回の剣聖ねね、マジで待ちきれん🔥