7時11分渋川駅
快晴
彼は今日もこの電車に乗ってるのか。満員電車に乗り込むと無我夢中に彼を探した。いるわけない。最悪の気分だ。高校の奴らと同じようなバカになっていた。だから恋は嫌なの。でも、やめられないよ。恋なんてしたところで何も変わりやしない。ましてや辛いことが多くなるだけ。つまらない子供じみた恋愛なんてやったところで何も意味をなすことはない。それでも、彼を探した。田中という文字を。ただ、満員電車でたった一人の男の子を見つけるなんて無理に決まってる。諦めた。ばかなことはやめよう。目の前にある田中という文字は彼ではない。もう何度も田中を見た。この人もきっと違う。期待などしていなかった。でも、その時までの記憶が飛びそうなくらい嬉しくなった。満員電車で私とおしくらまんじゅうをしていたのは彼だった。満員電車にこれだけ感謝したのは人生で初めてだ。彼と私の距離はゼロ。彼のぬくもりが私に直で伝わってくる。顔を上げることができない。マフラーに顔をうずくめる。彼と話したい。私を彼のものにしてほしい。一目惚れというのはここまで人を変えてしまうのか。たすけてほしい。彼という沼から開放して。お願い。狂ってしまいそう。電車の中ではヒソヒソと恋愛話が飛び交う。まるで私の恋をすすめるかのように。どうしたら彼に近づけるのか。それだけを考えた。もう1駅で彼とはぐれてしまう。まだこのままでいたい。電車と電車がすれ違う音が私の心臓の音とかさなる。彼の隣に座りたい。いや、座らなくてもいい。立ってでもいい。彼と同じ時間をもっと過ごせるなら。すきと言えたらどんなに楽なのか。想像しただけでも死にそう。ついてしまった。人が雪崩のように電車から降りていく。人混みにまぎれて彼は私の視界からいなくなった。私の周りには彼の寒椿の匂いがかすかに残っていた。私は諦めて座ることにした。端の方に空いていた席に座り、いつものようにイヤホンをする。寒椿の匂いを感じながら私は曲に集中した。彼を忘れるかのように。無理なのはわかっているのに。あ、またこの匂い。寒椿とはこんなにもいい匂いだったのか。え、隣には田中という名前が刺繍された部活バッグを持っている人がいる。私があれだけ望んでいた彼が。私はこの空間をどう過ごすかで頭がいっぱいになった。すき。この言葉が頭から離れてくれない。彼が私を取り巻く。
コメント
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今回は文章多めです!さてさて高橋さんは田中くんにどうアプローチするでしょうか!?