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柘榴とAI

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#探偵
橘靖竜
5,431
#闇バイト
るしゅ
753
キャプテンを殺す。
新しく生まれた吾妻勇信。
その名は、暗殺者。
暗殺者は怒りに身を任せたまま、静岡県しそね町へ向かっていた。
体力の限りを尽くして走る。
疲れれば少し休み、また走る。
結局、目的地であるしそね町の別荘に着くまでに、5時間もの時間を費やした。
道中、めぼしい民家の軒先や物置を探り、靴と帽子とマスクを盗んだ。
完全な変装とは言えないが、顔を隠すことには成功した。
しかし携帯電話も地図もない。
道路に沿って進むだけのルートだったため、別荘に着いたときには、すでに日が昇りはじめていた。
門の前でしばらく呼吸を整えてから、暗証番号を押して中へ入る。
盗んだ靴を脱ぎ、息を殺しながら内部を見回した。
音はまったくしない。
他の勇信たちが眠る寝室を避け、クローゼットへ向かう。
洋服を漁るように調べていると、背後から声がした。
「おまえ、何してんだ?」
突然現れた別の勇信が、目をこすりながら言った。
「ちょっと寒くてな。いいからトイレに行け」
暗殺者は表情を変えることなく言った。
「俺は寒くないのに、おまえは寒いのか?」
別の勇信が怪訝そうな顔を浮かべた。
「寝ぼけてないで、トイレに行けって」
「……」
別の勇信はあくびをしながら、トイレへ歩いていった。
暗殺者は手早く服を探り、キャッシュカードと下着を拝借した。
カードの暗証番号はわかる。
自分自身の記憶なのだから、当然だった。
トイレに行った勇信が目の前を通り過ぎるのを確認したあと、暗殺者は静かに玄関を出て別荘を離れた。
最初はただ、感情の赴くままにキャプテンの首を絞めて殺すつもりだった。
しかししそね町に来るまでの道のりで、暗殺者の心理は次第に変わっていった。
キャプテンを殺すという、最終目標は変わらない。
しかし殺したあとの死体処理や、その後の対応を考えると、早急な殺人にはデメリットが多い。
機会はいくらでもある。
あえて他の勇信がいるタイミングで犯行に及ぶ必要はない。
キャプテンがひとりになる瞬間など、これからいくらでもあるだろう。
何より、キャプテンの行動はわかりきっている。
わずか数時間前まで、自分がキャプテンだったのだ。
その心理は手に取るように、いや、それ以上に鮮明にわかっていた。
別荘を出た暗殺者に必要だったのは、何よりも休息だった。
体力は限界まで削られている。
しかし、さすがに別荘では眠れない。
思い当たる休息場所は、1か所しかなかった。
暗殺者は別荘から1キロほど離れた、ビスタ建設現場へ向かって歩いた。
夜が明けると、町民の姿がぽつぽつと現れはじめた。
朝の散歩をする年配者たちだ。
さすがに見知らぬ男の姿を見れば、驚くだろう。
しかも、しそね町に来る途中で盗んだ服装だ。
帽子、マスク、靴、上着。
コーディネートはバラバラで、汗と土と排気ガスでひどく汚れている。
警察に通報される可能性を、当然考慮しなければならなかった。
周囲に気を配りながら路地を曲がると、ひとりの老人と出くわした。
老人はまだ目が覚めていないのか、地面を見つめたまま暗殺者のそばを通り過ぎた。
「ふぅ……助かった」
町民を避けながら、ようやくビスタの現場に着いた。
しかし建物は、想像とかなり違っていた。
仮設フェンスをよじ登り、内部のどこかで仮眠を取るつもりが、フェンスはあまりにも高い。
街灯をよじ登ったところで、フェンスとの距離が遠く、飛び移ることも不可能だった。
「元気でいろよ、ビスタ」
暗殺者は捨て台詞を吐き、ビスタをあとにした。
続いて、吾妻建設のビスタ管理事務所を訪ねてみた。
事務所の扉は固く閉ざされていて、周辺のどこにも休憩できそうな場所はない。
仕方なく外に座り、少し体力を回復させてから事務所を離れた。
「空腹がひどいな……。それに眠くてたまらん」
結局、暗殺者はあてもなく1時間ほどさまよった。
その途中で、偶然小さなバス停を発見した。
30分ほど待ってからバスに乗り込み、名前も知らない地方都市の駅で降りる。
駅の周辺をぐるりと見て回った。
唯一開いていたうどん屋に入り、腹を満たした。
その後コンビニATMで現金を引き出し、駅裏にある寂れたビジネスホテルへ入った。
一泊3500円。
人生ではじめてのビジネスホテルだった。
死体安置所のような箱の中で過ごすのも、はじめてのことだった。
目を覚ますと、もう午後になっていた。
ぬるま湯でシャワーを浴びてから、一度外へ出る。
個人経営の古着屋へ行き、これまで勇信が好んできたものとは真逆の、スポーツウェア一式を購入した。
ホテルに戻って着替えると、また空腹を自覚した。
チェックアウトしてから、再びうどんを食べる。
ようやく腹を満たし、コンビニで購入したコーヒーを飲みながら、駅前のベンチでひと息ついた。
「頭痛がひどいな。昨日今日と、少々無理をしすぎたようだ」
ずっと頭痛の存在には気づいていた。
しかし他にやるべきことが多く、黙殺してきたのだった。
暗殺者は薬局を訪ね、頭痛薬とビタミン剤を購入した。
それから再び、同じビジネスホテルにチェックインする。
「棺桶のような部屋ではなく、一番いい部屋をください」
「はあ?」
受付の老婆が、顔中をシワくちゃにした。
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