「私は鈍感でした。タクマ様が私の想いを知っているとは、夢にも思いませんでした」
王女は誰にでもなく語り始める。
「魔王討伐に向けた進軍の最中に悩ませてしまいました。王族失格ですね…」
「い、いや。ナナリー姫は悪くない!それに…悩むだけ悩んで、後一歩を踏み出せなかったから…こんな事に…俺のせいだ」
若者達の苦悩を目の当たりにした国王。
唯一の大人である国王は、その場から少し離れ、子供達の成長を見守ることにした。
そして、最後には必ず責任を取る。
大人として、そう覚悟していた。
「二人とも、それはおかしいです。私が犯人なのだから、全て私のせいです。
タクマも何も知りません。犯人を知ったのは偶々でしょう。タクマは鈍感だから…」
魔女は最後の方、帽子を下げて表情を隠した。
「どうやら私たち二人にも責任がありますね」
「ははっ…そうだな。二人とも鈍感らしいからな」
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「陛下。以上が、この事件の真相になります。罰するのであれば、私も甘んじて受け入れます」
「うむ。相分かった」
救国の英雄達。このままいけば皆がいらない傷を負う。
国王は顔を上げ、この場の皆に宣言する。
「この度の事件は余の不注意によるもの。神器をどこにしまったのか忘れるなど、あってはならないことである」
「「「!!」」」
「よって、これまで以上に国の為に働くことを約束しよう。
並びに連帯責任として、王族である王女の、勇者との婚姻は白紙にさせてもらう。
不甲斐ない父の責任の一端を背負わせて、本当に済まない。
以上である」
「お父、様…」
魔王なき世界。これまでの苦労がなくなるはずのこの時代に、不幸せなどあってはならない。
まずは、自分の目につくところから。
その想いを乗せ、王は高らかに宣言をした。
「いやぁ、見ものだったぜ?陛下が貴族達に伝えた瞬間、怒号が飛び交ったからなぁ」
怒号の行くへは、もちろん国王ではない。
今回の事件は皆が皆、人のせいにしていた。それ故に『だから言ったであろうっ!!』『勇者がそんなことをするわけがなかったのだ!』などの声が上がった。
「俺としては申し訳ないばかりだけどな」
「そうよっ!アンタの頭がもう少し良ければ、何もなかったんだからっ!!」
魔女は仲間内だけではツンデレだった。
「でも…お二人とも本気なのですか?」
楽しそうな会話に、申し訳なさそうに聖女が割って入る。
「ああ。俺がいたらナナリー姫は遠慮しそうだからな。準備が出来次第、国を出るよ」
「わ、私は!こ、コイツが一人だと…」ゴニョゴニョ
「ふふっ。わかっているわ。ディーテさん、タクマさんを頼みましたよ?」
「しょ、しょうがないわねっ!!私がいなきゃ何も出来ないんだからっ!」
魔女はツン……
「某も未だ見ぬ強者を求め、旅に出る。また何処かで会おう」
「……俺達より強い奴がいるわけないだろ」
拳聖の言葉に剣鬼が呆れる。
勇者パーティに入った時に加護を授かっているのだ。それより以前から強者であった五人は、人外の力を手にしていた。
魔王を討伐した後は加護がさらに強まり、力を持て余しているのだ。
そんな自分達から見て、もし強者がいたのなら『お前が魔王を倒しておいてくれよ』と、四人は強く思うことだろう。
もし、いたら恨むくらいには。
「そう言えば…ナナリー姫に聞いたんだけど。
あのまま俺が犯人になっていたら『魔女様は神器をまた隠すおつもりだったのでしょう』って聞いたんだけど、ホントか?」
「モノマネ気持ち悪いからやめなさいよ…
そうよ。でも、ハナから私達まで疑われたのは誤算だったわ。そのせいで盗みづらくなったもの」
人外の…人智の及ばない能力があってこその、策だったようだ。
「そんな脳筋みたいな作戦に俺を使ったのかよ…」
「いいでしょっ!!うまく行ったんだから!!」
「………」
上手くいかなかったら…考えるのが恐ろしいな……きっと碌でもない未来だったんだろう……
勇者にも怖いものがあったようだ。
後の世。勇者と魔女の二人は世界を旅して周り、困っている人々を助けるのだが、それはまた別のお話。
「お母さん!それで?!それで!?」
幼い頃の私は母に続きを促す。
「はいはい」
『三人での話し合いはそこで終わりました。これより後は私の憶測も含まれます』
母が読む本にはそう記されていた。
『魔女は勇者に恋をしていたのでしょう。しかし、それに気付かない勇者は、あろうことか魔女に相談を持ちかけます。
【王女には好きな人がいるんだ…でも、王女は国の為に自分の想いを殺して、俺と婚姻しようとしている。好きな人を諦めて国の為に婚姻するなんて、俺は間違っていると思うんだ。でも、話が大きくなったせいで、俺が婚姻を断ってしまうと王女に傷がついてしまう。いや、傷付けたくないんだ。好きな人だから】
勇者は勇気を持ち合わせていません。彼にあるのは優しさ。万物を平等に愛せる優しさなのです。
そんな勇者は、どうすれば王女が幸せになれるのかと、苦悩しました。
婚姻を蹴っても王女に傷が付き、それが原因で想い人と結ばれないかもしれません。
では、このまま婚姻を結ぶのか?
『今は好きではなくとも、いずれ好きにさせる』と言ってくれた勇者ですが、他の想い人がいると知ってしまった今、その我儘を王女へとぶつける様なことは出来ません。
悩みます。勇者は悩みました。
そして、答えが出ることなく、魔王を討ち果たしました』
「すごーいっ!流石勇者様っ!」
「そうね」
『魔女は考えます。【勇者に瑕が付けば、王女に瑕がつく事なく婚姻の約束を白紙にする事が出来るのでは?】と』
「勇者様かわいそう?」
「そうかしら?」
『【どんなに傷ついても、私が必ず癒してみせるわ】魔女は覚悟を決めます』
「うわぁぁっ!好きなのねっ!勇者様のことが大好きなのよっ!ねっ!お母さん!」
「そうね」
『そして、魔女は行動を起こしました。唯一の誤算は、勇者に犯行がバレてしまったこと。
そして、それが無ければ、私はこの場所に辿り着くことが出来ませんでした。
勇者様は…いえ。勇者パーティの皆様は、最後に私の心をお救いになられました』
「『盗ませたのは王女』おしまい」
巻末のタイトルを読むと、母は静かに本を閉じました。
「さっ。もう寝なさい」
「うん!おやすみなさーい」
幼き私はベッドに横になり、母は魔法の灯りを消した。
〓〓〓〓〓〓〓あとがき〓〓〓〓〓〓〓〓
以上で本編は完結を迎えました。
あと一話ありますが、本編にはあまり関係はありません。
後日談でもなく、むしろ過去のお話になります。
そちらも踏まえて、このお話の真の完結とさせて下さい。
過去話を先に載せるとネタバレが酷いので、この様な順番になってしまいましたこと、平にご容赦ください。
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