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夜更け、部屋の灯りは最低限だった。ナチスはソファに腰掛け、立ったままの日帝を見上げている。
「……無茶をしたな」
低く抑えた声。
無理をした日帝に怒っているのだろう。
日帝はジャケットを脱ぎ、血の痕を確認しながら淡々と答える。
「計算通りだ。致命傷は避けてる」
その冷静さが、ナチスを苛立たせる。
「お前はいつもそうだ。
“大丈夫”って顔で、自分を切り捨てる」
ナチスは立ち上がり、距離を詰めた。
逃げ場を塞ぐように、壁に手をつく。
日帝は一瞬だけ視線を逸らしたが、すぐに戻す。
「必要だからやってるだけだ。感情の問題じゃない」
「違う」
ナチスの声が、低く、重く落ちる。
「俺の問題だ」
ほんの僅かな反応。それを、ナチスは見逃さない。
「お前が傷つくのを、他人事だと思えなくなった」
指先が、日帝の顎に触れる。
乱暴ではない。だが、逃がす気もない。
「……ナチ?」
呼ばれただけで、胸の奥が熱を帯びる。
それが憎くて、同時に手放せなかった。
「お前は俺の物だ。勝手に壊れるな」
それは命令の形をした、独占宣言だった。
日帝はしばらく黙っていた。
冷静に状況を整理するように、ゆっくりと息を吐く。
「……それは、独占欲か?」
静かな問い。感情を揺らさない声。
ナチスは笑った。
自嘲気味で、危険な笑みだった。
「そうだ。今さら否定しない」
距離が、完全になくなる。
触れ合うほど近いのに、日帝は抵抗しない。
「お前が誰かのために消耗するのは許せる。
目的のためなら、理解できる」
ナチスは囁くように続ける。
「だが――俺以外の理由で壊れるのは、許さない」
日帝の喉が、微かに鳴った。
理性は保っている。だが、逃げる判断はしない。
「……ずいぶん、傲慢だな」
「今さらだ」
ナチスの指が、日帝の背に回る。
抱き寄せる力は強く、逃げ道は完全に塞がれていた。
「覚えておけ、日帝。
お前を好きにしていいのは、俺だけだ」
日帝は目を閉じ、短く息を吐いた。
「――合理的じゃないな」
そう言いながらも、拒絶の言葉は続かなかった。
二人はもう、戻れない場所に立っていた。