テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第131話:休耕田を制圧せよ。元・需品科の土壌改良ロジスティクスと神獣の歩み
限界集落に、真夏の熱気が色濃く漂い続ける頃。
ベルサイユ宮殿風に生まれ変わった古民家の庭で、俺は村のおばあちゃんから「ある深刻な相談」を受けていた。
「アキヤさん、実はね……裏山に続く道の横にある、大きな畑のことなんだけど」
おばあちゃんは、申し訳なさそうに眉を下げて語り始めた。
過疎化と高齢化が進むこの集落では、農作業を続けられずに手放される農地が年々増えている。
そのうちの一つ、かつて村で一番広かった畑が、完全に手入れされずに荒れ果てているというのだ。
「わしらじゃもう、トラクターを入れる体力もないし、雑草を刈ることもできない。このままじゃ土地が死んじまう。もしよかったら、アキヤさんの好きに使ってくれないかい?」
広大な休耕田の管理依頼。
普通であれば、素人が手を出すにはあまりにも負担が大きすぎる話だ。
「お兄さん……どうします? 家庭菜園レベルの広さじゃないですよ、あそこ」
小春ちゃんが心配そうに尋ねるが、俺の心はすでに決まっていた。
俺は首に巻いたOD色のタオルを締め直し、真っ直ぐにおばあちゃんの目を見た。
「引き受けましょう。我が陣地の兵站(ロジスティクス)をさらに強固なものにするため、新たな食糧生産拠点の確保は急務でしたから」
かくして、限界集落の広大な休耕田を舞台にした『オペレーション・アグリカルチャー(農地奪還作戦)』が幕を開けた。
俺と小春ちゃん、そしてモフモフの仲間たちは、雑草が生い茂る広大な休耕田の前に立っていた。
「うわぁ……大人の背丈ほどもある雑草で、地面が全く見えませんよ……」
小春ちゃんが絶望的な声を上げる。
だが、元・陸上自衛隊『需品科』として、補給拠点の設営や土木作業のノウハウを叩き込まれた俺にとって、この荒れ地は絶好のキャンバスに過ぎない。
「案ずるな。これより土壌改良ロジスティクスを展開する。まずは第一段階、地表の障害物(雑草)の排除と、表土の反転だ」
俺がそう宣言した、次の瞬間。
『ミャウ(土遊びの時間ね)』
ジンバルに固定されたiPhone miniの画面の向こう、一千万人のリスナーが見守る中、俺の肩に乗っていた純白の神獣シロが、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――をきらりと輝かせ、優雅に地面へと飛び降りた。
そして、後ろに控えていた『体長3メートルの巨大ヒグマ』に向けて、短く鳴き声を上げた。
「グルォォォォッ!!(任せろ大将!!)」
巨大ヒグマはやる気に満ちた雄叫びを上げると、広大な荒れ地に向かって突進していった。
そして、丸太のような太い前足と鋭い爪を使い、トラクターのロータリー刃も真っ青になるほどの圧倒的なパワーとスピードで、雑草ごと固い土をバキバキと掘り起こし始めたのだ!
ズガガガガガッ……!!
「ひっ!? ヒ、ヒグマさんが完全に大型の耕運機になってます!?」
小春ちゃんが悲鳴を上げる中、リスナーたちも大パニックを起こしていた。
『出たあああ!! 高性能農業用重機(もふもふ)!!』
『耕すスピードがヤンマーの最新型トラクターよりえぐいww』
『馬力(物理)の概念が狂うわww』
『山の主を耕運機代わりにする限界集落、強すぎる』
ヒグマが掘り起こした土の塊の周りを、キツネ兄弟のコン吉とコン次郎が「ミミズだ! 虫さんだ!」と飛び跳ねながら、土壌をさらに細かくほぐしていく。
だが、真の『奇跡』はその後だった。
俺が土壌のPH(ペーハー)値を測定し、苦土石灰や腐葉土の最適配分を計算しようとしていた時だ。
シロが、ヒグマが掘り起こしたばかりの荒々しい土の上を、しなやかな足取りで歩き始めた。
ポスッ、ポスッ……。
シロの肉球が土に触れるたび、そこから淡いプラチナ色のオーラが波紋のように広がっていく。
「え……? お兄さん、土の色が……!」
小春ちゃんが息を呑んだ。
数年間放置され、カチカチに痩せ細っていたはずの赤茶けた土が、シロが歩いた端から、まるで魔法にかけられたかのように『ふかふかの黒土』へと変貌していくではないか。
『絶対的階級』と『究極の癒やし』を司る神獣のオーラが、死にかけていた土壌細菌と微生物を爆発的に活性化させ、一瞬にして最高品質の「生きた土」へと錬成してしまったのだ。
『な、なんだこれ!? 土が輝いてるぞ!?』
『シロ様が歩いた後だけ、園芸店の高級培養土みたいになってるww』
『大地の錬金術かよ!!』
『神獣のチート農業、ここに極まれり』
一千万人のリスナーが画面越しの奇跡に言葉を失う中、世界中のVIPたちの財布の紐が完全に吹き飛んだ。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”A true miracle! The goddess of the earth has awakened the soil! Master, this is an agricultural revolution!“(真の奇跡だ! 大地の女神が土を覚醒させた! 主よ、これは農業革命だ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Infinite productivity! I want to invest all my assets in this miraculous field!“(無限の生産性! この奇跡の畑に全資産を投資したい!)』
極彩色のスパチャが飛び交い、荒れ果てていた休耕田は、わずか数十分で『完全なる豊穣の黒土』へと生まれ変わった。
俺は深くため息を吐くと、持っていた土壌酸度計をポケットにしまい、用意していた折りたたみチェアに腰を下ろした。
「……よし。表土の活性化と土壌環境の最適化を確認。これより、指揮官のエネルギー補給を開始する」
俺はいつものタッパーを開け、完璧な水加減で炊き上げられた『玄米』と、自家製の『大豆ミートとほうれん草の胡麻和え』を、一切の表情を崩すことなくストイックに口に運び始めた。
大豆の植物性タンパク質と玄米のミネラルが、真夏の日差しで火照った体に染み渡っていく。
「お兄さん……! 目の前でシロちゃんが土を錬成する超絶ファンタジーを見せつけられたのに、なんで無表情で玄米かじれるんですか!?」
小春ちゃんがジト目でツッコミを入れるが、俺は咀嚼を止めない。
「当然だ。農地開拓という重労働において、指揮官のカロリー枯渇は即座に作戦の失敗を意味する。それに、大豆由来の代替肉は、大地の奇跡を前にしてもその栄養価を失うことはないからな」
俺は熱いほうじ茶で喉を潤すと、カメラの前に向き直り、キリッとした真顔でいつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。私が神獣の魔法の力で土を錬成し、チート農業を行っていると思われているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『この圧倒的な錬金術を見せつけられて、まだ言い訳する気か!!!』
『主の限界言い訳タイム・チート土壌改良編ww』
『さあ、この一瞬でフカフカになった黒土をどう論破するんだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは神の奇跡などではありません。事前に私がドローンを使い、高濃度の好気性微生物群と有機フルボ酸液肥をブレンドした『特殊コーティング剤』を散布していたのです。シロの足の裏(肉球)の摩擦熱と適度な圧力がトリガーとなり、マイクロカプセル化された微生物が一斉に発芽しただけ。ええ、ただの『最新鋭のバイオテクノロジーと物理的触媒の相乗効果』が成功しただけですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、俺が持参していた『空の有機肥料の袋(20kg用)』で、俺の後頭部に完璧なフルスイング・ツッコミを見舞った。
「肉球の摩擦熱で発芽するマイクロカプセルってなんですか!! どこの世界に猫が歩いただけで黒土に変わるバイオテクノロジーがあるんですか!! どう見てもシロちゃんの神がかったオーラが死んだ土を蘇らせたんでしょうが!! 素直に『うちの猫は豊穣の女神だ』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんの空き袋フルスイング炸裂ww』
『肉球の摩擦熱(ただの可愛い足跡)』
『マイクロカプセル化された微生物(神獣のチートオーラ)』
『適応力バグおじさん、ついに大地の奇跡をバイオテクノロジーだと言い張るww』
『言い訳のスケールが学術的すぎて今日も最高だww』
俺の理不尽極まりない農学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレの空き袋ツッコミに、一千万人の視聴者たちは腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(これで美味しい野菜を作りなさいな)』
シロが豊穣の黒土の上で満足げに鳴くと、ヒグマは「グルォォ……!」と歓喜の声を上げ、キツネ兄弟はフカフカの土の上で楽しそうに転げ回っている。
「……まぁ、理由はどうあれ。最高の畑が手に入ったなら、兵站としては完璧だ」
俺は苦笑いしながら、真夏の風に撫でられる広大な黒土を見渡した。
村の人々から託された休耕田は、モフモフたちの圧倒的なチート能力と、元・需品科のブレないロジスティクスによって、限界集落を救う『豊穣の聖域』へと劇的な進化を遂げた。
世界一バグっていて、世界一生命力に溢れる俺たちの農業ライフは、大爆笑と奇跡を世界に撒き散らしながら、豊穣の秋に向けて力強く動き出すのだった。
ゆうき あきや
4,132
259
#心理描写重視
コメント
1件
ちょっと待って待って!!!今読んだんだけど、この回マジで神回すぎない?!?!😭💕✨ シロが歩いただけでカチカチの土がふかふかの黒土に変わるって、もう完全に豊穣の女神様じゃん!!しかもそれをアキヤさんが「肉球の摩擦熱でマイクロカプセルが発芽しただけ」って無表情で言い訳するの、草しか生えないんだけどwww 小春ちゃんの空き袋フルスイングツッコミ最高でした。ヒグマ耕運機とキツネ兄弟のミミズハントも可愛すぎて悶えた✧ 限界集落の問題がシロのチート能力と元・需品科のロジスティクスで解決されるの、読んでてすごく気持ちいいね…!農業革命がここから始まる予感がする🍀✨