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第132話:神獣の昼寝と大地の錬金術。一夜にして爆誕した規格外の夏野菜
真夏の風が吹き抜ける、十勝の限界集落。
先日、神獣シロの圧倒的なオーラ(俺は肉球の摩擦熱と言い張ったが)によって、豊穣の黒土へと生まれ変わった広大な休耕田。
俺たちはそこに、夏野菜の苗と種をたっぷりと植え付けていた。
スイカ、トウモロコシ、トマトにナス。
元・需品科として完璧な畝(うね)の高さと株間を計算し、水と肥料の供給ライン(ロジスティクス)を構築した、まさに俺の集大成とも言える農業陣地である。
「ふぅ……これで植え付けは完了ですね! 収穫の夏が楽しみです!」
小春ちゃんが麦わら帽子を直しながら、額の汗を拭って笑顔を見せた。
「あぁ。だが農業において油断は禁物だ。天候の変化、害虫の襲来、獣害……あらゆるリスクを想定し、最低でも収穫まで二ヶ月間の厳重な防衛態勢を敷く必要がある」
俺がストイックに語っていた、その時。
『ミャウ(ふぁ……ここは日当たりが良くて気持ちいいわね)』
俺たちの足元で、シロが畑のど真ん中――スイカとトウモロコシの境界線の畝にポスッと丸くなり、優雅に昼寝を始めてしまった。
「ああっ、シロちゃん! そこはダメですよ、種を蒔いたばかりで……」
小春ちゃんが慌てて止めようとしたが、俺は手で制した。
「構わん。神獣の気まぐれは自然の摂理と同じだ。それに、シロの体温が初期の発芽に良い影響を与える可能性もあるからな」
その日の夕暮れまでシロは畑でぐっすりと眠り、俺たちはその尊い寝姿を【日常チャンネル】で配信しながら、平和な一日を終えた。
――そして、翌朝。
「きゃあああああああああっ!?!? お、お兄さぁぁん!!!」
古民家の台所で朝食(玄米)の準備をしていた俺の鼓膜を、小春ちゃんの絶叫が引き裂いた。
俺は瞬時に臨戦態勢に入り、ジンバル付きのiPhone miniを掴んで裏山の畑へと駆けつけた。
「どうした小春ちゃん! 獣害か!? それとも土砂崩れか!?」
だが、俺の言葉は途中で完全に途切れた。
目の前に広がる光景は、獣害などという生易しいものではなかった。
いや、俺の需品科としての常識を、物理法則ごと木端微塵に粉砕する『異常事態』が起きていた。
「な……なんだ、これは……」
昨日、小さな種を蒔いたばかりのスイカ畑。
そこには、青々とした極太のツルがジャングルのように生い茂り、その中心に『成人男性が丸まって寝ているサイズ』の、見たこともないほど巨大なスイカがゴロゴロと転がっていた。
さらにその隣のトウモロコシ畑は、一晩にして高さ三メートルを越える鬱蒼とした森へと変貌し、実ったトウモロコシの皮の隙間からは、まるで純金のように『光り輝く黄金の粒』が神々しい光を放っているではないか。
「一晩だぞ……。種を蒔いてから、たったの一晩しか経っていない……!」
俺が戦慄していると、巨大スイカの上でシロが、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を優雅に細めながら、『ミャウ(よく眠れたわ。朝ご飯の野菜ができたみたいね)』と欠伸をして伸びをした。
シロが昼寝をしていた数時間。
その圧倒的な神獣のオーラが豊穣の黒土と共鳴し、植物の成長速度を数千倍に加速させるという『大地の錬金術』を引き起こしたのだ。
配信を開始した途端、一千万人のリスナーがこの異常な光景に殺到し、チャット欄は完全にパニック状態に陥った。
『はああああああ!?!? スイカでかすぎだろ!!』
『トウモロコシが光ってるwwww ゲーミング野菜かよww』
『一晩でこれが育つとか、シロ様のオーラどうなってんだ!!』
『農業の概念が崩壊するww ジャックと豆の木かよ!!』
世界中のVIPたちも、この規格外の奇跡に財布の紐を跡形もなく吹き飛ばした。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Hahaha! The miracle of the earth! Master, sell me that giant watermelon! I will use it as a monument in my palace!“(ハハハ! 大地の奇跡だ! 主よ、その巨大スイカを私に売ってくれ! 宮殿のモニュメントにする!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Akiya! That golden corn is pure wealth! A true agricultural revolution!“(アキヤ! その黄金のトウモロコシは純粋な富だ! 真の農業革命だ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)=”Oh my God! I want to eat that glowing corn! It must be magical!“(なんてこと! その光るトウモロコシを食べたいわ! 魔法の味がするはずよ!)』
極彩色のスパチャが飛び交う中、巨大ヒグマがのっそりと現れ、成人男性サイズの巨大スイカを両手でヒョイッと持ち上げ、「グルォ!(食おうぜ!)」と嬉しそうに吠えた。
「……よし。異常成長とはいえ、莫大な食糧の確保は完了した。これより、指揮官のエネルギー補給を開始する」
俺は畑のど真ん中に折りたたみチェアを展開し、いつものタッパーを開けた。
中に入っているのは、完璧な水加減の『玄米』と、自家製の『大豆ミートのきんぴらごぼう』である。
俺は、黄金に輝くトウモロコシの森と巨大スイカを背景に、一切の表情を崩すことなくストイックに玄米を咀嚼し始めた。
「お兄さん!! 目の前に一晩で育ったファンタジーみたいな野菜がゴロゴロしてるのに、なんで無表情できんぴらごぼう食べられるんですか!?」
小春ちゃんが顔を引きつらせてツッコミを入れるが、俺は咀嚼を止めない。
「当然だ。戦場において、異常成長した未知の植物を安易に口にするのは素人のやることだ。まずは安全な備蓄食糧で己のルーティンを維持し、毒性検査(後でヒグマに食わせる)を行うのが需品科の鉄則だからな」
俺は熱いほうじ茶で喉を潤すと、カメラの前に向き直り、キリッとした真顔でいつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。シロが昼寝をした結果、一晩で巨大スイカや黄金のトウモロコシが爆誕したと思われているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『この圧倒的なファンタジー農業を前にして、まだ言い訳するのかww』
『主の限界言い訳タイム・チート収穫祭編ww』
『さあ、この光るトウモロコシをどう論破するんだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは神獣の奇跡などではありません。昨日撒いたのは、地元の農業研究所が極秘に開発した『超速成栽培用・遺伝子組み換えスーパーシード』です。さらに昨晩、十勝地方の地下深くで微小な地殻変動が起き、強力な地熱と地磁気がこの畑に局地的に集中したことで、植物の細胞分裂が異常加速しただけです。ええ、ただの『最新の品種改良』と『偶然の地質学的現象』が重なっただけですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、巨大スイカから伸びていた『大蛇のような極太のツル』で、俺の背中に完璧な鞭(ムチ)ツッコミを見舞った。
「地磁気で一晩でスイカが大人サイズになるわけないでしょうが!! 光るトウモロコシの種を開発する研究所がどこにあるんですか!! どう見たってシロちゃんの神がかったオーラが、土と種にチート級のバフをかけたんでしょうが!! 素直に『うちの猫の農業スキルが異世界レベルだ』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのスイカのツル鞭炸裂ww』
『地熱と地磁気(シロ様のポカポカお昼寝)』
『スーパーシード(ただのホームセンターの種)』
『適応力バグおじさん、ついにファンタジー農業を地質学と遺伝子工学のせいにするww』
『言い訳のスケールが学術的すぎて今日も最高だww』
俺の理不尽極まりない地質学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレの物理ツッコミに、一千万人の視聴者たちは恐怖を忘れ去り、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(さあ、早く割って食べなさいな)』
シロが黄金のトウモロコシのそばで欠伸をすると、ヒグマは嬉しそうに巨大スイカを抱え、キツネ兄弟は光るトウモロコシによじ登って遊んでいる。
「……まぁ、理由はどうあれ。兵站が潤沢に確保されたなら、言うことはない」
俺は苦笑いしながら、十勝の青空の下に広がる、バグり散らかした豊穣の畑を見渡した。
限界集落の農業は、神獣の奇跡とVIPの財力、そしてどんな異常事態にもブレない『需品科の言い訳』によって、世界一騒がしく、世界一豊かな実りの夏へと突入していくのだった。
コメント
1件
シロちゃんがお昼寝しただけでこんなことになるんだ…!スイカが大人サイズになったりトウモロコシが金色に光ったり、もう農業の概念ぶっ壊れてるよね(笑)でもお兄さんがいつもの冷静な感じで「地質学的現象」って言い訳するところ、めっちゃ面白かった!小春ちゃんのツルの鞭ツッコミも完璧で、読んでて笑顔になっちゃった。この騒がしくて豊かな夏の始まり、すごく好きだなあ🌽🥰
ゆうき あきや
4,132
259
#心理描写重視