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#復讐
草原草原(くさはらそうげん)

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木風
791
#サレ妻
都築七美
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「午前は神社に顔を出す。二時の査定には俺が立ち会うから、お前たちは帰りが遅くていい」
土曜の朝、恭平はネクタイを締めながら言った。七五三なのに、スーツだった。
「神社、十一時からよ」
「分かってる。先に会社に寄る」
恭平は結衣の頭に手を置いて、「着物、似合うか」と聞いた。結衣は「まだ着てない」と答えた。玄関が閉まった。
真尋は結衣に着物を着せた。紺の地に、白い花。レンタルで一万八千円。買えば十万円を超える。学資保険が解約されていなければ、買ってやれたかもしれない。そういう考え方を、真尋は一度だけして、やめた。
「お母さん、きつい」
「少しだけ我慢。帯は、ゆるいとほどけるから」
髪は美容院に頼まず、真尋が結った。結衣は鏡の前で、一度だけ回った。
神社は、家から歩いて十二分のところにある。十一時少し前に着いた。
境内には同じ年ごろの子が何人もいて、着物と袒と、カメラを構えた親たちで混んでいた。真尋は結衣の手を引いて、受付の列に並んだ。
「真尋さん」
後ろから呼ばれて、振り返った。義母の敏子だった。
紬の着物を着て、小さなバッグを持っている。六十六歳。駅の向こうの、隣の区に住んでいる。会うのは、お盆以来だった。
「お義母さん。来てくださって」
「恭平が来いって言うから。あの子は忙しいの、分かってるでしょう」
敏子は結衣を見て、「まあ、大きくなって」と言い、それから真尋の着物ではないカーディガンと、結衣の髪を見た。
「髪、自分で結ったの」
「はい」
「美容院くらい行かせてあげなさいよ。七五三なのに。あなたのためを思って言うけど、こういうところで手を抜くと、子どもが可哀想」
「はい」
真尋は、はい、とだけ言った。結衣が真尋の手を握り直した。
祈祷は三十分ほどで終わった。本殿の階段を下りながら、敏子は話し続けた。
「パートなんて、やめたらどうなの。恭平が稼いでるんだから、家にいればいいじゃない。恭平に恥をかかせないで。課長の奥さんがパートなんて、会社の人が聞いたら何と思うか」
「はい」
「それにね。来年には建て替えるって、恭平が言ってたわ。今の家を売って、もっといい家にするって。あなたも感謝しなさい。全部、恭平が稼いだお金なんだから。弟の孝のところも、恭平の会社の仕事をもらってるの。工務店をやってるの、知ってるでしょう。恭平のおかげよ」
建て替える。真尋はその言葉を、家計簿の余白に書く形で頭に置いた。『11/15 敏子「来年には建て替えると恭平が」』。
千歳飴の袋を結衣が受け取って、敏子が写真を撮った。真尋も撮った。
「お義母さん」
「何」
「仕送りの三万円、先月も遅れずに振り込みました。十月の二十五日に」
敏子は、スマホを下ろした。
「それは、恭平が――」
言いかけて、止まった。真尋は何も足さなかった。
敏子は、しばらく真尋を見てから、「当たり前でしょう。恭平の口座から出てるんだから、あなたは振込の手続きをしてるだけ」と言った。
「はい」
真尋は、それも頭の中に書いた。敏子は、仕送りが家計口座から出ていることを知らない。恭平が自分の口座から出していると思っている。
「じゃあ、私は帰るわ。足が疲れた。結衣、おばあちゃんにバイバイして」
結衣は手を振った。敏子は、鳥居の外でタクシーを止めた。
「結衣ちゃん、かわいい」
鳥居の近くで、声がした。結衣の同級生の佳奈と、母親の井口だった。佳奈も着物で、井口はカメラを首から下げている。
「井口さん。佳奈ちゃんも、今日」
「そう、うちも七歳。写真、一緒に撮ろう」
井口は世話好きで、話が長い。二人の子を鳥居の前に並べて、十枚ほど撮った。真尋のスマホでも撮ってくれた。
「あれ、旦那さんは?」
「仕事で。午前中だけ来るって言ってたんですけど」
「忙しいのね。住宅メーカーだっけ。土日が仕事なのよね」
井口は、カメラの画面で写真を確かめながら、言った。
「あ、そうそう。先週の日曜ね、ホームセンターで旦那さん見たよ。若い子と一緒に、ベビーベッド見てた。あれ、って思ったんだけど。声かけようかと思って、やめた。人違いかな」
真尋は、井口の顔を見た。
「先週の日曜、ですか」
「うん。九日。佳奈の自転車、買った日だから間違いない」
「何時ごろか、覚えてますか」
「二時くらいかな。自転車の売り場の、隣が家具のとこだったから」
真尋は、日付と時刻を頭に置いた。十一月九日、日曜、午後二時、ホームセンター。恭平は、日曜は仕事だ。
「人違いだと思います。でも、教えてくださってありがとうございます」
「そう? ごめんね、変なこと言って」
井口は笑って、佳奈の帯を直した。
井口たちと別れて、真尋と結衣は鳥居を出た。十二時五十分。神社の前の道は、片側一車線で、向こう側に駅前の商店街が始まっている。
横断歩道で、信号を待った。
結衣が、真尋の手を引いた。
「お母さん。パパ、あっちにいる」
結衣が指を向けた。
向こう側の歩道。家具の店の前。
恭平が立っていた。スーツで、紙袋を二つ持っている。家具の店の、大きな紙袋。
隣に、明るい茶色の髪の女がいた。恭平の腕に、自分の腕を絡めている。長い爪が、袋の持ち手に添えられていた。
瑠美だった。
恭平が何か言って、瑠美が笑った。恭平も笑った。
真尋は、結衣の目の前に、手を広げて置いた。
「見ないで」
「え?」
「信号、まだ赤だから」
手のひらの下で、結衣が言った。
「パパ、仕事じゃなかったの?」
向こうの歩道で、恭平が笑っていた。
コメント
1件
もう、第7話やばかった……😭💔 真尋が「はい」って何度も返すとことか、義母の前で縮こまってしまう感じ、すごくリアルで胸が締め付けられた…… 井口さんの「ベビーベッド」の情報がポロッと出た瞬間、嫌な予感が走ったんだけど、まさかラストで結衣ちゃんの「パパ、仕事じゃなかったの?」が来るとは……子どもの前で手を広げて「見ないで」って言う真尋、泣ける😢💦 恭平、何なんだろうね……瑠美って前から出てたっけ? もう続きが気になりすぎて今夜眠れないかも……早く次が読みたい……!🙏💕