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オレンジタイフーン
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「フッフッフッフッフ…さぁてコイツの力を試してみるか!」
ニタ~リと口角を上げ、真一文字に怪しく嘲笑う…
羅刹は左腕にピッタリとはめられた銀色の腕輪を優しく撫でるのだった。
その行為に反応し、燻し銀な味わいの腕輪の中央に配置された翡翠色の宝石が激しく明滅すると緑色の鮮烈で眩い閃光を放ったのだった。
『うわわ…
ま、まぶしいッ…
……………………………!?
あ…あれ!?
あのね…あのねッ、カゲゾ~…
何故かなぁ~?
念神体がみえないんだけどね…
たぶん…ぜ~ったい、あれはソウルズの能力だよぅッ!
だからね…気をつけてね、カゲゾ~ッ』
眉根を忙しく動ごかし…瞳を真ん丸くしつつ蝶ちゃんが影蔵に訝しげながらではあるがアドバイスをするのであった。
「う~む、蝶ちゃんの言う通りじゃな…
確かに…なんというか、先程よりもさらに邪悪で禍々しい強大なオーラをこれみよがしに放っておるわい…
果たして老いぼれたワシの体力で一体どこまで戦えるのかのぅ…」
遂に発動させた羅刹の狂気に満ちた謎の能力を眼前にして、少しだけ弱気な言葉が漏れ出る影蔵であった。
「ヌハハハッ!
勘違いするなよッ…ジジィ
さっきのは…あれはよォ、マ…グ…レだ、奇跡なんだぜぇ!
能力者とは知らなかったからな…
ついついオレ様もうっかり油断したぜ、
次もあんな風に簡単にやられると思ったら大間違いだからな
…くらえェッ!!
烈ェェ風ゥゥゥッ!!」
羅刹の腕輪から溢れ出る閃光が右腕にスルスルッと移動して、一塊に集中したかと思うと勢いよく掌を影蔵へと向けたのであった。
ヒュゴォォォォッと渦を巻き風を斬る重低音…見る間に猛烈な勢いの突風が吹き付け…それが影蔵の動きを鈍くする。
…否、その凄まじい突風は影蔵の動きを鈍くするどころか…身体の自由そのものを封じ込める程の威力だった。
「いやぁ~…何ぃ~、これぇ~ん、とぅわ…台風みたいだわッ~」
松っつんが屋敷に植えられている立派な桜の木にヒシッと…しがみつき、目をしぱたたせながら叫ぶ。
「もう…ここに居ても会長の邪魔になるだけだわ~ぁん
さぁ早く逃げましょう
ねぇ…き、聞こえてる松っつん」
梅ちゃんは貫禄のある玄関の太い柱をしっかりと抱きかかえながら喉がかれるくらい必死で叫ぶのであった。
風圧で押さえつけられた影蔵は全くと言って良い程に身動きが取れずにいたのである。
そうして微動だに出来ない身体でも影蔵は決して諦めたりはしなかった。
バタバタと揺れる老いぼれた肉体に秘めた可能性の糸をたぐる。
そこにあるのは蓄えた戦闘経験と知識だった…
この状況を打破する光明は無いものか…
影蔵の脳みそをフル回転で何か一つでも羅刹の攻撃に反撃する術を思案していた。
しかし…そんな影蔵にさらなる危機が訪れた。
「グワハハハッ!
ジジィ…気分はどうだッ、手も足も出まい。
しかし、まだまだこれからが本番だ。
覚悟しろよ…ジジィッ!」
羅刹の左腕が先程よりも一段と妖しく明滅し始めた。
強風の中で弱々しく震える蝶ちゃんは飛ばされまいと必死で影蔵の肩にしがみ付くのだった。
『ねぇ、カゲゾ~。
多分…これ…!?
風神様のソウルズだよ…
風神様は…あらそいやケンカがだ~いきらいなのに…
とっても、とぉ~っても、お優しい方なのに~!
なんで…なんでなの………
わすれちゃったのかな…
さみしいよ…かなしいよ』
昔の記憶を頼りに蝶ちゃんは溢れんばかりに涙を瞳に溜めてウルウルしながら影蔵に言った。
それは少しひとりごとのようにも聞こえた。
「ぬうッ…くうぅぅッ、殺気の塊がひしひしと押し寄せてくるわい…」
その言葉も言い終えぬうちに影蔵の肉体が何かによって次から次へと斬りつけられる。
斬りつけられていると言うよりは鞭で激しく打ちつけられているような痛覚であった。
痛覚の後に次々と被弾した部分に赤い糸を引いたようになる…
そこから血が滲み出した事を横目に確認して斬りつけられたのだと知覚するのだった。
「ぐ…うぬうぅぅぅッ!
し…真空刃!?
それにしては随分と威力が弱すぎる…
これじゃ風神などではなくせいぜい、かまいたちと言う程度かの…」
かまいたち程度だ…等といくら虚勢を張ってみても現状、影蔵は腕や肩、太股に腹などをまるで手術用のメスか何かで斬りつけられたように見事なくらいに綺麗に皮膚を斬り裂かれていたのであった。
パックリと斬り裂かれた傷口は開かれ…真っ赤な鮮血が、あとからあとから止めどなく溢れ出ては衣服や地面を濡らし…深紅に染めて上げていた。
それは、まるで…あの夜空に浮かぶ月のように。
『カゲゾ~…大丈夫ッ!?
ねぇねぇ、しっかりしてよ~ッ…カゲゾ~ッ!!』
ポロポロと涙を溢して蝶ちゃんが言うのだった。
「ふふふ……
どうした…心配する事なぞ無いぞ、
ワシは平気じゃ…そう簡単に死にはせんわ…」
言葉では気丈に振る舞うものの激痛と大量の出血から意識は遠退いていくばかり…影蔵はフラフラとするおぼつかない足で立っている事さえ…やっとである。
「ファァハハハッ!
一撃で仕留める気なんかハナッから無いんだよッ!!
…だが、もう飽きたな!
そこそこ楽しませてくれるかと思ってたんだがな…
くたばりぞこないのジジィじゃ弱すぎて…つまんねぇ~ぜッ…」
すでに半死半生といった具合の影蔵に向けて…羅刹は愚劣な言葉を投げ掛けるのだった。
影蔵の玩具としての価値がなくなったとばかりに羅刹は一気にトドメをさそうとする。
「ヌファハッ…コイツで終わりだぁッ!!」
羅刹は両腕を大きく伸ばして真横に広げると…翡翠のオーラを野球のアンダースロー投法のように地面すれすれに両腕を振り下ろし、それを胸の前で交差させるのだった。
…この必殺技は先程まで繰り出された技とは併用する事が出来ないらしく、影蔵の動きをガッチリと封じ込めていた烈風の効力が消えていくのであった。
すでに立っている事だけで精一杯だった影蔵は風圧の支えを無くすと…フッと意識を失ってしまい前のめりにバタリと倒れていくのだった。
その前のめりに倒れていく影蔵の後頭部すれすれを羅刹の必殺技がかすめていく。
戦闘機のように凄まじい速度で空気を斬り裂く音と共にそれは上昇していくのであった。
ザンッ!!
…ッゴゴゴゴゴォォ~!!!!
…ッ……ズゥゥゥゥンッ!!
梅ちゃんと松っつんが地吹雪のように埃が…もうもうと舞い散る轟音のする方向を見上げてみると…!?
「うそ……や…屋敷の屋根が無いッ!?」
あまりの出来事に二人の声が重なってしまう。
屋根は…無くなったのではなく、正確には屋敷の屋根が斜めに斬り落とされているのである。
その光景は例えるのならば…まるでマグロの刺身か羊羹の様に断面にザラザラとした様子などは一切無く切れ味抜群な包丁でスッパリと見事に切り落とされているようなのである。
あの轟音は屋根が斬り落とされた瞬間の音…屋根の残骸が滑り落ちる音…
そして地面に斬り落とされた屋根が落下した時の衝撃音だったのである。
「チィッ…クソォッ!!
なんてこった、はずしたかッ!?
フハハ、運の良いヤツめ…」
そう吐き捨てると…うつぶせにぐったりと倒れている影蔵に肩を揺らして一歩一歩を踏みしめるように、ゆっくり近づいていく羅刹である。
「グァハハハハハッ…!!
翡翠風刃波(ひすいふうじんは)はオーラの使用量が極端に多くてな…残念だが連発できねぇんだ!
まぁ…今のジジィ程度にはオレ様の超強力なスペシャルパンチで十分だけどなぁ~ッ!!
フハハハ~~ッ!」
影蔵の頭を左腕だけで人形さながらに…ひょいと摘まみ軽々と持ち上げながら大口を開けてバカみたいにケタケタと無遠慮に笑う羅刹であった。
『この…この…このぉぉぉぉ~~ッ!!
や…やめろ、やめろ、やめろ、やめてよぉぉぉ~ッ!!
カゲゾーをイジメちゃダメなんだぞぉぉぉぉ~ッ!』
影蔵の頭をガッチリと鷲掴みにする羅刹の筋肉隆々な野太い腕を涙ながらに蚊弱い細腕で…必死に一生懸命に痛切な叫びと共にポカポカと殴り続ける蝶ちゃんであった。
「うん…ヌハハハッ!
今…何かしたかな~ぁ!?
くすぐったいぞォォッ!
ファハハハハハ~ッ!!」
蝶ちゃんにとっては影蔵を助けたい一心で放った拳が血塗れになるくらいの打撃も残念ながら…羅刹にとっては蚊が刺した程度のダメージであった。
その時…何者かの声が夜空に響き渡るのであった!!
「そこまでだ!!!!!!
その薄汚ねぇ…手を離しやがれェェ、デカブツ野郎がァァァッッ!!」