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side 大森
僕は、基本はっきりしている。
「それは無理です」
「今はできません」
それをちゃんと言える。
だから、最初は本当に軽いことだった。
共演したクリエイターのAさん。
「大森くんって優しいよね」
にこにこして距離が近い人。
「今度ちょっとだけ手伝ってくれない?」
SNS用の動画に出演してほしい、という軽いお願い。
事務所も通しているし、問題はない。
「それくらいなら」
笑って引き受ける。
それが最初。
「大森くんが出てくれたら再生数伸びるんだよね」
冗談っぽく言う。
でも、きっと相手は本気。
「今度はコラボ配信どう?」
「これ宣伝してくれる?」
頼み方がうまい。
いつも最後にこう付け足す。
「無理なら全然いいよ!」
その一言が、厄介。
(断ってもいい)
そう思うのに。
「でも大森くんしか頼めなくて」
胸がちくっとする。
(僕しか)
僕は、その言葉に弱い。
気づけばスケジュールが圧迫される。
本来の仕事に支障が出る。
睡眠が削られる。
でもAさんは笑う。
「やっぱ大森くん最高」
「助かるよ、ほんと」
感謝されると、断れない。
(役に立ててる)
それが嬉しくなってた。
でも、 ある日気づく。
AさんのSNS。
“大森さんのおかげでここまで来れました”
自分の名前を利用して宣伝。
タグ付け。
勝手に匂わせる関係性。
ファンがざわつく。
僕は焦る。
「それ、ちょっと困るかもしれないです……っ」
勇気を出して言う。
Aさんは一瞬黙って、すぐ笑う。
「え?嫌だった?」
「いや、そうじゃなくて」
「俺、信頼してたのにな」
その一言。
胸がぎゅっとなる。
(僕、傷つけた?)
「ごめん、なさい、」
反射で謝ってしまう。
その瞬間。
立場が逆転する。
「今回のイベント、大森くんの名前出していい?」
もう勝手に告知されている。
「え、それは」
「だめ?」
少し寂しそうな顔。
「俺、大森くんに裏切られたら立ち直れないかも」
重い。
でも、直接的じゃない。
だから余計に断りづらい。
(僕が断ったら、この人どうなるんだろう)
本来なら言える。
でも今は言えない。
少しずつ、判断力が鈍る。
そんな時、若井が気づいた。
「最近、ずっとスマホ見てない?」
僕がびくっとする。
「別に」
涼ちゃんも見る。
「顔色悪いよ」
「平気」
嘘。
でも言えない。
(だって僕が断れないだけだから)
ある夜。
またメッセージ。
“今から少しだけ通話できる?”
時計は深夜。
断ろうとする。
だけど、指が止まる。
“無理ならいいけど”
その一文。
無理じゃない。
頑張ればいける。
自分に言い訳する。
通話ボタンを押す。
その様子を、若井が見ていたらしい。
side 若井
翌日。
元貴がうっかりスマホを置いたままシャワーへ。
通知が光る。
“俺のこと見捨てないよね?”
俺の眉が寄る。
涼ちゃんも横から見る。
やり取りの履歴。
依存させる言葉。
罪悪感を植え付ける文。
二人の空気が変わる。
シャワーから出た元貴を、二人で待った。
side 大森
シャワーから出たら、二人が居た。
「元貴」
低い声。
「これ何」
スマホを見せられる。
心臓が跳ねる。
「それは」
言い訳が出ない。
「断れなくなってるでしょ」
若井の声は怒りじゃない。
焦り。
「違うよ」
反射で言う。
でも涙が出る。
「僕が弱いだけ」
涼ちゃんが首を振る。
「弱くない」
静かな声。
「利用されてるんだよ」
その言葉が刺さる。
「ッ、僕が悪い」
「違う!」
珍しく若井が強く言う。
「元貴が悪いなら、最初から断れてる」
沈黙。
僕の呼吸が震える。
「断ろうとすると」
声が小さくなる。
「僕が冷たい人になる気がして」
それが本音。
若井の表情が歪む。
涼ちゃんがそっと抱きしめる。
「優しいからだよ」
「でもその優しさ、食い物にされてる」
はっきり言う。
僕の涙が落ちる。
「……どうしたらいいの、っ」
弱い声。
若井が即答する。
「俺たちが一緒に断る」
涼ちゃんも頷く。
「ひとりで返さなくていい」
その瞬間、肩の力が抜ける。
(ひとりじゃない)
「でも、迷惑じゃ…」
間髪入れずに若井が答える。
「利用されて、削られて、黙ってるほうが迷惑」
涼ちゃんも頷く。
「守る側にさせてよ」
僕の目が揺れる。
「で、でも、僕が甘いせいで……っ、」
若井が即答。
「甘いのは優しさだよ」
「それに付け込むやつが最低なの」
そのまま。
若井は僕のスマホを手に取る。
そして、相手に電話をかけた。
スピーカーで。
「もしもし?」
軽い声。
でも、若井の声は氷。
「今後元貴を利用するな」
沈黙。
「は?利用って」
「証拠はある」
短い。
「これ以上続けたら正式に対応する」
本気のトーン。
相手の声が変わる。
「ちょ、そんな大げさな」
「大げさじゃないだろ」
一方的に切る。
部屋が静か。
僕は呆然。
一瞬のことで何が何だか分からなかった。
涼ちゃんが抱きつく。
「ひとりで頑張らないで」
若井も手を伸ばす。
「断れないときは、俺らが断る」
僕の目から涙が落ちる。
悔しさ。
安心。
全部混ざってる。
「……次からは、言う」
若井が頷く。
「最初に言ってね?」
涼ちゃんが笑う。
「それがルールねっ」
僕は小さく笑う。
やっと。
肩の力が抜けた。
コメント
1件
利用①ってことは この先も元貴は利用されるの!? そうなったら 若井 犯罪起こしそうな勢いな気がする( ;∀;)