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「よぉし!機関始動!旅を再開するよ!遅れを取り戻すんだ!」
エレノアの号令により三人を収容したアークロイヤル号は、再び機関を始動させて航海を再開した。
「済まないね、シャーリィちゃん。舵の調子は万全じゃないんだ。安全な航路を選ぶから、少しだけ遠回りになるよ」
「構いません。食料などは問題ありませんか?」
「優に二ヶ月分は積み込んである。妹ちゃんのお陰だよ」
アークロイヤル号を受け取り、慣熟訓練を行っている頃。レイミは使われていない船室を一つ確保すると、そこに溶けない氷をいくつも生み出して簡単な氷室を製作したのだ。
その氷室を食料庫にすることで生鮮食品の大量保存に成功する。結果通常より大量の生鮮食品などを積み込めた。
「それに、これだ。確か、レモンだったかな?こいつを毎日食べろって言われたけど」
「レイミは意味の無いことをしません。必ず意味があるので、守ってくださいね」
農作物の一つ、レモン。独特な味覚であり『暁』としても取り扱いに困っていた。それを知ったレイミが、船乗りは航海中毎日食べるよう姉に提案。妹の提案を直ぐ様正式に指示として海賊衆に通達した。
もちろんレイミの狙いはレモンに含まれるビタミンCである。地球においても所謂大航海時代、保存技術の未熟さから新鮮な果実や野菜を摂取することができなかった。
その為当時の船乗りたちの間で、壊血病と呼ばれる病気が流行したのである。壊血病とは血管がもろくなり出血する病気であり口や鼻から多く出血し、それはまるで血液が壊れていくような症状であったことから壊血病と呼ばれるようになった。当時は船乗りの病として恐れられた病気である。
この病気は、新鮮な果実や野菜に含まれるビタミンCを摂取できないことにより引き起こされる。
それを知識として知っていたレイミは、農園の作物の中にレモンに類似した果物を発見。検査する術はなかったが、これをレモンと仮定して毎日摂取するように提案したのである。
「妹ちゃんの話じゃ、これで壊血病を予防できるらしいじゃないか」
「壊血病……確か、船乗りの病気でしたっけ?」
「ああ、あちこちから血が吹き出す恐ろしい病気さ。こいつに掛かって踠きながら死んでいく奴を何人も見てきた。この酸っぱい果物を食べて防げるんならいくらでも食べてやるさ」
「必ず成果があります」
「おう。それで、島から見付けた奴はなにか分かったかい?」
「剣の柄については、分かりました。かなり痛んでいましたけど、私が持っている魔法剣と同じ構造だと思います。詳しいことはドルマンさんに調べて貰わないと分かりませんが」
永い年月が経っているにも関わらず傷みはあるが原型を保っている柄を見せるシャーリィ。
「へぇ、シャーリィちゃんの奴と同じかい?随分と昔に同じような力を持った奴が居たんだねぇ。本の方はどうだい?」
「残念ながら、書かれている文字は帝国のものではありませんでした。古代の文字だと思うんですが、エレノアさんは分かりますか?」
シャーリィはそっと古びた本を開いて中身を見せる。中に書かれてる文字は帝国の公用語とは似ても似つかない。
「なんだこりゃ、見たこともないね。アルカディアの文字でもないよ」
「やはり古代の文字ですか。こちらについても帰還してからじっくり調べてみるつもりです。功労者三人には特別報酬を用意しないといけませんし」
「何を渡すんだい?」
「今は余裕もありますので、三人の要望を最大限受け入れるつもりです。まあ、ルイは分かるのであと二人。ベルとアスカがどんな要望を出すのか楽しみではあります」
「あー、確かに。アスカちゃんなんて何を頼むか想像も出来ないよ」
「だから楽しみなのです」
「そうそう、妹ちゃんの容態はどうだい?」
海を眺めていたエレノアは、隣のシャーリィに視線を移す。
「今は船室で休んで貰っています。この後様子を見に行くつもりですよ」
「私達が助かったのは妹ちゃんのお陰さ。安定したら、私も会いに行くよ」
「そうしてくれると、レイミも喜びますよ」
その後は何事もなく過ぎ、航海三日目の朝を迎えた。
「……」
ランプに照らされた船室のベッドで休んでいたレイミはゆっくりと目を開いた。そして真っ先に視界に映ったのは、笑みを浮かべる最愛の姉であった。
「おはようございます、レイミ」
「おはようございます、お姉さま。何とか切り抜けられたみたいですね」
「ええ、貴女のお陰です。少しだけ遠回りの航路を選ぶことになりましたが、明日には帝都に着きますよ」
「そうでしたか……良かった」
レイミは魔法を上手く制御できたことに安堵の息を吐く。そして姉に支えられながらゆっくりと身体を起こした。
「具合はどうですか?」
「身体中に酷い倦怠感があります。魔力を使いすぎたことによる魔力欠乏の症状です。お姉さまもご注意を」
「分かりました。それはどのくらいで治りますか?」
「二日くらい休めばある程度は治ると思います。慣れない内は魔力を使い果たしてしまうことも多いので気を付けてくださいね」
「レイミがそう言うなら気を付けましょう。ともあれ、無事で良かった」
「はい……船旅はもう少しゆっくりとしたいですね」
「全くです。今回の戦いで教訓を得られましたよ」
話していると、レイミはシャーリィの腰に下げられている見覚えの無い柄に気付く。
「お姉さま、それは?」
「ああ、昨日立ち寄った無人島でアスカ達が見付けたものです。見てみますか?」
シャーリィは柄を差し出す。それを受け取ったレイミはしげしげとそれを眺める。
「これは、魔法剣……?」
「構造が似ていますよね。農園に帰り次第、ドルマンさんに調べて貰うつもりです」
「お姉さま以外にも魔法剣を使う人が……」
「もう一つ、この本も手に入りました。残念ながら読むことはできませんでしたが」
更に古びた本を差し出す。
「随分とボロボロですね」
そっと本を開いたレイミは、書かれていた文字を見て目を見開く。
「レイミ……?」
そんな妹を首をかしげて眺める姉。
「これはっ……日本語っ!」
「……にほんご?」
かつて存在した勇者、彼と同じ力を持つ少女。そして彼女を愛する転生者である妹。
不思議な縁で結ばれた三人は、世界にどのような影響を与えるのであろうか。或いは、これもまた試練なのだろうか。