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「ルティ、話は後だ! 矢に当たらないように物陰に隠れてろ」
「はいっ!」
「アックさま、あたしは水壁でも展開しておきますわね」
「頼む」
大騒ぎするほどの矢が飛んで来ているわけじゃないが、魔法と違って急所を狙われると厄介だ。爪で矢を叩き落としているシーニャでも、一歩間違えば致命傷を負う危険性がある。
彼女たちはおれと違ってダメージを負わない体ではない。それだけにあまり無茶はさせられない事情がある。
「ウニャ? アック、アック!」
「ん?」
「アックの方にだけ飛んできてる気がするのだ。どうすればいいのだ?」
シーニャの言うとおり確かに飛んでくる矢の軌道を見ていると、おれだけに飛んできているように見える。そうなると敵の狙いはおれ一人だけということになるが、個人的な恨みでもあるのか?
「……シーニャ。ここはいいよ。おれが全部受けるから」
「分かったのだ!」
シーニャを後ろに下がらせ、前面に立ちはだかることにした。矢が一定間隔で飛んでくるところをみれば、敵は一人だけのように思える。
それならここは敵の意思とは別に引きずり込むだけ。
「我が前に引きずり込め! 《シュレイン》!」
複数の敵が相手だった場合、シュレインはあまり使い勝手がいい魔法じゃない。しかし仮に複数いたとしても、不意をつけるという意味ではいくらでもやりようはある。
「――っ!? ひ、卑怯な奴め!!」
「んっ? お、お前は……サンフィアか!?」
「ふん、ようやく気付いたか、腑抜けめ!」
ああ、だからおれだけを狙っていたのか。
確かサンフィアは幻霧の村で修業をしていて、そのうちどこかで会えるということだった。それが何故こんな遺跡の中で遭遇するというのか。
「あれーー! サンフィアさんじゃないですか!」
「……やはりここにいたか。勝手にいなくなったうえ、アックに合流していたとはしたたかな女め」
「ご、ごめんなさぁい! 途中で道に迷ってしまったので~」
「まぁいい。ここで再会出来たということはお前にもアックにも意味があるはずだ」
ルティとは先に出会っていて、ルティだけが遺跡に迷い込んでしまったと見るべきなのか?
何にしてもやはりサンフィアは好戦的だった。
「ここへはお前だけか?」
「両手剣の小娘と竜は来ていない。アレらは地下に行きたくないようだからな!」
「フィーサとアヴィオル?」
「そうだ。アレらについてはそこの娘に聞け! 我は貴様に会うために来たのだからな!」
どうやらルティはフィーサたちとどこかにいたらしい。サンフィアだけが後から合流したような感じだが。
「ウニャ! お前危ないのだ!! 敵じゃないのに矢なんて飛ばすななのだ!」
「……ふん。あんな威力の無い矢を防ぎきれないようではアックには不要なのではないのか?」
「ウウゥ!」
どうやらネーヴェル村での修行を終え、実力が上がったらしい。以前よりもキツい物言いになったのは気になるところだが。
サンフィアの話では、フィーサとアヴィオルだけはここについて来なかったようだ。どこか別の所にいて、そこで待っているということになる。
「アックさま、どうされます? あのエルフはともかく、何だか歩みが遅い気がしますわ」
ミルシェの言うように、この先の進みを何とかしなければならない。入った当初は罠さえ気を付けていればザームの連中と鉢合わせになるのも早いと思っていた。
しかし想像以上に広いうえ、行く手を阻むかのように現れるディルア《人型機械》の存在が厄介だ。今のところ脅威は感じられないが、本当の敵と会わないような罠にまんまとハマっている。
今さらレイウルムに戻ることは難しいし、どうしたものか。
「ここに来てサンフィアが加わったのはいいとして、ザームの連中と一度も遭遇していないのが気になる。魔導士は別行動のようだし、ジオラスの行方も分からないままだ。どうしたものかな……」
フィーサたちのことも気になるし、ルティに話を聞いて決めるとしよう。
「……あたしは、あのエルフが好きではありませんわ」
「それは……」
仲良くしろというのは難しい。それに、村とされるこの場所にサンフィアが現れたことも気になる。
「この場所に現れたにしても都合が良すぎる話ですわ」
「……確かに」
「決めるのはアックさま次第ですけれど、あたしはひとまず小生意気な小娘たちがいる所に行くのがいいと思いますわ」
「そうなるとルティを頼るしか無いか」
「魔石のこともそうですけれど、遺跡の中に居続けるのは何か嫌ですわ」
ミルシェには何か予感があるようだ。このままではルティのように遺跡の中を意味も無く彷徨ってしまいかねない。そうなるとまずはルティから話を聞くとして、ここのことはそれからにするか。