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新しい電球を掴んだ僕は、
真上の電球を取り替える。
「うわぁ、あの人。まるで僕たちの声が聞こえているみたいだねー!」
「いやいやたまたまでしょー。あんな高さまで俺たちの声は聞こえないよ」
「なにせ、私たちは誇り高き小人族ですからねぇ」
僕は電球をつけ終えると、
壁際のスイッチを押す。
電球は見事に温白色を発している。
けれど、それは少しばかりおかしかった。
「おー、あたたかな光だ!淡いオレンジがあったまるぅー!」
「久しいですね、この屋敷に明かりが灯るのは}
「んね!僕たちしか光ってなかったもんね!」
小人族らしい彼らは、
僕が思った違和感に気付いていないようだった。
電球からこぼれ落ちる明かりで、足元を見る。
やはりそこには、染みだらけの黒い床しかない。
小人達の声も、僕が目を開けると
忽然と聞こえなくなる。
僕は瞼を閉じる。
「僕ら以外に光を作れる存在がいたなんて、びっくり!」
「彼は一体何者なんだろうか」
「それはどうでもいいけど…なんか前に見た光とは違くないか?」
小人の一人が、電球の光を指摘する。
「えー、なにそれ。なんも変わんないよ!」
「ひかりは光。我々を照らす太陽の存在には変わりないでしょう」
「え、うるさ。存在とか光とか…。強いて言うなら、前はシャンデリアだったと思う」
僕は納得した。
そうだ、この屋敷の明かりはシャンデリアだった。
こんな埃まみれの電球ではなかった。
「そっかぁ…でもこれはこれで。いいんじゃないでしょうか、明るいし」
「手元がぼやける程度では困るのよ。私たちは明かりを取り戻したいんでしょう?」
僕は彼らの声がよく聞こえるように、
しゃがみこむ。
すると、声は立っているよりもすぐ近くに感じる。
「ええ、そうだよ。でも、僕達の力では蝋燭一本に火をつけるのもやっと」
「そうそう。わたくしたちは蝋燭にすら負ける身長なのよ」
「諦めが勝ち」
…。
…。
「なら、僕を使えばいい」
僕の声に、彼らが息を飲むのが分かった。
「え?今、聞きましたか。彼が手伝ってくれると」
「よせ。手伝いなんて都合よく解釈するな」
「でも、巨人さんがいるならどんな高い所にも手は届く!」
目を開ければきっと、
大勢の小人が賛否両論で言い合いをしている
に違いない。
けれど、僕は目を閉じたままに言う。
「僕はもう、ここを出るんだ。その前に君らの役に立てるなら、手伝うつもりだよ」
途端、瞼からも光が透けるように
目の前が輝き出すのが分かった。
思わず目を開けそうになる。
「ノンノン。そんないい人ぶらないでくれ」
「いいや、彼は本気だよきっと!僕たちの為に手伝ってくれる」
「騙されてはダメよ。彼の力があれば、私達は
木っ端微塵にされる可能性もあるのよ」
大人の層と子供の層で意見が分かれている様だった。
けれど、そんな事はお構い無しに
眩しい光はどんどん輝きを増しているようだった。
おそらくそれは、目の前にいるはずの
小人達からだった。
「でも、僕達だけで何も出来なかったじゃん!」
「そうだ、彼を信じようさ!それに…」
その言葉の先が聞こえなかった。
何やらコソコソと言っているようだが、
聞き取れはしない。
…。
瞼が熱い。
どうやら、
彼らから発するエネルギーのような光が
僕に直接当たっているようだ。
僕はそれに耐えきれず、開眼する。
明かりを浴びていたのは確かなようで、
目がチカチカとする。
けれど、見えるのは闇だけ。
その闇に、
小人も何もかも吸い込まれたようだった。
…。
…。
ズーン…。
…。
目を開けたまま、廊下の先を進んでいく。
初めから何もなかったみたいだ。
…。
…。
静寂に包まれた廊下の先。
見えてきたのは、階段だった。
上りと下り。
この光景は何度も通った記憶がある。
…。
「下っていれば、出口があるはず」
…コツ…コッツ…。
靴の音が、トンネルのように反響する。
…コツッ…。
…。
…。
僕は不意に後ろを振り返る。
上りの階段があるだけ。
レッドカーペットのような品位ある絨毯が
敷かれている。
それも今は、埃で灰色に染まっている。
ふと自分の足先の傍に、小さな足跡を見つける。
粒ように小さなそれは、
埃を踏んで靴の跡を残している。
「もしかして…さっきの小人さん達かい…?」
声は返って来ない。
「いるのだったら、声を出してくれないか…」
…。
…。
僕は目を瞑る。
賑やかに騒ぐ小人達の声は、
それから聞こえて来る。