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【止まらない涙】
——数日後。
神社の空気が、妙に重かった。
風は吹いているのに、時間の流れだけが鈍く感じる。
カチ、……カチ。
僕は門の上に座っていた。
その時——
「……っ」
境内の入口で、人影が揺れた。
「……駿?」
次の瞬間、僕は考えるより先に動いていた。
門から飛び降り、地面を蹴る。
「おい、駿!」
駿は、そこに立っていた。
いや——立っている、というより……崩れ落ちそうになりながら。
顔はぐしゃぐしゃで、
声を押し殺しているのに、涙だけが止まらない。
「……」
「駿!」
僕はすぐ目の前に立つ。
「どうした、何があった」
——返事がない。
駿はただ、泣いている。
肩が小さく震えて、
呼吸がうまく出来ていない。
「……言えよ」
少し強く言ってしまう。
「時間止めるか?
それとも——」
駿は首を横に振った。
でも、それ以上、何も言わない。
「……っ」
胸の奥が、嫌な感じでざわつく。
「……ちょっと待ってろ」
僕は駿
から離れ、空を仰ぐ。
そして——師匠の気配を探す。
「九尾さん」
空気が、ふっと歪んだ。
『……気づいたか』
低く、落ち着いた声。
「駿に、何があった」
一瞬の沈黙。
『……親しい者がいた』
「……」
『その者が、病に伏し——
今日、息を引き取った』
——胸の奥が、きゅっと締まる。
「……そうか」
視線を駿に戻す。
まだ、何も言えずに泣いている。
『あの子には、まだ受け止めきれぬだろう』
「……」
僕は拳を握る。
「なぁ、九尾さん」
『……何だ』
「その人……」
喉が、一瞬詰まる。
「……まだ、病室にいるか?」
空気が、張りつめた。
『……なぜ、そんな事を聞く』
僕は、駿から目を離さない。
「……俺の力で」
指先が、微かに震える。
「稀に、だろ」
『……』
「時間を戻すんじゃない。
完全じゃない。
代償も、でかい」
それでも。
「……それでも、出来る」
九尾さんは、すぐには答えなかった。
『……それは』
「分かってる」
僕は、はっきり言う。
「“命”に触れるのが、禁忌なのは」
それでも、駿は今——
声も出せずに、泣いている。
「……俺は」
一歩、駿の方へ戻る。
「時間の妖怪だ」
『……』
「止めるだけじゃなくて、
“間に合う可能性”を残す存在だろ」
九尾さんの気配が、静かに揺れる。
『……病室には、まだいる』
その一言で、胸が強く脈打つ。
「……ありがとう」
駿の前にしゃがみ込む。
「駿。」
名前を呼ぶ。
駿は、ゆっくり顔を上げた。
赤くなった目。
壊れそうな表情。
「……何も言わなくていい」
僕は、駿の視線を受け止める。
「今は、泣いてていい」
少しだけ、声を落とす。
「でもな」
「……」
「“間に合うかもしれない時間”が、
まだ残ってる」
駿の呼吸が、一瞬止まる。
「……俺が、聞いてくる」
「……え」
「答えは、今じゃなくていい」
僕は立ち上がる。
「でも」
駿の涙に、まっすぐ向き合って言う。
「お前が後悔しない選択だけは、
一緒に考える」
カチ、……カチ。
時間は、まだ——完全には進んでいない。
瀬名 紫陽花
MIRAN@新作短編集公開!!
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