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しかし、大学卒業間近のある日、瑠衣は父に呼び出された。
『瑠衣。大学院進学まで決まっていたのに、こんな事を伝えるのは……本当に心苦しいんだが……』
『お父さん、どうしたの?』
父は、憔悴しきった面持ちで深くため息を吐いた後、徐に瑠衣へ視線を移す。
『実は……ここ数年、会社の業績が不振で……今月いっぱいで…………会社をたたむ事にした』
『っ……!』
『せっかく院への進学が決まっていたのに…………お前を……進学させることができない。院への進学は…………諦めてほしい』
光を失った虚な瞳で瑠衣を見つめた後、深々と首を垂れる父に、彼女は絶句した。
まさか、家業がこんな状態だったなんて、瑠衣は思いもしなかった事であったが、恐らく父は、瑠衣に余計な心配を掛けさせたくなかったのかもしれない。
最後に両親と会ったのは、忘れもしない大学の卒業式の朝。
萌葱色の色無地の着物に濃紺の袴、といったシンプルな和装で学校へ向かう時、両親が玄関の外で待っていた。
『瑠衣。気を付けてな。袴…………良く似合ってる。それから……院へ進学させてやれなくて……本当に……すまなかった………』
『瑠衣ちゃん…………行ってらっしゃい……』
表情を歪ませながら涙を流す両親を見て、瑠衣はここまで成長した事の嬉し泣きだとばかり思っていたが、思い返すと、これが両親にとっては、瑠衣との『今生の別れ』を惜しむ涙だったのかもしれない。
母はハンカチで目尻を拭いながらも、ずっと泣いていた姿が、瞳の奥に焼きついたまま、今も忘れる事ができない。
『お父さん、お母さん…………行ってきます』
瑠衣は瞳が潤むのを堪えながら、両親に笑みを見せて学校へ向かった。
卒業式が終わり、学友と食事をした後、ショッピングモールでウロウロし、名残惜しくてカフェでお茶して夜に帰宅すると、普段なら家にいるはずの父と母がいない。
(二人で買い物にでも行ったのかな……)
考えながらルームライトをつけ、キッチンへ向かおうとすると、リビングのローテーブルの上にメモを見つけた。
手にすると、そこには走り書きで『瑠衣。本当にすまなかった』と書き記されていた。