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魔央建設

10 - 第9話:森に拒まれた設計図

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2025年06月19日

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第9話:森に拒まれた設計図



「……森に、図面が喰われた?」


その言葉に、設計士の肩がビクリと跳ねた。


魔央建設・構造設計第六班のミルカ・サーヴェは、膝に置いた巻物をきゅっと握った。

鮮やかなえんじ色の作業ケープを羽織り、首には風乾した草を編んだネックリング。

目元は丸く、茶色い瞳の奥には神経質な輝きが宿っている。


向かいに座るのは、《緑遺域(りょくいき)》と呼ばれる広大な森の“代弁者”を務める女──アラナ・ユメツギ。

全身に蔦を巻き、額に小さな木の実の冠を載せている。

肌は木漏れ日を映すように明るく、目は深い苔色。言葉は少なく、動きも植物のように静かだった。


アラナは、まばたきもせずに答える。


「あなた方の描いた図面は、森に拒絶されました。

設計紙が森の地に触れた瞬間、風にちぎられ、根に引き込まれたのです。

それが、この地の意思です」


ミルカは顔をしかめた。


「……意思って、設計に口出しするの?」


「はい。この森では、“合わぬ形”は消されます。

だから、設計そのものを“森の流れ”で描き直してほしい」


そこへ、ふわりと音もなくイネくんが現れた。


イネくん──水色の半透明の球体。

彼は何も話さず、ただゆっくりと空中に模様を描き出す。

それは、線ではなかった。花のつぼみのような“膨らみ”と、“散りゆく粒”の連なり。


ミルカがそれを見て、ゆっくり言葉を継いだ。


「……これ、“図面”じゃなくて、“育つ設計”ですね。

成長の途中段階までしか描かれてない」


アラナは、わずかに頷いた。


「そう。“完成”という概念は、森にはありません。

だから、“未完成であること”を設計に含める必要があります。

あなたたちの都市設計に、“変わることを許す余白”をください」


ミルカは腕を組み直し、小さく溜息をついた。


「なるほどね。固定化しない壁、可変式の床、自然に侵食される屋根……

“完成させずに渡す都市”。

そんな考え、教科書じゃ一度も習わなかったけど──

……イネくん、やれる?」


イネくんは一回、空中でくるりと一回転した。

そして、設計空間に散らした点たちが、わずかに揺れながら**“今この瞬間だけの配置”**になった。


「了解。商談成立です」


ミルカが端末に契約魔印を刻むと、それがゆっくりと“葉”の形になって光を放った。


アラナは、はじめて口角をわずかに動かした。

それは笑みではない。だが、“受け入れた”という表情だった。




工期は、“終了を定義しない”という条件で始まった。


森の中に設けられた街は、建てた側の意図から少しずつ形を変え、

雨や草木の動きに合わせて、構造そのものが変化する。


完成しない街。けれど、消えもしない街が、そこに存在した。

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