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「よし。人はいないな。コン。通常サイズに戻ってくれ」
暫く岩場を進み、砦からこちらが見えなくなるところまで来れた。
そしてそこから道に出て少し進むと、こちらからも砦は見えなくなった。
そこでコンにお願いをした。
『これで良いか?』
「おおっ!やっぱりカッコいいな!」
中身はポンコツだが、コイツの見た目だけはカッコいい。
『そ、そうかえ?』
「おう!カッコいいぞ。よし、乗せてくれ」
『は?妾に乗るのか?』
「お前のデカい体はその為にあるんだぞ?よっと」
コンの返事を待たずにその大きな背中へと飛び乗ってみた。
「うぉおっ!フワフワだぜっ!少し背骨がゴツいが、それを補って余りあるほどのフワフワだ!」
『いきなり乗るでないわっ!』
「怒るなよ。素晴らしい毛並みだぞ?」
『そ、そうか?まぁそうであろうな!何せ妾は神の使い!』
「よっ!神の使いフェンリルのコンさん!次はその速さを体験させてくれ!」
『そこまで言うのなら仕方ないのう!見ておれっ!これぞ神獣というところをみせてやろうぞっ!』
馬鹿は扱いやすいなぁ……
俺は背中でのんびりさせて貰おっと。
コンは暗闇でも問題ないようだ。
障害物をスルスルと避けて移動する。
しかも乗り心地を褒めれば、もっと褒めてもらおうとして、今は全く揺れがない。
新幹線に乗ったときのように、その静かな車内とは裏腹に凄まじい速さで景色が流れていく。
車内ではないが揺れも振動も音もなく、ただ風を切って走り抜けていく。
昼間だと誤魔化しようがないから、乗ることはもちろん、そもそもコンを通常サイズには出来ないが……
こんなに素晴らしい乗り心地なら、これからは人目を忍んで夜中に旅をしようかな。
そう思いながら『魔力視+魔力波』を使い、ウトウトしながらも旅は続いた。
ウトウトしていたのも10分程、すぐに異変が訪れる。
「どうやら向こうの領域へ入ったみたいだぞ」
『そうか。景色が変わり映えせぬから気付かなんだのう』
「コンは小さくなって俺のフードにでも入っていてくれ」
そう言って俺はコンの背中から飛び降りた。
コンは小さくなると黒装束のフードにすっぽりと収まった。
「よし、じゃあ行こうか」
この先がどうなっているのかはわからないが、連邦軍の砦があったことからも、恐らく他国又は敵対勢力のようなものがあるのだろう。
腕時計に付いているコンパスは暫く前から西ではなく南を指している。
相変わらず左は海だが、もしかすると獣人がいたのとは別の半島があるのかもしれないな。
「やっぱり要塞があったな」
あれから1時間程の場所に、砦とは違い規模の大きな建造物があった。
『ここへ来るまでにセイが見つけた反応は何じゃったのかのぅ?』
「恐らくこの先にある国が連邦へ忍び込ませていた、偵察兵かゲリラ兵のような者達だったのだろうよ。
ここと違って連邦が攻めてくるのなら、さっきのルートを通るしか道はなかったからな」
半島といえどもその幅は狭くとも数十キロからあり、大きければ日本の本州の幅くらいまであるかもしれない。
その半島への出入りがこのルート一本だけとは考えづらいから、他にも防衛の拠点は点在しているのだろう。
『じゃあ妾達はもう目的の半島に到達したのかえ?』
「恐らくな。問題は暗い間にこの先の防衛線を突破して、内部の人に見つからないところを探さないと帰れないってところだな」
『……』
コンは目的が達成されたから帰って寝れると思っていたのだろう。
残念だが今でやっと今日の目的の半分だ。
無事に転移できる所を探すまでが、今日の遠足だからな!
道沿いにここまで来たが、辺りの景色はすっかり変わっている。
まず左に見えていた海はかなり前から見えなくなっていて、少しづつ増えてきた草により、今の足元は草原になっている。
岩場だった右側の岩場はなくなり、いつの間にか森になっていた。
隠れていた気配は岩場のかなり奥の方だったので、その場所はずっと前から森のようになっていたのだろう。
もしくは人が通れる程度の岩場だったのかも。
背中のフードにコンを装備した俺は、森の中へと足を向けた。
「いくらこの世界でも、軍事的に重要な場所なら罠が仕掛けられてあるだろうな」
『わ、罠!?大丈夫なのかえ!?』
「あっても鳴子のように侵入を報せる程度のものだろう。落とし穴くらいならあるかもしれないが…俺には意味ないからな」
『ど、どういう意味…ふぎゃ』
コンが話しているところだが、最早『教えて攻撃』に飽きてきている俺は、行動を答えとした。
木の上に飛び乗った後は、近くの木の枝へと飛び移る。
この方法であれば地面に何かしらの罠があっても引っかかることはない。
「運良くこの辺の木は大きいしな」
『また舌を噛んだぞっ!?「また噛むぞ?」…むぅ』
静寂が支配する森の中を、木から木へと猿のように飛び移っていった。
・
・
「あそこに人が隠れているな…これで10人目か。結構厳重だな」
200m程離れた場所から魔力波の反応が返ってきていた。
『ふーん。だが、こうしてセイに入られている程度であれば、その意味はあるのかのぅ?』
フードの中で揺られることに慣れたコンは調子を取り戻していた。
「あのなぁ…俺やコン目線で物事を測るなよな。こんな事が出来る奴はかなり限られているし、そんな奴の為だけに専用の防衛線を配備するなんて、金や人手がいくらあっても足りないぞ?」
コンはそう言うが、隠れている人達は優秀だと思う。
少なくとも魔力波がなければ俺には見つけられそうにないし、隠れている場所も侵入者が近くを通りそうな場所ばかりなのだろう。
奴らを避けている俺の足元には草が生い茂っていて、とてもじゃないが木の下を歩こうとは思えないからな。
そんな場所だから俺は見つかることも罠に掛かることもなく通れるのだけどな。
「もう真横に要塞が見えるから、後少しだ。油断せずに行くぞ」
『頑張るのだぞ?』
うーーん。やっぱり捨てようかな?
「どうやら抜けたようだな」
森は切れていないが少し前から『魔力視+魔力波』に反応はない。
一度止まり、範囲を絞って遠くまで『魔力視+魔力波』で索敵するが、やはり反応はない。
「魔物の反応すらないのは、この辺りを兵士が定期的に巡回しているからだろう」
『ではまだ安心は出来ぬと?』
「そうだな。兎に角、村や町を探そう。そこまで行けば見つかっても国民だと思われるかもしれないしな」
俺は留まっていた枝から飛び降りて、コンを促した。
『よし!次は妾の番じゃ!振り落とされるなえ?』
「頼むわ!地面だとコンの方がスムーズだからな!」
楽ができるので一応煽てておく。
また大きな白狼へと姿を変えたコンの背中に乗り、森の中を駆けていく。
木にぶつかりそうで少々怖いが、俺よりもビビりなコンだから、無茶をしないから安心だ。
ポンコツだからわからんけど……
『何か見えるぞえ』
俺がフカフカ毛皮でウトウトしていると頭の中に響く声が…いかん。
寝そうだった。
「全く見えんな…」
『セイ。お主はそのごーぐるとかいうヘンテコりんなモノを使わねば見えまい?』
くっ…ポンコツに指摘されるとは……
俺までポンコツに思われるだろっ!!
「…いや、見えんな。俺の視力だとまだ見えないみたいだ」
そもそも『魔力視+魔力波』でもまだ捉えていないのだから当たり前か。
「よし。人里かもしれないからここからは俺が行く。コンはいつも通りフードな」
『よしっ!交代であるなっ!何だか変わった遊びみたいで妾は楽しいぞ!』
うん。そのテンションで、一人で偵察してきてくれないかな?
いや、コン一人で見に行かせたら、何故か弱い奴等にも簡単に捕まる未来しか見えない……
何故なのだろう…?これがお約束か?
俺がアホな思考に嵌っていると、いつの間にかコンはフードの中へ自分で入っていた。
「さて。何が出るかは行ってみてのお楽しみかな?」
ただ海沿いを歩いている時はリラックス出来て良かったが、道無き道の森の中はもう沢山だった。
そんな感覚もあり、いつもより少しだけ足の運びが軽やかになった気がした。
「反応は動いていないな。まぁこんな真夜中だもんな…」
見つけたのは町だった。
この近くは魔物が出るようで、バーランドの町と変わらず堀と塀がしっかりと付いていた。
規模としては、塀は石で出来ており、高さは4mほど。
反応の多さ、密集具合からこの町の人口は凡そ2,000から3,000人ほどとみた。
『魔力視+魔力波』の使い過ぎで、数えなくとも凡その数が把握できるようになってきたのだ。
野鳥の会に俺は勝つ!!
『どうするのじゃ?』
「町の中で転移したかったが、とりあえず今日は森の中だな」
今日は一睡もしていないため、不足の事態に対応出来ないかもしれない。
よって、町の近くの人が寄り付かない場所を探して、城へと帰ることにした。
『なんじゃ…妾は町の中が気になっておったのに』
「コン。それは徹夜のハイテンションだぞ?帰って寝れなくなるから気持ちを落ち着かせとけ」
空が白みだした。もうすぐ夜明けだ。
俺は今にも町へ行きそうなコンをフードにしまい、転移に良さそうな場所を探すことに決めた。