10話 最強のシチューを作ろう!!!
「バルザルド様ー。」
「なんだいミモリン?」
「……《眠らずに済む魔法》とか、
《一日中トイレに行かずに済む魔法》って
ありますか?」
ミモリンはまっすぐな目で魔王バルザルドに
尋ねました。
バルザルドは大きく、大きく、おおーーきく
溜め息をつきました。
「ミモリン、ミモリンミモリンミモリン。」
「はいっ!!ミモリンです!!!」
「落ち着いて….私の話を聞くんだ。」
「分かりました!!!」
ミモリンは元気なお返事をしました。
これは重症ですね。
「君は休んだ方がいい、というか休め。」
「ホワイ!!?」
なぜか異国の言葉を叫びながらミモリンは
バルザルドに詰め寄りました。
バルザルドははぁーやれやれと言った様子でミモリンに分かりやすく説明をしました。
「いいかい、ミモリン。その魔法を覚えようとするのは魔法使いなら誰もが一度は通る道だ。その上でもう一度言う。本気でやめろ。」
頭を抑えながらバルザルドは言いました。
「なんでですか!!?ミモリンわかんない!!!」
ミモリンは疲れすぎてて幼児退行していました。
それもそのはず、リュカの看病とおそろし山のそうじを休まず行ったミモリンは もう12日間も寝てません。
人間なら余裕で死んでます。
「私の経験上ミモリンが言った魔法に手をだした連中はもれなく死ぬか気が狂った。
たとえばガランドをつくった偉大なる数学魔道師は《不眠不休の魔法》に手をだした結果
………全裸で町中を走り回り『私のケツを
なめなめろ』という曲を作詞作曲編曲してしまうほど……気が狂ってしまった。」
ミモリンは自分が全裸でおそろし山中を
掃除して回る様を想像しました。
「別にいいんじゃないですか?」
ミモリンはとっくのとうにイカれてました。
「よくない!!」「けちー。」
「ケチじゃない!!」「けーーちぃーー!!!!」
二人はおでこを突き合わせガルルルと
威嚇し合いました。
バルザルドは溜め息をついて言いました。
「こうなったら荒療治だ。(指パッチン)」
「へ?….きゃあああああ!!!?」
ミモリンは突然、大きな食虫植物に呑み込まれてしまいました。
「そいつは《麗しき妖花》。危険な魔物だが
こうでもしないとミモリンは眠らないからな。かくいう私も時々こいつを使って無理やり寝ている。」
「《麗しき妖花》、こいつをしばらく3日ほど 呑み込んでおいてくれ。」
魔王様はそう言ってミモリンと《麗しき妖花》をおそろし山の禁断の果樹園へと
魔法で移動しました。
(数日後)
「……….はぁーーー。」
いつものように全裸で屈強なる羊の魔物たちにおしくらまんじゅうをされるミモリン。
もうミモリンには羞恥心の欠片もありません。
慣れとはおそろしいですね。
「メェェェ!!!悩みごとですかぁミモリン
さまぁぁあ!!!」
羊の魔物の内の一人がミモリンに尋ねました。
「リュカに何かを食べさせてあげたいんだけど食べる前に熱で蒸発しちゃって……。」
そこでおしくらまんじゅうをしていた
99匹の屈強なる羊達はおしくらまんじゅうをピタッと辞め、皆でうーんと唸りました。
実は屈強なる羊の魔物達はおそろし山の魔物達の中でも比較的知能が高い種族です。
ミモリンとこうして意志疎通できてるのが
その証拠です。
「たしか、ミモリンさまはリュカさまに
触れられるんですよね?」
メガネをかけた屈強なる羊がミモリンに
尋ねました。
「うん、毎回こんがり焼かれるけどね。」
「うーん、そしたらミモリンさまの母乳なら
リュカさまも飲めるんじゃないですかねー。」
天才がいました。この物語のMVPです。
「……その手があったか!!君名前なんていうの!!?」
「私はハンサムといいます!!!」
ハンサムは嘘をつきました。
羊の魔物達に 名前は存在しません。
適当な思いつきで その羊はハンサムと名乗りました。
「ありがとう!!ハンサム!!そして屈強なる羊達の皆!!!リュカに母乳を飲ませれるか試して みるね!!!!!」
「「「頑張ってくださいメェェェ!!!!」」」
99匹の屈強なる羊達はそれぞれポージングしながらミモリンを応援しました。
さて、もはやお馴染みのファンシーな音楽
と謎の光でミモリンは変身します。
おそうじミモリン、スタンバイ完了です。
ミモリンはスウゥと大きく息を吸い
「ヤッホーちゃーん!!」
と大声でヤッホーちゃんを呼びました。
「うっさいわね、何よ?」
ヤッホーちゃんは呼んだらくるチョロい女
なのですぐにミモリンの元に魔法でやってきました。
「母乳が出るようになる野菜とかってない?」
「あぁ、あるわよ。」
ありました。その名もミルキーボブ。
カブみたいな見た目の白い野菜をミモリンは
水洗いもせずにかぶりつきます。
ばっちいですね。
「….おお!!きたきたきたぁぁぁ!!!!」
絶対母乳が出るようになったときの反応としては不適切な反応をしながら、ミモリンの
おっぱいは 母乳でパンパンになりました。
「ありがとっ、ヤッホーちゃん!!!」
ミモリンはヤッホーちゃんに抱きつきました。
「……ふんっ。」
とヤッホーちゃんはそっぽを向きました。
どうせならリュカに栄養価の高い母乳を飲ませたいと考え、 ミモリンは料理長のマカロンに相談しました。
「それならおそろし山のゴールデンシチューはいかがでしょうか。」
マカロンはお気に入りのドデカ包丁を砥石で研ぎながら言いました。
「材料を教えて!!!」
「おまかせあれ端的に伝える魔法。」
マカロンは魔法でミモリンに材料を教えました。
「ありがとマカロン、魔王様ーー!!」
「はいはい。」
ミモリンが呼ぶと魔王様が魔法で
ミモリンの後ろに瞬間移動しました。
「カクカクシカジカでシチューの材料を
取って来てほしいんですけど。」
「わかった。三十秒で取ってくる。」
(三十秒後)
魔王様はきっかり三十秒でシチュー材料で
あるギガマグマドラゴン、
《時を食らう大鯰》、かよわき森のブロッコリンのつがい、発情期のギガバッファローの肉及びミルクを ミモリン達の元に持ってきました。
「ふふっ、腕がなりますね。」
おそろし山の中でも屈指のレアな食材達を
前に料理メェープルマカロンは腕まくりを
しました。
料理長マカロンは変身して
料理長マカロン大盤振る舞いモードに変身しました。
「今回はリュカ様の緊急事態ですので禁じ手を 使います。料理魔法、過程を吹き飛ばす魔法。」
その魔法は料理は作っている時が一番楽しいという固い信念を持つマカロンが非常時にしか使わない、奥の手でした。
「はい、完成。おそろし山のシチューでございます。」
「ウッヒョー!!!!いただきます!!!」
「ああ、ミモリン様。少々お待ちを。」
そう言ってマカロンはミモリンがシチューを
食べるのを静止しました。
「へぇ?何でですか?」
とミモリンは尋ねました。
「私としたことがこのおそろし山でもっとも栄養価の高い食材を忘れておりました。」
そう言ってマカロンは自らの利き手である
右腕を思い切り左腕で引っ張り 引きちぎりました。
さすがのミモリンもこれにはたじろぎました。
「…..えぇ?」
「私は《大食らい》のメェープル•マカロン。数多くの偉大なる魔物達を食らい続けた
珍味でございます。…….どうか、ご賞味
あれ。」
そう言ってマカロンはゴールデンシチュー
にマカロンの生き血をドバドバ注ぎました。
「あ….ああーーー!!!回復魔法で治すんですね!!」
たじろぎながらミモリンは言いました。
「いえ、ミモリンさま。私は数多くの命を
屠り食らい続けた料理人。故に自らが食われる時は潔く食べられる。それが私のポリシーにございます。ですので私は今後二度と
私の右腕を治すことはありません。」
「そんな…….。」
「……そんな顔をなさらないでください。
私は食べた人を幸せにしたくて料理の腕を
磨きました。故に、私の腕一本でリュカ様を
少しでも癒せるなら、本望にございます。」
そう言って、歴戦の料理長メェープル•マカロンは魔法で止血をし、左腕で包丁を担いで
、魔法でシュッとどこかへと消えて行きました。
ミモリンはマカロンお手製ゴールデンシチューをかっ食らいました。
(なにこれ…..なにこれなにこれ…….めちゃ甘…..旨味の暴力……力がッ……滾る……!!!)
ゴールデンシチューを全て食べ終わるころ
ミモリンの髪の毛は金色に輝き、腕のフサフサな毛も逆立ちました。
ミモリンの目には とてつもない闘気が、生命力が、宿りました。
おそうじミモリン、母なる獣モード、スタンバイ完了です。
「……魔王様。」
「わかっている。既に耐熱魔法らはかけ終えた。リュカを頼むよ、ミモリン。」
そう言って魔王バルザルドは指パッチンを
してミモリンをリュカの元へと送り届けました。
リュカを封印する部屋はとてつもない熱気に
包まれていました。
沢山の鎖に繋がれ、 熱にうなされていた リュカはミモリンに 気づきました。
「ミモ…..リン………。」
ミモリンは冷静に 《熱冷ましの魔法》を使い続けながら リュカに近づきました。
熱波で顔を焼かれようが、金色の髪が
焼かれようがミモリンは怯みません。
ミモリンは「ガルルルル。」とうなり
リュカを縛る鎖を全て噛み千切りました。
リュカの熱を縛るものが全て消え、
全力の《熱冷ましの魔法》でもかき消せないほどのとてつもない熱がミモリンの身体を
焼き尽くします。
なぜミモリンはリュカの鎖を全て噛み千切るような愚かな行為をしたのでしょうか。
それは、ミモリンがリュカの心の母だからです。
母なる獣が鎖に繋がれた息子を見て黙っていられるでしょうか?黙っていられるはずがありません。
ミモリンはとっくにリュカの心の母でした。
「おいで、リュカ。」
戸惑うリュカに、燃え盛るミモリンは優しく微笑みました。
リュカは恐る恐る、ミモリンに近づきました。
ミモリンはリュカの頬を舐め、リュカに
《熱冷ましの魔法》をかけ続けます。
「リュカ、ずっとおなかすいてたよね。
…….のんでごらん。」
ミモリンは魔物としての本能でリュカに
乳房を差し出しました。
リュカは魔物のとしての本能でそれにしゃぶりつきました。
リュカに乳房を吸われ、その乳房を焼かれながらミモリンは リュカに《熱冷ましの魔法》をかけ続けました。
驚くことに、《禁忌のリュカ》はこれまで、
何かを食べたり、飲んだりしたことがありませんでした。
彼の発する高熱はあらゆる耐熱魔法をかけた食材すら蒸発させてしまうほど の高温だったからです。
生き物は何も食べなければ普通死にます。
しかしリュカは不死身でした。
そのため生まれてから何も食べなくても
生きることが出来てしまったのです。
「う……うう……ぐぅぅッ。」
リュカは栄養に飢えていました。
生きるために、飢えから解放されるために
リュカはミモリンの母乳を飲み続けました。
ミモリンはそんなリュカの頭を腕を焼かれながら撫で、何度も何度も《熱冷ましの魔法》
でリュカの身体を冷やし続けました。
リュカの身体をとてつもない栄養がかけめぐりました。
そして、ミモリンの母乳に含まれる、未だに残っていたガランドの砂の成分も、リュカの全身を駆け巡りました。
リュカは生きるために、熱の苦しみを和らげるために。
本能で生まれて初めて魔法を使いました。
「ねつ、さましの、まほう。」
するとどうでしょう。リュカの体温が1℃だけ下がりました。
数万℃を優に超えるリュカの体温のたった一度。
しかし、ミモリンが 習得した《熱冷ましの魔法》は、確かに リュカに受け継がれたのです。
「ねつさましのまほう、ねつさましのまほう、ねつさましのまほう、ねつさましのまほう。」
リュカは魔王バルザルドの息子です。
生きるために自分で何度も《熱冷ましの魔法》を使いました。
ミモリンはそんなリュカをぎゅっと抱きしめました。
「すごいよ、リュカ。きっとよくなるからね。」
そしてリュカは《熱冷ましの魔法》を何度も自らにかけ、時々ミモリンの母乳を飲みました。
ミモリンはリュカに《熱冷ましの魔法》を
かけながら、何度もリュカの頬を舐めました。
満腹になったのか、疲れてしまったのか、
リュカはすやすやと眠ってしまいました。
リュカを閉じ込めていた檻や鎖は消え、
リュカの部屋はおそろし山の高温域に生息するマグマドラゴンならギリギリ三分生きられるほどに涼しくなっていました。
リュカの熱が治るのは、きっと時間の問題でしょう。
すやすや眠るリュカの頬にキスをしたあと、
ミモリンはバルザルドの魔法でおそろし山の
カルスト台地まで瞬間移動させられました。
ミモリンのボロボロの身体を冷やし、
体力を回復させるためです。
ミモリンは大地に寝転がりました。
気づけばすっかり真夜中、空には満天の星が広がっておりました。
疲弊したミモリンは母なる獣モードを維持できなくなり、元の姿に戻りました。
もはや、自分で立つこともできないほど
疲弊したミモリン。
そこに、ヤッホーちゃんがあらわれました。
「…….ヤッホー……ちゃん…..。」
ヤッホーちゃんはミモリンを抱きしめました。ミモリンの体力が回復していきます。
「ありがとう……。」
ミモリンの言葉に耳を貸さずヤッホーちゃんはミモリンに問いかけます。
「私は嘘が嫌いなの。だから正直に答えて
頂戴。」
「え…….。」
「あなたの夢は、リュカを治して、私たちと
一緒にごはんを食べることだったわね?」
「うん…..あと少し、時間をかければ
叶いそうだよ……。」
「……そう。」
ヤッホーちゃんは目を閉じました。
ヤッホーちゃんはミモリンを離しました。
ミモリンの体力はすでに満タンでした。
「……ならば私は、おそろし山の精霊として、 あなたの愚行を全力で阻止するわ。」
「……え?」
「マカロンッッッ!!!!!」
ヤッホーちゃんが叫ぶと魔法で隻腕の
マカロンがあらわれました。
「「《憑依合体》!!!!」」
マカロンはヤッホーちゃんと憑依合体して
お料理マカロン悪しき神威モードに変身しました。
神威モードと違いマカロンの身体はそのままのサイズでした。それでもヤッホーちゃんと
憑依したマカロンからはとてつもない闘気と
どうしようもないほどの殺気が溢れていました。
「どう…….して…….?」
困惑するミモリンに目もくれず
悪しき神威達は
構えました。
がんばれミモリン、まけるなミモリン。
ハッピーエンドになるといいですね。
(次回 譲れぬ思い、木霊するやまびこ。
次回もお楽しみに☆)
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