テラーノベル
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午後十一時五十分。
神崎は一人、車を降りた。
住所の先にあったのは、二十年前に閉鎖された総合病院だった。
錆び付いた門。
割れた窓ガラス。
壁には無数の落書き。
その中に、一つだけ見覚えのある紋章が描かれている。
翼を広げた人間の紋章。
「やっぱり……ここか。」
神崎は懐中電灯を手に、病院へ足を踏み入れた。
⸻
廊下には誰もいない。
風も吹いていないのに、古びたカーテンだけがゆっくり揺れていた。
壁の案内板には、
「礼拝堂 7F」
神崎は階段を上る。
一階。
二階。
三階。
静寂だけが続く。
だが四階へ差しかかった時だった。
コン……
コン……
誰かが歩く音。
神崎はライトを向ける。
誰もいない。
音だけが近づいてくる。
コン……
コン……
神崎は拳銃に手を掛けた。
「誰だ!」
返事はない。
次の瞬間。
音はぴたりと止んだ。
⸻
七階。
礼拝堂の扉がわずかに開いていた。
中から蝋燭の光が漏れている。
神崎は静かに扉を押した。
ギィ……
礼拝堂には十数人の黒いローブ姿が円を描いて立っていた。
中央には祭壇。
その上には一冊の黒い本。
そして、見覚えのある翼の紋章。
誰も神崎を見ようとしない。
全員が祭壇だけを見つめている。
やがて、一人が口を開いた。
「……時間です。」
全員が一斉に唱え始める。
「終わりは始まり。」
「肉体は器。」
「魂は巡る。」
「門は開く。」
その声は徐々に大きくなっていく。
礼拝堂全体が震えているようだった。
⸻
突然。
バンッ!!
礼拝堂の扉が閉まる。
神崎は振り返る。
#探偵
橘靖竜
5,571
ロボットの王
2,564
開かない。
「くそっ!」
その時だった。
祭壇の奥の幕がゆっくり開く。
誰かが姿を現す。
黒いローブ。
白い仮面。
男か女かも分からない。
ローブ姿の信者たちは一斉にひざまずいた。
「教祖様……。」
神崎は息を呑む。
ついに現れた。
事件の黒幕。
教祖は神崎を見る。
そして、静かに口を開いた。
「神崎悠真。」
その声は機械で変えられているようだった。
「ようやく、ここまで来ましたね。」
「お前が教祖か。」
「その質問に意味はありません。」
教祖は祭壇へ歩み寄る。
「あなたは今、二つの世界の境界に立っています。」
「ふざけるな。」
神崎は拳銃を向けた。
「連続自殺事件について話せ!」
教祖は笑う。
「自殺?」
「あなたはまだ、その程度の認識なのですね。」
その言葉に神崎の表情が変わる。
「どういう意味だ。」
教祖は黒い本を開いた。
そこには歴代の”候補者”の名前が並んでいた。
何百人。
いや、何千人。
最後のページ。
そこには新しく名前が刻まれていた。
第十三候補 神崎 悠真
神崎は凍りつく。
「なぜ俺の名前が……。」
教祖は答えない。
代わりに本を閉じた。
「刑事さん。」
「あなたは、本当に今回が初めてだと思っていますか?」
「……何?」
「あなたは、この事件を何度も追っています。」
神崎は眉をひそめる。
「何を言ってる。」
教祖は祭壇の蝋燭を一本吹き消した。
部屋が少し暗くなる。
「あなたは毎回、ここへ辿り着く。」
もう一本。
蝋燭が消える。
「そして毎回、すべてを忘れる。」
最後の一本だけが残る。
教祖は神崎を見つめた。
「これは、十三回目の捜査です。」
神崎の頭に激しい痛みが走る。
見たこともないはずの光景が脳裏を駆け巡る。
燃え落ちる礼拝堂。
血に染まる警察手帳。
そして、自分自身が教祖に向かって叫ぶ姿。
「今度こそ……止める!」
「うっ……!」
神崎はその場に膝をつく。
教祖は静かに微笑んだ。
「思い出しましたか?」
礼拝堂の時計が、午前零時を告げる。
ゴーン……
ゴーン……
その音とともに、祭壇の床がゆっくりと左右に開き始めた。
地下へ続く、真っ暗な階段が姿を現す。
教祖はその闇を指差し、静かに言う。
「門が開きました。」
神崎は、暗闇の奥から誰かがこちらを見ている気配を感じた。
コメント
1件
うわあああ第5話!やばすぎた!!😭💕 廃病院の不気味な雰囲気から始まって、音だけ近づいてくるホラー演出がガチで鳥肌立った…! そして教祖の「十三回目の捜査」って言われた瞬間の神崎さんの衝撃、一緒に頭痛くなったよ…! 「毎回すべてを忘れる」って、めっちゃ切なくない!?このループものの匂い、完全に持ってかれた…! 門が開くラストも続きが気になりすぎて夜しか寝れん…!!次回も待ってるからねリユ先生!!🔥