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#現代ファンタジー
るるくらげ
いと
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小さな鎌を持った俺は、その鎌の刃を見つめて立ちすくんでいた。
刃は緩やかなカーブを描いているが、切れるのは……刃の内側……だよな?
鎌はホームセンターで売っている草刈り鎌と変わらないのだが、俺は草刈りをした経験もない。
「……これでどうやって、取るんだ?」
俺はグリムに、救いを求める目を向けた。
「言っただろ。それで取るしかないって」
「そういうけど、鎌の使い方もわからないんだ! どうやって魂を取り出すんだよ!」
俺が声を荒げると、グリムは無表情の顔で淡々と言った。
「目を凝らして、人間の身体を見ろ」
俺は清水の身体を、凝視した。
目を凝らすと、清水の身体の左胸の辺りに白く浮かび上がる光の塊が見えて、その光の塊の上には糸のような物が頭に向かって伸びていた。
「光の塊が魂。脳に向かっている糸は、霊体に繋がる帯だ。それを切り離すようにしながら、魂を掬い取れ」
「帯を切って魂を掬う?帯が脳に繋がっている……? じゃあ、霊体は脳の……」
「説明は後だ!早くしないと、逃げるぞ!」
ハッとして清水を見ると、清水はヨタヨタしながら階段室の出口へ向かっていた。
———逃がすかっ!
俺は清水の背中に向けて、鎌を振り上げた。
鎌は清水の首下あたりの背中に刺さり、俺はグリムが言った帯を引っ張るようにして鎌を引いた。
すると、帯が伸びるように切れたのだが——
同時に、清水の頭部が転がってきた。
「———え?」
驚いて、思わず声を上げてしまった。
だがよく見ると、清水の身体の頭部は繋がっている。
じゃあ、この転がってきた頭はなんだ?
俺はグリムに振り返ると、グリムは瞠目した顔になって清水の頭部を見ていたが、俺に視線を向ける。
「樹。僕は霊体と切り離せと言ったけど……」
そう言って肩を震わせて、笑いを堪えるグリム。
「霊体の、それも頭を取り出せって……言ってないよ」
と言ってから、「ぶはっ」と吹き出して大笑いをした。
「し、仕方ないだろ! やったことないんだから!」
「そうだな。初めてにしては、上出来だな。ちゃんと魂を取り出したのだから」
グリムは切り離された清水の霊体である頭部、そのすぐ横に視線を向けた。
そこには茶褐色の塊がくすんだ光を、弱々しく放っていた。
グリムは人差し指と親指で、汚らわしそうに塊を摘むと
「汚ねぇ魂だな」
と、冷たく嘲笑った。
グリムは魂を摘みながら、空いたもう片方の手のひらを上に向けた。
手のひらの上に浮かび上がったのは、蓋の空いた小さな箱。
その箱に清水の魂を入れると、箱の蓋が閉じた。
グリムはマントの下、胸元に箱を入れると
「さて……」
チラッと、清水の霊体の頭部を見た。
「な、なんだ……これはどうなっている。俺の身体が……」
霊体の頭部の清水は、自分の立ったままの肉体を見ている。
「俺は死んだのか? 俺は……」
清水の頭部の目がぐわっと見開き、俺を見た。
「梶原ぁぁぁあ! お前が、お前が俺をこんな目に合わせたのかぁあ!」
叫ぶ清水を見て、俺は怯んだ。
生首が恨みをこめて睨みつける。
その視線を浴びている俺は、足が勝手に一歩、後退りした。
「俺を戻せ! 元に戻せ!」
喚き散らす清水に、グリムは冷酷無慈悲な視線を向けた。
「おじさん……うるさいよ」
そう言ってから、グリムは躊躇いもなく清水の頭部を——思いっきり蹴った。
「ぐぎゃあ」
変な声を出して、清水の頭部はサッカーボールのように飛んで、校舎の下に落ちていった。
「……な、何を」
——するんだ?という前に、グリムが俺を見て笑った。
「人間はサッカーってのをやっているけど、こんな感じなのか? 蹴るって面白いね」
グリムの無邪気な笑み——俺はゾッとした。
俺はグリムと気軽に呼んだが、こいつはグリムリーパー
——死神だ。
人の生命、魂を躊躇なく刈り取る者、人間ではない暗黒の世界の使者だ。
忘れかけていた恐怖が蘇っている俺に、グリムは
「見ろよ」
と顎で示したのは、清水の肉体。
清水の肉体は、霊体の頭部が飛んで行った方向に歩き出していた。
無表情で歩く清水の肉体は、いきなり走り出す。
——な、なんだ?
俺は清水の肉体を追いかけたが、清水の肉体は屋上フェンスを乗り越えて——ダイブした。
「——ッ!」
思わず口元を抑える俺の横に来たグリムは、地面を覗きこんで
「あー、ほらね。樹が霊体の頭部を切り離したから、肉体も切り離されたね」
ニヤリと笑った。
地面に落ちた清水の肉体、頭部が離れていた。
「……」
俺は足に力が入らず、へなへなとその場に座り込んだ。
「俺のせい?俺が……清水をこんな風に……殺した……?」
放心状態で呟く俺に、グリムは冷たく目で見下ろした。
「誤解するな」
冷淡な声でグリムは言う。
「本来、俺達は霊体を傷つけずに魂を取り出すだけ。魂を取り出された人間は、自らの方法で死に至る」
「自らの……方法?」
「そうだ。寿命は本のページ数だけど、死因は書かれてなかっただろ?」
「ああ」
「俺達はページ数がわずかになった人間のリストを渡されていて、そのリスト通りに魂を刈るだけだ。その人間の死因はわからない」
グリムが俺に説明したのは——
人が寿命を迎えるのは、肉体の細胞が衰えて終わりを迎える病死が殆どだということ。
それ以外の場合は不慮の出来事であり、肉体が衰えてないが寿命のページが少ない。
ということだった。
「じゃあ、不慮の出来事を起こすようにするのは、死神ってことか?」
グリムは首を横に静かに振った。
「それも違う。俺達は死因には一切関与しない」
「関与はしないって……」
「さっきも言ったけど、魂を取り出された人間は、自らの方法で死に至るって言っただろ?」
「……」
「魂だけ取り出された人間は、肉体には霊体のみが残る。
そして霊体は決められた死因に向かって、無意識に肉体を動かして死に向かう」
「無意識に肉体を動かすって……よくわからないんだが、決められた死因があるんだな? じゃあ死神じゃないのなら、誰が決めているんだ?」
グリムは無言で俺を見つめた後、一言だけ言った。
「金色の瞳を持つ者」
「金色……」
グリムは銀の瞳だが、死神は銀の瞳だったら……
「それは誰なんだ?」
グリムは「ハァ」とため息をつく。
「それを樹が知る必要、ある?」
「え?」
「樹の肉体は生きている。まだ人間の樹が、全部を知る必要はないだろ?」
「いや、それはそうだけど……」
「樹は紗羅を助けることに集中しろよ。紗羅の肉体の衰えが先に来たら、魂を集めても間に合わなかったってことになるよ」
「——ッ!」
俺が黙り込むと、グリムはしゃがみこんで俺の顔を見た。
「あのおじさんは、樹が霊体を頭と身体に切り離してしまったから、離れた霊体が元に戻ろうとしただけ」
「え?」
「まぁ、たまたま今回は魂の収穫祭だから、特別に許してもらっているけど」
「特別にって……何を?」
グリムは校舎の向こう、清水が落ちた方向にチラッと目を向けて、
「死因に少しだけ関与すること」
低い声でボソッと言ってから、俺の方に振り返った。
「樹が間違えて霊体を切っちゃった後始末として、僕が死因を誘発させておいた」
にっこりと微笑んだグリムは
「今回は樹が初めて刈り取ったってことで、少しは考慮されたけど、次回からは霊体を傷つけずに、魂を取り出すようにしてくれよな」
そう言ってから、立ち上がり
「さぁ、行くよ。まだ始まったばかりなんだから」
俺に立てと促す。
——俺は人間だ。死神じゃない。
だけど、俺はどんどん戻れない闇に、向かっているのは確実で……。
紗羅を助けたあと、俺はどうなるんだろう。
だが、今はそれを考える時間はない。
早く紗羅を助けなければ……間に合わなくなるうちに。
——そして俺は生きたまま、魂を刈り取る者へとなっていくのだった。