テラーノベル
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二人目の魂——次は誰から取るのか。
グリムに聞かれて、俺は即答出来なかった。
するとグリムは無言で指を鳴らして、また俺を迷路に戻した。
そして俺は今、鏡の壁に映る映像を無言で見ている。
高校を辞めて引きこもる俺に、普段通りに接してくれた両親だったが、夜中に二人で辛そうな顔で俺の話をしていた。
そんな光景をまた見るとは思わず、映像から目を逸らすと、別の映像では動画配信の画面が出てきた。
ヘラヘラと笑う西谷順の配信。その配信を止め、次の配信を見ると、ゲーム実況する蒲生哲也の声が聞こえた。
『奴らは何故、楽しそうにしているんだ』と、 映像の中の俺は怒りを堪えられずに部屋中の物をひっくり返して、暴れていた。
そんな俺を見る紗羅の顔が、今、映像に映し出されている。
「樹、大学に進学しようよ。学校辞めても、高認があるよ。
樹は物理が好きだって言ってたでしょ?」
優しく笑う紗羅の顔が、映像に映し出されて……俺の目から涙が溢れていた。
……そうだ。俺は紗羅を助けるんだ。
清水の魂を取った時に、俺は覚悟を決めたつもりだった。
それなのに、俺は次へ進むことに躊躇してしまった。
逃げていいのか?いや、ダメだ。
紗羅の為に、逃げてはいけない。
俺は紗羅を助ける事から、逃げない。
再び決心を固めた俺は、過去と対峙する為に扉を開けた。
扉の向こうは——中華街にある中華料理店。
静かな店内の奥の個室からは、大きな声が漏れていた。
「ちわぁー!皆、元気ぃ?ニシジュンちゃんねるでーす!」
円卓に座る小太り、いや肥満の西谷順が、三脚をつけたスマホに向かって笑っていた。
西谷の他にもう一人、胸元を強調したドレスを着た女がいた。
明らかにキャバ嬢とわかる女は、西谷から少し離れた位置に座り、つまらなさそうな顔でスマホを見ていた。
西谷はチラッと女を見たが、テンション高く配信の撮影を続ける。
「今日は、中華街に来てまぁーす!
この羅象飯店は三つ星がついている、ちょー高級名店!
今から食べ尽くしまぁーす!先ずはフカヒレの姿煮から……」
——ブブッ、ブブッ、ブブッ
スマホのマナーモードの音が、鳴り響いた。
西谷は「チッ!」と舌を鳴らして、音の鳴る方向——スマホ操作している女に怒鳴った。
「おいっ!今、撮影中だぞっ!」
女は一瞬、眉を顰めたが、にっこりと作り笑いをした。
「ごめんなさい。お店からの電話なの。向こうでかけてくるわね」
上目遣いで「すぐ戻るわ」と女が言えば、西谷は
「仕方ねぇな……」
とデレた顔になっていた。
「ま、後で編集すればいいからな……」
西谷が三脚からスマホを外して画面操作をしている間に、個室から出た女は少し離れたところで電話をかけていた。
「ごめん!まだ店に行けそうにないのよ!……え?そうそう、同伴なんだけど、横浜まで来たのよ。
それであのデブが、突然に撮影を始めちゃって……え? 店の名前? 羅象飯店ってとこだけど……」
女は電話の相手の話に耳を傾けて、「うんうん」と言ってから驚いた顔になる。
「え、何? オーナーの店? あ、そうなんだ」
笑いながら話し込む女の横を、ワゴンを押した男の店員が通り過ぎた。
店員が向かったのは、西谷のいる個室。
「お待たせ致しました。ご注文のお品です」
「おっ!きた!きた!」
円卓に並べられたのは、干しアワビのオイスターソース煮、燕の巣、北京ダック、金華ハムの蒸し物など。
高級食材の料理などが、次々と運ばれてくる。
撮影を開始しようと、三脚の上にスマホを設置しようとした。
その時、円卓にある撮影用のスマホとは、別のスマホの着信音が鳴り響いた。
「なんだよっ!」
とぶつくさ言って、西谷は胸元のスマホを取り出す。
画面をタップしてスピーカー設定にした西谷は、そのスマホをテーブルの上に置いた。
西谷は笑いながら言う。
「蒲生、久しぶりだなぁ」
電話の相手は——蒲生哲也だった。
「急になんだ?俺、今撮影中なんだよ」
「あ、悪い」
#現代ファンタジー
るるくらげ
いと
「今、休憩だからいいけど。
そうだ!今度コラボしようぜ」
楽しげに話す西谷に、蒲生は低い声で言った。
「それはいいけど、今日は大事な話があって電話したんだ」
少し言いにくそうな声で、蒲生は西谷に言う。
「あのさ、お前は知っていたのか?」
「え?何?なんのこと?」
「高校の時の担任、清水なんだけど……」
「清水? 清水がどうした?あっ!もしかして同窓会でもするのか?」
愉快そうに笑いながら話す西谷は、三脚にあったスマホの画面を操作した。
「違うよ!清水、死んだんだ」
「え?死んだ? どうして?」
西谷の手が、一瞬止まったが、すぐさまスマホ操作を続けて、円卓に並べた料理の写真を撮り始めた。
「学校で、飛び降りたらしい」
「マジか?」
驚きながらも、西谷は他人事のように話しながら、写真を撮り続けていた。
女性の店員が、さらに料理を運んできたことにも、西谷は気づかない。
写真を撮りながら
「どうしてお前が知っているんだよ?」
と蒲生に聞くと、電話の向こうの蒲生が一瞬、息をのんだ。
そして、ゆっくりと低い声で言った。
「刑事が、俺のところに来たんだよ」
「刑事?なんでお前のところに、刑事が行くんだよ?」
「……清水、飛び降りる前に『梶原に殺される』って言ったらしい」
「はぁぁ?」
西谷は立ち上がって、スマホを掴んで部屋の隅に行った。
円卓に背を向けて、西谷はスピーカーをオフにして小声で言う。
「梶原って、あの梶原だろ?なんでアイツの名前が出るんだ?」
「俺も驚いたよ。今日、刑事が大学の門のところで、俺を待っていて……梶原について詳しく聞きたいって」
「いやいや、おかしいだろ?だって、梶原って今、意識不明だろ?」
「え?」
電話の向こうで、蒲生は驚いた声を出した。
「だってさ、あいつ……事故で頭ぶつけて死にかけてるって、溝口が言ってたよ」
「梶原が意識不明って、なんで溝口が知っているんだよ?」
「梶原、アイツ一年遅れで大学に入ってから、女が出来たらしい。で、たまたま溝口が、あいつの女と知り合ったんだけど、梶原の泣き叫ぶ顔を見たいって。それで女を寝とったんだよ」
西谷は醜悪な顔で、ゲラゲラ笑う。
「その後すぐに梶原が事故ったって。その上に意識不明って、溝口が女から聞いたらしい。
女を取られて、死にかけって、梶原はとことん不幸だよなぁ」
と言って大笑いした西谷は、何気なく後ろを振り返ったのだが、一瞬にして顔が強張った。
円卓の上は所狭しと料理で埋め尽くされ、円卓に乗り切れない料理が、ワゴン二台の上に乗せられていた。
「ちょっ、なんだよ!これ? アイツが注文したのかよ?!」
西谷はキャバ嬢の女が注文したのだと思い、部屋を見渡したがいない。
いるのは今、料理をワゴンで運んで来た男の店員が二人。
店員の一人が一礼して部屋を出ると、西谷は
「おいっ!こんなに注文した覚えはないぞ!」
残ったもう一人の店員に、文句を言おうとしたのだが——
「——え?」
息をのむ西谷。
西谷が店員だと思った男——それは俺だ。
「全部、食えるだろ。お前の卑しい口なら」
俺は冷笑を浮かべて言った。
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