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俺の名はマサキ!地域のガキ大将だ!俺様にかなうものはいねえ!だが俺にはまだ見せていない面がある。
それはな……
オレの名前はマサキ。小学校6年、2組のガキ大将。
このあたりじゃ、ちょっと知られた存在だ。
昼休みにドッジボールすれば必ずセンター。
誰かがいじめられそうになったら「おい、それやめろ!」って割って入る。
給食で誰かが牛乳をこぼしたら、「あーあ!ドジかよ〜!」って大声で笑ってごまかす。
先生にもよく怒られるけど、なんだかんだで憎めない…らしい。
そんなオレ、マサキには、
**クラスでただ一人、誰にも言ってない“裏の顔”**がある。
それは――
「ピアノ」だ。
オレは毎週火曜日の放課後、大きな黒いカバンを持って、学校の裏門から帰る。
友だちと遊びたい気持ちをグッとこらえて、まっすぐ帰る。
カバンの中には、楽譜と、ノートと、使いこまれた指のストレッチ用ゴム。
向かう先は、駅前の古い音楽教室「トモエピアノスタジオ」。
入り口には年季の入った木の看板。
中に入ると、ピアノの音がいつも響いている。
そこに、オレはもう4年通ってる。
ピアノを始めたのは2年生のとき。
じいちゃんが亡くなって、葬式でオルガンの音を聴いたのがきっかけだった。
「あの音、きれいだったな…」
なんとなくつぶやいたら、母ちゃんが「じゃあやってみる?」って言ってくれた。
最初は、誰にも言わなかった。
だってさ、ピアノって、なんか女子がやるもんってイメージあるじゃん?
「マサキがピアノ?」「えー?似合わねー!」
そんなの言われたくなかった。
だから、オレは**“ガキ大将”をやりながら、プロ級を目指すピアノ少年**を、同時にやってた。
トモエピアノスタジオの奥に、古いグランドピアノがある。
オレはそこを「秘密基地」って呼んでる。
先生はトモエ先生。70歳近いおばあちゃん先生だけど、指は魔法みたいに動く。
「マサキくん、今日も強気なドッジボールみたいな音してるわね〜」
って笑いながら言うけど、
「でも、ここは戦場じゃなくて、舞台よ」
って言って、毎回、曲の中の“気持ち”を探すように教えてくれる。
オレは、それが好きだった。
6年生の春、オレに転機が来た。
「全国ジュニアピアノコンクール」地区予選に出てみないかって言われた。
「え?オレが?プロの子とか出るやつでしょ?」
ビビった。でも、トモエ先生は真顔で言った。
「あなた、勝ちたい子の音をしてるのよ」
オレは出ることを決めた。
でも、問題があった。コンクールの日と、学校の運動会が重なっていたんだ。
運動会といえば、ガキ大将としてのオレが輝く場。
応援団長もやる予定だった。
「マサキ、お前がいなきゃ勝てねぇよ!」
「赤組のリーダー、マサキだろ!」
そう言われて、オレはめちゃくちゃ迷った。
夜、ピアノの前で母ちゃんに言った。
「なあ…マサキ、運動会サボったら、ヒーロー失格かな」
母ちゃんはピアノのイスに静かに座って、言った。
「マサキがどっちを選んでも、マサキらしくやれば、それでいいと思うよ」
その言葉で決めた。
オレは次の日、学校に言いに行った。
「先生、オレ、運動会出られません。コンクール出ることにしました」
クラスはざわついた。
でも、ひとこともバカにするやつはいなかった。
リョウが言った。
「そっか、マサキ…すげぇな。じゃあ優勝してこいよ」
なぜか、みんなが拍手してくれた。
コンクールの朝、指が震えた。
でも、トモエ先生が言った。
「マサキ、ピアノは言葉をしゃべらない。だからこそ、心で伝えるのよ」
ステージに出たオレは、ただ、音に気持ちをのせた。
強気で、自信たっぷりで、でも、ちょっと不器用な、オレの音。
曲が終わったあと、会場はシーンとしたあと、大きな拍手が起こった。
結果は…
地区優勝。関東大会進出。
学校に戻ったら、運動会は終わってた。
でも、校庭に出たら、赤組の応援団のみんなが待ってた。
マサキの応援うちわを振って、
「ガキ大将マサキ、ピアノでも優勝〜〜!!!」って大声で叫んでくれた。
ちょっと泣きそうになったけど、
オレはでっかく手を上げて、叫び返した。
「当然だろーがっ!!」
次の日、リョウが言った。
「マサキ、ピアノやってんの隠してたとか、ズルいぞー!」
でもミカが言った。
「いや、マサキってなんか…かっこいいわ」
ふふん。
オレ、ガキ大将だけど、もう隠す気はない。
運動も、ケンカも、ピアノも、
全部ぜんぶ、オレだから。
オレはマサキ。ガキ大将にして、ピアノの申し子!