俺の名はマサキ!地域のガキ大将だ!俺様にかなうものはいねえ!だが俺にはまだ見せていない面がある。
それはな……
オレの名前はマサキ。小学校6年、2組のガキ大将。
このあたりじゃ、ちょっと知られた存在だ。
昼休みにドッジボールすれば必ずセンター。
誰かがいじめられそうになったら「おい、それやめろ!」って割って入る。
給食で誰かが牛乳をこぼしたら、「あーあ!ドジかよ〜!」って大声で笑ってごまかす。
先生にもよく怒られるけど、なんだかんだで憎めない…らしい。
そんなオレ、マサキには、
**クラスでただ一人、誰にも言ってない“裏の顔”**がある。
それは――
「ピアノ」だ。
1. ガキ大将と黒いカバン
オレは毎週火曜日の放課後、大きな黒いカバンを持って、学校の裏門から帰る。
友だちと遊びたい気持ちをグッとこらえて、まっすぐ帰る。
カバンの中には、楽譜と、ノートと、使いこまれた指のストレッチ用ゴム。
向かう先は、駅前の古い音楽教室「トモエピアノスタジオ」。
入り口には年季の入った木の看板。
中に入ると、ピアノの音がいつも響いている。
そこに、オレはもう4年通ってる。
2. はじまりは「秘密」
ピアノを始めたのは2年生のとき。
じいちゃんが亡くなって、葬式でオルガンの音を聴いたのがきっかけだった。
「あの音、きれいだったな…」
なんとなくつぶやいたら、母ちゃんが「じゃあやってみる?」って言ってくれた。
最初は、誰にも言わなかった。
だってさ、ピアノって、なんか女子がやるもんってイメージあるじゃん?
「マサキがピアノ?」「えー?似合わねー!」
そんなの言われたくなかった。
だから、オレは**“ガキ大将”をやりながら、プロ級を目指すピアノ少年**を、同時にやってた。
3. おんぷの秘密基地
トモエピアノスタジオの奥に、古いグランドピアノがある。
オレはそこを「秘密基地」って呼んでる。
先生はトモエ先生。70歳近いおばあちゃん先生だけど、指は魔法みたいに動く。
「マサキくん、今日も強気なドッジボールみたいな音してるわね〜」
って笑いながら言うけど、
「でも、ここは戦場じゃなくて、舞台よ」
って言って、毎回、曲の中の“気持ち”を探すように教えてくれる。
オレは、それが好きだった。
4. 発表会とオレの選択
6年生の春、オレに転機が来た。
「全国ジュニアピアノコンクール」地区予選に出てみないかって言われた。
「え?オレが?プロの子とか出るやつでしょ?」
ビビった。でも、トモエ先生は真顔で言った。
「あなた、勝ちたい子の音をしてるのよ」
オレは出ることを決めた。
でも、問題があった。コンクールの日と、学校の運動会が重なっていたんだ。
運動会といえば、ガキ大将としてのオレが輝く場。
応援団長もやる予定だった。
「マサキ、お前がいなきゃ勝てねぇよ!」
「赤組のリーダー、マサキだろ!」
そう言われて、オレはめちゃくちゃ迷った。
5. 涙の決断
夜、ピアノの前で母ちゃんに言った。
「なあ…マサキ、運動会サボったら、ヒーロー失格かな」
母ちゃんはピアノのイスに静かに座って、言った。
「マサキがどっちを選んでも、マサキらしくやれば、それでいいと思うよ」
その言葉で決めた。
オレは次の日、学校に言いに行った。
「先生、オレ、運動会出られません。コンクール出ることにしました」
クラスはざわついた。
でも、ひとこともバカにするやつはいなかった。
リョウが言った。
「そっか、マサキ…すげぇな。じゃあ優勝してこいよ」
なぜか、みんなが拍手してくれた。
6. コンクール当日
コンクールの朝、指が震えた。
でも、トモエ先生が言った。
「マサキ、ピアノは言葉をしゃべらない。だからこそ、心で伝えるのよ」
ステージに出たオレは、ただ、音に気持ちをのせた。
強気で、自信たっぷりで、でも、ちょっと不器用な、オレの音。
曲が終わったあと、会場はシーンとしたあと、大きな拍手が起こった。
結果は…
地区優勝。関東大会進出。
7. 運動会のあとで
学校に戻ったら、運動会は終わってた。
でも、校庭に出たら、赤組の応援団のみんなが待ってた。
マサキの応援うちわを振って、
「ガキ大将マサキ、ピアノでも優勝〜〜!!!」って大声で叫んでくれた。
ちょっと泣きそうになったけど、
オレはでっかく手を上げて、叫び返した。
「当然だろーがっ!!」
エピローグ:秘密じゃなくなった日
次の日、リョウが言った。
「マサキ、ピアノやってんの隠してたとか、ズルいぞー!」
でもミカが言った。
「いや、マサキってなんか…かっこいいわ」
ふふん。
オレ、ガキ大将だけど、もう隠す気はない。
運動も、ケンカも、ピアノも、
全部ぜんぶ、オレだから。
オレはマサキ。ガキ大将にして、ピアノの申し子!






