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「お、お兄さん大丈夫?」
「大丈夫だ、心配すんな……ッ」
ゴミの山を少女を抱えながら登るが、如何せん足場が不安定すぎて登れている気がしない。ぐらぐらっと雪崩のように落ちてくるゴミ。金属類からガラスまで様々で、安易に掴めば手のひらを切った。それでも、血だらけになりながらも俺は頂上を目指して登る。
後ろを振り向けば、すぐそこに迫るマグマ。なだれて俺たちより後方にいったゴミはあのマグマの中に吸い込まれていった。ありゃ、骨も残らねえな。と思いつつ俺はゴミの山を登ることに専念した。未だ神津は戻ってきていない。さすがのあいつでも打開策が見つからなかったか。それとも従業員を呼びに行ったか。どちらにせよ、頼れないなと俺はハッと吐き出すように笑った。
「お兄さん、どうしたの?」
「いいや、助けはいつ来るかって思ってな」
「……助けに来てくれたのは、お兄さんだけだよ」
と、まるで俺が正義のヒーローでもあるかのように少女は俺を見つめていた。先ほどは、きっと恐怖の緊張が解けて泣いていただけなのだろうと、自分を悪者扱いされていなかったことに内心ほっとしていた。
それはさてとして、ここから抜け出したら少女が何故こんなところにいたのか事情を聞かなければならない。さすがにあのクレーンに一人で身体をつり下げられるわけがあるまい。誰かと遊んでいたとしても、ああはならないだろう。となると事件の可能性が。
そう考えていたとき、「春ちゃん!」と俺を呼ぶ声がした。顔を上げれば、先ほどのクレーンとは異なるまるで大きな磁石のようなものが俺たちに迫っていた。
「遅えな、恭」
「これでも早いほうだと思うけど」
俺は神津に悪態をつきつつ、ゴミの山の出っ張りの部分にしっかりと捕まりながら、迫りくる巨大な鉄の塊を見据えた。
「お、お兄さんあれなあに?」
「ん? あれはな、俺たちを助けてくれる救助ヘリだ」
少女の質問に対して、俺はいまできる精一杯の笑顔を作りながら答えた。少女は興味津々と言ったように大きな磁石を見つめる。
一体神津はどこから探してきたのやらと、鉄ゴミを持ち上げるための磁石をみて俺は思った。正直不安はあったが鉄、金属類以外のゴミはその場で落ち、俺たちは何とかそれらに捕まりつつ難を逃れた。
ただ操縦になれていないのか、落とすときはかなり乱暴に落とされたため、若干ゴミの下敷きになる。
「春ちゃん大丈夫!?」
そうして、ゴミに埋もれている俺に駆け寄ってきた神津はいつもとは違う焦ったような表情をしていて、薄暗い倉庫の中でも青くなっているのが見えた。かなり心配していたように見える。
「ああ、お前のおかげでな」
「そう……よかった」
と、心底ほっとして、胸をなで下ろしている神津を見ていると俺もつられて安心感が湧いてきた。
「お、お兄さん」
「ああ、そういえばそうだったな」
少女が俺を呼ぶ声がし、現実に戻された俺は少女の方を見た。
少女は、怖い思いをしたというのにぺこりと頭を下げて、ありがとう。と何度も俺に言ってきた。俺と神津は顔を合わせて微笑んでから、再度少女を見る。
「お礼はいい。ところで、お嬢ちゃんは何でここに?」
「え、えっと……」
「春ちゃん急すぎない? 取り敢えず外に出よう」
と、神津はここじゃなんだし、見たいな雰囲気で俺に話しかけた。
それもそうだな、と思っていると足下でにゃーと猫の鳴き声が聞えた。視線を下に落とせば、黒猫のマモがおり少女を慰めるかのように彼女の足下をぐるぐると回って身体をすり寄せていた。
「猫ちゃん……」
少女はマモを持ち上げてぎゅっと抱きしめると、目を細めて嬉しそうな顔をする。そんな少女を見て、俺は少しだけ和んだ気持ちになった。
だが、神津の言うとおりまだ少女をこんな目に遭わせた犯人がいるかも知れないと、危険を考えて取り敢えず倉庫を出ることにした。
マモはもう一度ニャーと静かに泣いていた。