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すっかり夕暮、片割れ時。
先ほどよりも辺りは暗くコンビナートの人工的な灯が眩しかった。空には転々と星が見え始め、夜と夕方の境目の空の下、俺たちは少女の手を繫ぎながら歩いていた。道路側に神津、少女を挟んで俺といった感じに並んで歩いている。三人歩けるのは、車の通りが少ない歩道の幅が広い道だったからだ。
「春ちゃん、春ちゃん。僕達の子供みたいじゃない?」
「馬鹿なこと言うな。この子にはちゃんと親がいるだろ」
「冗談も通じないの?」
と、神津は笑いながら俺を見る。そんな俺たちの会話を聞いてか少女は、首を傾げていた。
どうしたのかと、聞く前に少女は俺たちを交互に見て口を開いた。
「お兄さん達は恋人同士なの?」
と、無邪気な顔で聞かれた瞬間、俺は一瞬息を詰まらせた。そして隣にいる神津を見ると、彼はプッと吹き出していて、そのまま本当のことをいいそうな勢いだった為、俺は慌てて言葉を発した。
「いや、ただの幼馴染みで」
「もう、春ちゃん慌てちゃって可愛い~、えっとね、そうだよ。お兄さん達は恋人同士なんだ」
「おい、神津」
俺がわざと濁したというか、言わずにおこうと思って言ったのに、神津はそれを無視して少女に優しくそう告げた。少女は納得したように顔を赤らめた。今じゃ、男性同士女性同士、どんな恋愛関係でも冷ややかな目を向けられることはなくなってきた。だが、そもそもに俺は恋人だ。と公に言うのは恥ずかしいタイプであり、二人だけの秘密でいいとすら思っている。けれど、神津は違うようで、俺が自分の恋人だと周りに主張したいらしい。独占欲はあるが、自分だけ、と言う考えよりかは周りに示して誰も取るなよ。見たいな圧をかけている感じだ。
「そ、そうなの? とってもお、お似合い、です」
と、少女は照れながらも笑顔で俺達にそう言ってくれた。その純粋な反応に、俺はまあいっかと遠くの方を見た。
それから少女は、ぽつりぽつりと何故あの倉庫の中でつり下げられているのかなど事の経緯を教えてくれた。緊張が解けたおかげか、少女は幾らか話しやすそうにしていたが、思い出して口にするたびに、顔が曇っていった。
「――気づいたら、縛られてて」
「そっか、話してくれてありがとう」
神津は俺より親身になって聞いていた。そうして少女の頭を撫でて、もう大丈夫だからね。家に帰れるから。と優しく言葉をかけていた。
少女の話に寄れば下校中誰かに声をかけられ振向いた後から記憶がなく、目が覚めたらあの倉庫にいたとか。途中まで聞けば誘拐かと思ったが、誘拐にしたら、何故少女をあんなところに放置していたのかが不明である。身代金と引き替えに少女を受け渡すつもりだったのか、犯人の目的が分からないままだった。間違えて誘拐したとするなら、顔を見られていないのだから、何処に放置しても一緒だろうと思った。なのに、わざわざこんな所に、ご丁寧に縛ってつり下げて、そして操作パネルを壊していて。
誰かが見つけたら目の前で少女をあのマグマに落とすつもりだったのだろうか。
やはり、犯人の目的は幾ら考えても分かりそうになかった。
「お兄さん達は、探偵さんなんだよね」
「ああ、そうだ……そうだよ」
「春ちゃんが『そうだよ』とかいうの似合わなすぎて~!」
「おい、神津黙ってろ」
神津はいつも通り茶化してくる。それに苛立ちを覚えつつも、俺は冷静さを保つ為に深呼吸をした。
少女は、俺たちのやり取りを見てくすりと笑っていた。すると、少女は急に立ち止まった。何かあったのかと心配になり声をかけようとした時、目の前から誰かが走ってくるのが見えた。目を凝らして見れば、三十後半ぐらいの女性が息を切らしながらこちらに向かってかけてくる。
誰だ? と思っていれば、少女はわっと顔を明るくしてその女性の方へかけだした。少女の腕の中にいたマモはにゃ! とびっくりしたように少女の腕の中から飛び出した。
「お母さん!」
と、少女は女性に飛びついた。女性はぎゅうっと力強く抱きしめていた。元から少女を親の元に送り届けるつもりだったので、あちらからむかえに来てくれるとはと、送り届ける手間が省けてよかったと俺は頬を緩ませた。
俺は少女の母親らしき人物の後ろ姿を眺めていたが、母親は少女を離すと、今度は俺達二人の方をじっと見つめてきた。それから、キッと顔つきをかけてこちらへずんずんと歩いてきた。そのスピードはだんだんと速くなり、右手を振り上げたかと思えばヒステリックな声とともに俺の左頬に激痛が走った。
「この誘拐犯!」