テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
制御不能なコントロール
「ねえフェイ、これ見てよ。新しいゲーム、結構面白いんだ」
アジトの隅、ノートパソコンの青白い光に照らされながら、シャルナークは声をかけた。隣ではフェイタンが、研ぎ終えたばかりの小刀の刃先を、鋭い瞳で検分している。
「……ワタシ、興味ない。お前、一人で遊ぶよろし」
素っ気ない、いつもの拒絶。
けれど、フェイタンは場所を移動するわけでもなく、シャルナークの肩が触れるか触れないかという距離に座ったまま、作業を続けている。
(……自覚、してないんだろうなぁ)
シャルナークは手元のキーボードを叩きながら、内心で深いため息をついた。
情報処理の天才と謳われ、他人の行動をスマホ一台で意図した通りに操れる自分が、隣にいるこの小柄な「蜘蛛」の挙動一つに、これほどまでにかき乱されている。
ふとした瞬間に漂う、火薬と少し冷たい風の匂い。
集中すると少しだけ細くなる、その綺麗な金の瞳。
マフラーに隠れた口元から漏れる、低くて掠れた声。
フェイタンがふいに顔を上げ、シャルナークの視線に気づいた。
「……何ね。ワタシの顔に、何か付いてるか」
「え? ああ、ううん。なんでもないよ」
シャルナークは慌てて笑顔を作った。いつも通りの、誰にでも向ける完璧な「愛想の良い」仮面。
けれど、胸の奥では心臓がうるさいほどに鳴っている。
他人の運命を操作するアンテナなんて、この男には一生刺せそうにない。そんなことをすれば、自分自身の心が壊れてしまうのが目に見えているから。
(ああ……ダメだ。本当に、好きだなぁ……)
シャルナークは画面に映る無機質なコードを見つめながら、苦笑した。
この想いを伝えて、この心地よい距離感が壊れるのは怖い。けれど、黙ったまま隣にいるだけなのも、今の彼には毒のように甘くて苦い 。
「……お前、ニヤニヤして気持ち悪いね」
「あはは、ごめんごめん」
毒づきながらも、フェイタンは席を立たない。
その小さな「許容」だけに縋って、シャルナークは今日も、自分の心へのコントロール権を放棄するのであった。