帰りは京成電鉄を利用。
電車に乗り揺られていく。
十七時半という時間帯のせいか、車内は大変混み合っていた。
出入口付近で立ち尽くす俺と先輩。至近距離で向かい合っていた。
とても嬉しいのだが、車内は缶詰状態。俺は自然と先輩を守る形となったのだが……谷間が見えそうでなかなか際どい。紙一重と言ってもいい。
「混んでますね……」
「そうだね――きゃっ」
電車が揺れ、先輩が俺の胸の中に飛び込んできた。
「大丈夫ですか、先輩」
「うん。愁くんが受け止めてくれたから」
「当然です。先輩を守るのが俺の義務ですから」
「いつも支えてくれてありがとう」
「いえ、今日は失敗していますから……」
「気にしない気にしない」
先輩は笑顔で俺の胸に顔を沈める。
――ああ、この時間が永遠に続けばいいのに。
* * *
佐倉駅に到着し、電車から降りた瞬間……俺は近くにいた冴えないオッサンの靴に違和感を覚えた。……そういえば、ネットニュースで見たことがある。
靴のつま先に“小型カメラ”を仕込む盗撮魔がいるって。痴漢と同等に性質の悪い連中だ。
そういえば、さっきから不審な動きだった。先輩のスカートの下に足を忍ばせていたような……!
だとしたら、盗撮――犯罪者だ。許せん。
俺は怒りに身を任せて、オッサンの肩を掴んだ。
「オッサン、分かっているよな」
「…………ッッ!!!」
ビクッと反応を示し、驚くスーツ姿のオッサン。痩せ細って苦労人っぽいのに、こんな愚かな真似を……。
「しゅ、愁くんどうしたの。その人、なにかしたの?」
「先輩、このオッサンは先輩のスカートの中を盗撮していたんです」
「え……うそ!」
「あの混雑でしたからね、チャンスだったのでしょう」
「……え、やだ」
不快感を露わにする先輩は、今にも泣き出しそうだった。俺は改めてオッサンに問う。
「オッサン、盗撮していたよな」
「ぐっ……さ、さあな? 証拠がない」
「汗が凄いよ。それに、証拠なら靴の中にあるだろ」
「う、うるせええッ!!」
逃げようとするオッサンの手を俺は強く掴む。
「逃がすか!!」
「ぐ! 離せ!」
だが、物凄い力で引っ張られて――逃げられた。
クソッ、なんて馬鹿力。そして逃げ足の速い……!
これは逃げられたかな、と思った。
だが、五人組の男達が一斉に走り出し、オッサンはあっけなく捕まった。ま……まさか、覆面の捜査官か。張り込みしていたのか。
「オイ、ゴラァ!!」「大人しくしろ!!」「あなた今、盗撮していたよね」「また靴に仕込んだのか、懲りないね、足田さん」
「クソ、クソォォォォォッ!!」
叫ぶ盗撮犯。周囲の人が何事かと騒然となっている。俺たちもこの状況に足を止めていた。そんな中、一人の捜査官が駆け寄ってきた。どこかで見たことあるような……どこだっけ。
「君たち、大丈夫か! そちらの彼女、盗撮されていたよね」
事情を聞かれ、先に先輩が答えた。
「はい……愁くんがそう言っていたので、本当だと思います」
「そうか。あの中年の男・足田は、この辺りで有名な盗撮魔でね。我々がちょうど警戒していたところだったんだ。少年、君は勇気があるね。よく、あの男が盗撮犯だって気づいた」
そんな盗撮魔だったのか。
詳しく聞くと、少女ばかりを狙い盗撮を繰り返している常習犯のようだった。救えねえ馬鹿野郎だ。
「――いえ、俺は彼女を守るために」
「素晴らしい。勇敢だな。それにしても……君どこかで会わなかった?」
「多分、学校じゃないですか?」
「あ~、そうだ。学校の屋上の……あの傷害事件のね。君、事件に巻き込まれやすいねえ~」
「なぜかそういう体質というか運命なんです」
「まあ、困った時があったら頼ってくれよ」
「は、はい……」
――それから俺と先輩は事情聴取を済ませた。
盗撮犯は逮捕され、連行された。
ほっとしていると、先輩はわんわん泣きだした。
「怖かった……」
「せ、先輩!?」
こんな時は優しく抱きしめてやるべきだよな、うん。俺は先輩の体を手繰り寄せて、ぎゅっとした。
「……愁くん、わたし、わたし……」
今になって力が抜けたんだろうな、先輩はずっと俺から離れなかった。
そうだ――そうだよな、俺がもっとしっかりしないと。先輩は美人で可愛いから狙われやすいんだ。これからもっと色んな男達に狙われるかもしれない。
先輩を悲しませるような事だけは……させない。
俺が守るんだ。
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