異様な雰囲気を醸し出している森の中に入るのには、誰だって気が引けるだろう。しかし、幸斗はそんなことは気にせずに森がどんな場所なのかを確認してきた。何もこの場所に関しての手がかりが無い為、一同はその森に入ろうとしていた。だが、森のその雰囲気が、脳がその中に入ることを拒んでいた。
「どう……する? 入った方がいいとは思うけど……」
初めに口を開いたのはアルバートだった。入った方がいいとは言っているが、アルバート自身も、森の雰囲気に圧倒されている様だった。
「私は入った方がいいと思いますわ。少し雰囲気はアレですが、何かここに関しての情報が手に入るかもしれませんし」
「私も賛成ですね。建物があるのなら、少なくとも誰か来たことがあるはずですし、今も誰かが暮らしているかもしれません」
「……私もです。入るのは少し気が引けますが」
アリス、志音、胡朱がそれぞれそう言う。残るは翠と、森の様子を少し見た幸斗の意見だけだった。しかし、こうも行った方がいいと考える者が多いと、片方もしくは両方が反対意見を述べたとしても行くことになってしまいそうだが。
「僕はどちらでも良いです。生きられればそれでいいので。幸斗さんは?」
「俺だってどっちでもいい。だが、中の雰囲気はここから見る程恐ろしいようなものでもない。そもそも、この程度でビビってたら先が思いやられる」
「それじゃあ森の中に入ってみるということでいいかな?」
2人の意見も、森に入ることに否定的な訳ではなかった。その為、アルバートは森の中に入るという方向で話を進めた。5人が頷いたので、6人は異様な雰囲気を放っている森に入ることになった。
◇ ◇ ◇
森には木々が生い茂っており、やはり人の手は加えられていなさそうな状況だった。6人は少しずつ森を進んでいた。数分ほど歩くと、奥に仄かな明かりと建物が見えた。
「あれがキミの言っていた建物?」
アルバートが幸斗の方を見ながらそう言う。幸斗は特に何か言うでもなく、ただ静かに頷いた。
森の中にそびえ立つのは、家──というより屋敷と呼ぶ方があっているような外観で、それなりに年季が入っている様だ。窓からはシャンデリアらしき明かりがほんのりと漏れ出ていた。
すると、建物の扉がギィ……と音を立て、その中からフード姿の人物が出てきた。フードは豪華な外観の屋敷には似つかわしくない質素なもので、焼けたかのような跡もあった。フードの人物は、6人が外に居ることに気付くとすぐに屋敷の中へと隠れてしまった。
「とりあえずインターホンを押してみようか? 少なくとも、さっきのあの人は屋敷に居るんだろうから」
アルバートが1歩前に出る。そして、6人を代表して屋敷のインターホンを押した。インターホンはおかしい様子はなく、アルバートが押すときちんと音が鳴った。
インターホンが押されてから数秒経つと、突然屋敷の扉が開いた。扉の先には、モノクルを掛けた執事服姿の黒髪の男性が居た。男性は6人を見ると驚いたような顔をしたが、その後すぐに気を取り直してこう言った。
「この辺りでは見ない顔ですが……お客様でしょうか?」
「オレ達、実は旅客機に乗っていたんですが、途中でその旅客機が墜落したみたいで……。目が覚めたらここに居たんです」
「なるほど、また珍しいお客様ですね。どうぞお上がりください、家主はまだ帰ってきていないですが」
男性は慣れた手つきで6人を屋敷内に迎えた。それを見るに、やはり長い間働いている執事の様だった。6人は屋敷の中に入れられると、応接室まで通された。
◇ ◇ ◇
「では、ごくつろぎください」
男性はそう言うと応接室を出た。少しの間部屋に沈黙が流れると、アルバートが口を開いた。
「今のところはごく普通の豪華な屋敷だね。……まぁ、この屋敷には何かがあるって確定した訳ではないんだけど」
「先程のフード姿の方も気になりますわ。空き巣という訳でもなさそうですし、私達を見るなり屋敷に隠れてしまったみたいですし」
「そもそもここはどのような場所なんでしょうか。この屋敷の主の方は居ないそうですが、どこで何をしているのでしょうね」
それぞれそんな会話をしていると、男性が戻ってきた。手にはトレイを持っており、6人分のティーカップが並んでいた。ティーカップの中には紅茶が注がれており、もくもくと湯気を立てている。
「失礼致します」
そう言うと、男性はテーブルに紅茶を並べた。紅茶を並べ終わると、男性もソファに座ったのだ。
「お客様方は、どのようなご用事でこちらにいらしたのですか?」
「さっきも話した通り、オレ達は旅客機に乗ってフランスまで行こうとしていたんです。そしたら乗っていた旅客機が墜落して、目が覚めたらここに……」
「目の前にあった森に入ったらこの屋敷が見えたので、インターホンを押したんです」
「あ、あと、屋敷にフード姿の人は居ませんか? 少し遠くから見てただけですが、確かこのぐらいの背丈で……」
アルバートがそう言うと、男性は一瞬目を細め、「彼が……」とぼそりと呟いた。しかし、その呟きは6人には聞こえていない様子で、首を傾げる者も居た。
「なるほど、彼を見たのですね。彼なら書斎に居るはずです。ご案内いたしますね」
全員が紅茶を飲み終わったのを見て、男性はティーカップをトレーに回収しながらそう言った。男性は扉を開けると開けた扉の横に立った。最初に立ち上がったのは意外にも胡朱で、5人もその後に続いて行った。
◇ ◇ ◇
「あの方はこちらにいらっしゃるはずです」
男性は廊下の端にある扉の前で立ち止まり、振り返って6人の方をじっと見つめた。そして、男性はそのまま書斎へと続く扉を開く。扉の先には階段が続いており、壁には燭台が掛けられている。蝋燭には炎が灯されており、炎はほんのりと周囲を照らし、風でゆらゆらと揺れていた。
少し埃っぽい、薄い蝋燭の灯りが灯された階段。男性はこの階段は書斎に繋がっていると言っており、6人は先程見たフード姿の「彼」を探すべく階段を降りていった。
薄暗い階段の向こうに、ふと白色の明かりが見えた。おそらく電球による明かりだろう。明かりは扉にはめ込まれているガラスから漏れ出ており、その明かりは6人に対して、扉の奥に人が居るということを伝えているようだった。
「……誰か居るんでしょうか?」
「分かりません。……ですが、先程の方が言った通り、この扉の向こうにフード姿の方が居るのかもしれませんね」
胡朱は白い明かりが漏れ出ている扉をじっと見つめている。何かを考えているような表情をしながら胡朱の言葉を返した志音を横目に、誰かが1歩前に出る。それは意外にも幸斗で、扉は目の前だというのにも関わらず開けずにいる一行を見て痺れを切らしたのだろう。何も言わず、ただ無言で扉を開けた。
「……幸斗さん、貴方はどちらかと言うと慎重派だと思っていたのですが、僕の勘違いだったみたいですね」
「お前達が扉の前でグズグズしているからだ」
幸斗はきっぱりとそう言い、扉の奥へと進んで行く。それぞれその後に続いて行き、全員が書斎へと入った。
階段と同じように、少し埃っぽい、年季の入った書斎。壁には所狭しと本が並んでいる。天井に頭をつけている本棚は、堂々と6人を見下ろしているかのようだった。背の高い本棚は迷路のように並んでおり、そんな本棚を進んだ奥に、6人が探していたフード姿の人物が居た。彼は突然の来客に驚いたような顔をした。
コメント
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胡朱ちゃんが喋ってる…(( 気になるところで終わってしまった…次回も楽しみにしてます!
今日投稿されないのかぁー、って思ってたら通知が来て嬉しくて読んだら思ったより長くて嬉しいです!!多分俺が一番乗りじゃないかな....🤔シノさんが夜ぐらいに投稿した理由が少し分かっちゃいました(笑)今回も凄く面白くてワクワクしながら読んでました!!😆😆次回作も楽しみにしてますので頑張ってください!!🥳