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第5話「最弱と奴隷、冒険者ギルドへ行く」
翌朝――
王都の朝は騒がしく、石畳の通りには商人たちの声が響き渡っていた。
そんな中、アレスとリアは宿舎を出て、「冒険者ギルド」へと向かっていた。
「……ホントに、行くの?」
リアが不安げに問う。まだ彼女の足取りは弱々しく、時折、街の人々の視線におびえてうつむく。
「ああ。金も装備もないし、まずは冒険者になって活動資金を稼ぐしかない」
「でも、わたしたち……“最弱”と“奴隷”だよ……?」
アレスは笑って返す。
「最弱(オール1)で無双して、“奴隷”が覚醒して共鳴してくるコンビだ。むしろ最強だろ?」
「……ふふ」
リアが小さく笑った。
その笑顔は、初めて見る“素の彼女”だった。
◆ ◆ ◆
冒険者ギルド――それは王都最大の冒険者たちの拠点であり、魔物討伐、依頼斡旋、情報収集の中心だった。
木造の重厚な扉を開けると、中は酒場のような騒がしさ。
筋骨隆々の戦士、ローブを着た魔導士、長耳のエルフなどが各々のグループで談笑していた。
そんな中で、アレスとリアは受付カウンターに向かう。
「はいはい、次の方どうぞー。……って、え?」
受付嬢は、二人の姿を見て明らかに驚いた。
痩せた少年と、ボロ布のような服を着た少女。どう見ても冒険者の格好ではなかった。
「冒険者登録をお願いします」
アレスは落ち着いた声で告げる。
「……本当に、あなたたちが?」
「ええ、ちゃんとステータス登録もできます」
渋々ながらも案内され、ステータス確認の魔石に手をかざす。
すると――
【名前】アレス
【レベル】1
【種族】人間
【HP】1 【MP】1 【筋力】1 【知力】1
【スキル】〈最強〉
「……えっ!?」
受付嬢の表情が凍る。
「え……ええっと、これは……エラーでは……?」
「いや、間違いない。オール1だ」
「で、ですがスキル名が……〈最強〉……!?」
騒ぎを聞きつけて、周囲の冒険者たちがざわめき始める。
「オール1の最強!?」「は? なんだその矛盾スキル?」「ギャグか?」
あっという間に、アレスは注目の的になった。
そして――
「やめとけやめとけ、お前みたいな雑魚が冒険者になっても死ぬだけだぞ」
と、横から声をかけてきたのは、筋肉マッチョなB級冒険者の男だった。
「俺たちの世界に、遊び半分で入ってくんなっての。女のほうも、どうせ慰みものにでもされてたんだろ?」
その言葉に、リアの体がビクッと震える。
「……リアを、バカにするなよ」
アレスの声は、静かだったが、ギルド内の空気を変えた。
「え? おい、聞こえてなかったのか? お前みたいなステータスの――」
ズドォン!!!
突如、マッチョ冒険者の身体が、吹き飛んだ。
壁まで一直線に吹っ飛ばされ、崩れるように床に転がる。
ギルド全体が、沈黙に包まれた。
アレスは、ただ軽く手を振っただけだった。
「……あ、あれ?」
「おい、今の……スキルか?」「ステータス1なのに、どうやって……?」
リアは震える手でアレスの服を掴んでいた。
「アレス……今の、あなたがやったの……?」
「たぶん、“最強”のスキルが、自動で調整してくれるんじゃないかな。俺の“1”が、相手の“100”を超えるように」
そう、それが〈最強〉の本質――
「あらゆる状況下で、絶対に優位になる力」。
つまり、どんな相手と戦っても勝てるスキル――まさしく**“最強”**だった。
受付嬢は呆然としながらも、かすれ声で言った。
「……あの、登録は……完了です……。アレスさん、そしてリアさん……正式に、冒険者登録されました……」
◆ ◆ ◆
こうして、“最弱と奴隷”のコンビは、冒険者としての第一歩を踏み出す。
だが彼らの前に現れるのは、魔物でも、ライバルでもない。
この世界に仕組まれた――“神の意志”そのものだった。
《第6話へ続く》