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全く、含みのある言い方をされると腹が立つことこの上ない。


(私を試しているの?)


グランツも意地悪になったものだと思う。前々から、素直かと聞かれたらはいそうです。とすぐには答えられなかったけれど、それでもいくらかは素直だった。こうなったのは、自分の正体がばれたからか、それともこっちが本来の彼なのか。

どちらでもいいけれど、取り敢えずこの状況をどうにかしないと、と思った。


「どういうこと?」

「質問に質問を重ねないでください。エトワール様」

「……意地悪になったのね」


そういえば、グランツは黙ってしまった。まるで、そうです、とでも言うような態度に腹が立つ。結局の所、どうしたいのか、どういう立場なのかよく分からなくなってきた。


(敵に回すと厄介だって、ブライトが言っていたから、敵にはなって欲しくないけれど、アルベドがこちらの陣営にいるから、難しいのよね……)


アルベドがこちらにいる限り、あまり協力的にはなってくれないだろうと思った。だったとしても、それなりに戦ってはくれる。じゃあ、このままグランツの事を放置しても大丈夫なんじゃないかとも思った。

どれが正解なのかは分からない。


「まあ、いいや。グランツが答えてくれないなら、それでも。答えたくないんでしょ?」

「それは……」

「喋らなければ、私はアンタのことスパイだって見なすけど」


私なりに圧をかければ、グランツは降参とでも言ったように口を開いた。初めからそうしておけばいいのに。


「違いますよ。俺が、エトワール様を裏切るような真似するわけないじゃないですか」

「……」

「信じてください」


と、懇願するように言うので、呆れてものも言えなくなって、私はため息をつくことしか出来なかった。グランツと関わるときはいつも彼の心が読めないから困る。心の声も聞こうと思えば、星流祭の時に聞えるようになった為聞けないこともなかったけれど、グランツの心の声を聞くのは気が引けた。何か、怖いから。

それは置いておいて、取り敢えず今はグランツの言葉を飲み込むことにした。それが、嘘にしろ本当にしろ、ここで言い争っていても何も始まらないと思った。


「裏切らないでね」

「はい」

「絶対に。そしたら、もう一生アンタは私に近づく権利を失うから」

「……分かりました」


こうやって、誰かに命令するのは初めてだった。でも、自分でも想像していなかったぐらい冷たい声が出たことに驚いた。私の声なのか、それとも本来のエトワールの冷たさなのかは分からなかった。

エトワールは孤独に苛まれ、そうして闇落ちしていったキャラだったから。ストーリーが進むにつれて冷酷になっていったのかも知れない。我儘で、自分の孤独を分かって貰うために、暴れたのかも知れない。


でも、私は違うと、そう言いたい。


私は、グランツの方をもう一度見た。彼はようやく落ち着いてくれて、その顔に怒りも復讐心も見えなかった。

ただ従順な騎士に戻っていた。


彼の過去を知った。そして、彼が第二王子だという身分も。ヒロインストーリーでは明かされなかった攻略キャラの過去を見てわーすごい、何て思う感情は今の私にはなかった。ただただ悲しくて、何だか恐ろしい深層を見ている感じだった。よりいっそ、エトワールストーリーの闇を見た気がする。

そうして、このゲームは私に何をさせたいのか。本当に謎だった。攻略キャラや周りの人達が疑心暗鬼になって、不安の種が広がっていって。いい事なんて何もなかった。人間のドロドロとした部分ばかりが浮き彫りになって、乙女ゲームとは? って何度自分に問うたことか。


「グランツ、私はもう帰るけど。グランツはこの後どうするの?」

「もう少し、素振りしてから帰ります」

「そう……前々から思っていたんだけど、どうしてこんな所で練習しているの? アンタはもう、認められたんじゃないの?それとも、まだ虐められているとか?」


グランツがこんな人気のない、訓練場から離れているここで剣を振っている理由が分からなかった。まだ、虐められているというのなら文句を言いに行きたいし、プハロス団長ならどうにかしてくれるんじゃないかと思った。自分が認めた騎士が虐めに遭っているなんて、清く正しいあの人が見過ごすはずないから。

そんな風にグランツを見ていたが、グランツは、そうじゃないと首を横に振った。


「そうじゃありません。ただ、あっちで練習するのが……」

「嫌だって言うこと?」

「はい。元々、俺を下に見ていた連中ですし、そんな奴らのことを仲間だとは思いたくありません。俺は、俺の主を守れる力があればそれでいいのです。それじゃあ、ダメですか?」

「ダメ……じゃないけど、でも、集団行動って大切だと思うな。これから、一緒に戦っていくわけだし。グランツも、周りの皆の戦い方とか、剣の振り方とか見習ったりすればいいんじゃない?」

「……彼奴らから学べることはありません。あるとするなら、平民をあざ笑えるような態度でしょうか」


と、グランツは冷淡に言った。


確かに、ここに来たときグランツは平民だという理由で虐められていた。だから、訓練場で素振りもさせて貰えず、ここで練習していたわけだが、私の護衛を務めて、そして本物の聖女だと言われたトワイライトの護衛になって、また私の護衛になってと。認められる要素は沢山あるのではないかと思った。だから、もう虐めはなくなったと思っていた。

グランツの言うことが正しいなら、もう虐めはないのだろうが、グランツがここで練習するのは、グランツの個人的な理由であの人達と一緒にいたくないからだと言った。私が、集団行動がーなんていえる立場じゃないし、私も一人でいるの方が楽な人だから、その気持ちも分からなくはないけれど、それでも、居場所が出来たなら、そこにいてもいいんじゃないかと思った。

何を意地を張っているのか。いいや、初めから、グランツは彼らのことを下に見ていたのかも知れない。下のものを嘲笑って、自分たちに守ってもらわないと生きていけない、税金を納めることしか脳のない奴らだと思っている人が多かっただろう。その意識は今でも変わらないと思う。そう簡単に人が変われないことを、私はよく知っている。


(確かにそんな人達と一緒には練習したくないなあ……分からないでもないけど)


ごもっともだけれど、グランツもグランツで値踏みしていると思った。それに、グランツは人の技術を盗んで取り入れられる才能があるんだから、色んな人の戦い方を見て強くなった方がいいんじゃないかとも思った。教えて貰えないなら、そうやってやるしかないと。


「エトワール様の命令とあらば、そうしますが……そうでないのなら、俺はここでいいです」

「寂しくないの?」

「寂しいなんて感情は、もうとっくの昔に消えてしまったので。俺に残っているのは復讐心と、貴方への忠誠心だけです」


と、グランツはいうと目を伏せた。


可哀相な人だと思ってしまった。そう思うことでしか、生きられない。可哀相な人。

そんなグランツを救ってあげたいと思ったけれど、彼にあるのは私への忠誠心だけなら、それは無理かも知れない。彼に広い世界を見せてあげることが出来たら、グランツは変わるだろうか。グランツの心を動かすものは此の世界にあるのだろうか。

私は、暫くグランツを見つめていた。私が彼の主としてかけてあげられる言葉はないかと。でも簡単に見つかるはずがなかった。


「命令はしない。アンタが決める事だと思う。私は、基本的に人に命令したくないの。対等でいたい、って言いたいけど、きっとこの世界はそれを許さない。なら、私は、その人の意思が尊重できるような行動を取りたい。グランツも例外じゃないから」

「エトワール様」

「自由に生きて欲しいなって思った。何にも囚われずに自由に」

くっさい台詞だなあと思いながら私はそれを言いきった。

グランツは色んな事に囚われすぎだと思った。私よりも年下なのに、色々背負いすぎだし、視野が狭くなっているんだと思う。まあ、何をしようが彼の勝手なのだけど。


「色々あると思うけど、頑張って。私は、グランツの事を応援してるから」

「エトワール様、俺は――――」


そう、グランツが言いかけた時、ふわりと花が舞う。何処にも咲いていないのに、花弁が一気にそこで舞い上がったのだ。


(え、何? どういうこと?)


そんな風に辺りを見渡していれば、私とグランツの間に、一人の少女が姿を現した。


「グランツさん、嘘はいけませんよ。私の大切なお姉様に、嘘なんて罰当たりです」

「トワイライト……」

「ふふ、お姉様久しぶりです。私は、お姉様の味方なので、彼の嘘を訂正しに来ました」


そう言って笑ったトワイライトは、黒く濁った瞳を私に向けた。

乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います

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